テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
好き故に知りたい審神者と、ゆっくり紐解いていかれるのがいい亀甲。でもどこか似ていて、そこから生まれる少し歪なような愛の話。
・審神者(♀︎)×亀甲貞宗(極)
・両片想い
・独自設定あり
酒のせいで頭が回らない。
朦朧とする視界には、ご主人様だけ。懐にある貴女の熱が引っ付いて離れない。どんどん染み込んでいくその感覚だけがハッキリしている。
…いいや、ぼく達は何に酔わされている?
酒のせい、なのだろうか、これは。
はたまた…ああ、愛かも知れない。
少し酔いが回ってきた頃。
どすん。という音が二人分、部屋に響く。
「怪我は無いかい、ご主人様。」
「うん、大丈夫…」
状況を理解すると、私はつまづいて転んだかと思えば、それを庇ってくれた亀甲貞宗にもたれかかっているようだった。しかも彼の胸元に顔をくっ付けて。
「あ。亀甲、下敷きにされたね。」
「ふふ、ご主人様が無事ならなんだっていいよ。」
「ん?うん…」
いつもならもう少し喜びそうなのだが。
不自然に少し沈黙が走る。
「その体勢は楽なものでもないだろう、ご主人様。起き上がっては?」
「私はこうしていたいので、このままで。」
「分かったよ。」
亀甲は長らく近侍を務めてくれていて私からしても特別な刀だが、ここまで密着するのは初めてで気恥ずかしい。あたたかくて変な気分。
そこで、思い切ってぺしゃんと楽にしてみる。少し広い胸元に耳をあてがい、彼を感じる。
…が、耳に伝わるのは返ってきた審神者の心音だけ。
そこに、亀甲の音は無かった。一瞬、命まで無いような、そんなふうに感じた。
こちらのハッとした顔に気付いたのか、彼は苦しそうに笑って私を呼んだ。
「ご主人様…」
その声の振動が身体に伝わる。
ああ、きっと私は彼に隠し事をさせていたのだ。
隠し事、それは秘密より繊細で、少しの後ろめたさが混じるもの。
そんな苦痛は、彼にとって快いものとなるだろうか?
体温はあるのに鼓動だけ聞こえない亀甲の体。空洞に問いかけているようで切なくなる。
この男は人間ではない。当たり前で今更だ。
彼の肌からは血も出るし呼吸だって荒くなるけれど、我々とは異なる存在。
私は審神者で、亀甲貞宗はそれに仕えるモノであり付喪神なのだから。
少し縮んだような佇まいの亀甲が語り出す。
「権限した時から、ぼくだけ拍動が確認されなかったんだ。″ばぐ″というものだと思う。戦や霊力の維持に支障はないみたいだったから、そのままにしたよ。ご主人様の命を果たせるなら、なんでもよかった。」
目を伏せて自分の胸に手を当てながら、亀甲は続けた。
「ご主人様はお優しいから、この事を知ったらきっと悲しんだり、心を痛めると思ったんだ。でもね、ぼくはご主人様を悲しませたくなんかない。増してその理由が、ぼくのこんな些細な事になるなんて絶対に嫌だった。だから、コレについての相談は、しなかった…ごめんなさい。」
「……謝らないで。本当の気持ちを聞かせてくれて、私の事を思ってくれてありがとう。きっとそのお陰で私は安心して話を聞けた。いい子だね、亀甲は。」
抱えてた感情を吐露し、少し零れ出しそうな亀甲を抱きかかえて私は言った。
バグについて、亀甲も交えて後できちんと決める旨も伝えた。
いつの間にか少し固まった互いの姿勢に気が付き、私から体勢を崩して少し近づいた。
「それで…ね。君の気持ちの高鳴りが一つだって確かめられないのは悔しい。けど…今はそれと同じくらいに、また亀甲の″秘密″を知ってしまった幸福感と罪悪感が…私をどうしようもない気持ちにさせてる。」
人間と付喪神の間にある距離は思ったよりも大きい。けどそれだけではない。
遠く感じるのに幸せで、それが今一番私たちを近付けている理由。考えるほど矛盾ばかりで為す術なんて無いように見える。
けれど、様々な対象に向けられるそんなぐちゃぐちゃの感情には名前が付けられる。
「亀甲に聞きたい。いい?」
「勿論。」
「…この気持ちは、なんだろうね。」
彼はふふっと微笑んだあと、答えてくれた。
「……分かっているくせに。言わせようとするんだね?」
「はぁ。そっちも、分かってるのに言わないんだ。」
「ふふふ。理不尽だね、堪らない。」
こうやって彼が物事に対して様々に感情を得るのは、心があるから。
刀として人に打たれ、形を持ったはずの彼は、物理的には触れられない心を持っている。
臓物ではなく、形無きもの。
人間と同じように駆動している部分。
あなたはいつも何を思っているんだろう。
はるねこ
733
82
#ヒプノシスマイク
私を、どう思っているんだろう。
「ねぇ亀甲。君の感情が生まれる心という場所を、私の手で解して、触ってみたい。亀甲が何にどんな反応をするのか、知りたい。それから……もっとあなたを愛したい。」
「…っそれは、好奇心かい。」
「それだけじゃない気がする。…あぁ。知りすぎはいけないの、分かってる上でだからね。」
「うん、秘めることで真に価値が生まれることもある。その上で、ふふ。ねぇご主人様。」
なあに、と聞き返す。
「ぼく達は全てを言葉にしなくても大丈夫だって、ちゃんと分かった。貴女が与えてくれた心で、貴女と通じ合えている。だから…今度はぼくが、形で伝えたい。……許可が、頂けるのであれば。」
律儀に手をお膝にして正座で座る彼はそう言った。こちらは何も指示していないのに「待て」をしているのが従順な犬のようで、何かの衝動に駆られる。
私が許可を与えないとこの子は動けないのだ。可哀想で、可愛い。
「あははっ…『よし』だよ。」
壊れ物を扱うような優しさで腰に手を回された。私は少しの緊張を抱え目を瞑る。
けれどそれは向こうも同じなようで、ぷるぷると震えているのを吐息と熱が近づくほどに感じる。
ぎこちないまま、ふたりの唇は重なった。
想像より柔らかく、蕩けるほど熱い。亀甲の熱に触れて、胸の奥の何かが溶かされた気がした。
どこかへずぶずぶと引きずり込まれるような感覚。
息継ぎをした後、今度はこちらから塞ぐ。しかし少し体を伸ばさないとしっかり届かないのが、身長の差を感じさせた。
互いを懸命に食むような口付けは動物的で馬鹿馬鹿しくて、なのに今は亀甲とそれを続けることしか考えられなかった。
すると、一拍置いて彼の舌が入ってきた。私はそれを噛んで、舐めとる。亀甲の肩がビクリと浮いたのが分かってから口を離した。
目の前の端正な顔立ちは、普段の丁寧な笑顔を崩されていた。
彼の余裕が微塵も無くなるまで、もっと崩したい。
そんな亀甲を、私だけが知れる亀甲を、見たい。
「…布団に仰向けになって。」
「命令なら、喜んで。」
命令通りにした亀甲の両手首を私の左手で拘束し、軽く布団に沈める。もう片方の手で、彼の胸元のボタンをポチポチと解放していく。徐々に露わになる赤色。美麗なその姿に似合わない、あまりに倒錯的な景色が私の感情を掻き立てる。
首元の縄をくいっと引っ張り、自分の顔と近づける。
片手で喉仏を優しく撫でると、その体は縦に一回揺れた。
「…ん、ふふ。今はぼくの生も死も、ご主人様の手にかかっているね。」
「殺したりしないよ。ただ、いつか一緒に死ぬか、死にそうになるまで愛されてしまうかな、君が。」
「愛が重いね?ふふふ……そういう所だよ、ゾクゾクする。」
愛、か。
これは単純な好奇心や利害の一致などではなく、互いの心が望んだものであると私は思う。けれど思い込むだけでは一方的。
だから、また彼に聞いてしまう。
「亀甲貞宗、あなたへ向ける愛として、これは正しいと思う?」
「愛に正解は無いよ、ご主人様。ぼくは、ぼくが愛している貴女が、ぼくを愛してくれて、幸せ。」
「………やっと、愛してるって言った。」
「んふふ、ご主人様が言わせたかな。」
愛し愛されることについては亀甲の方が何枚も上手だ。
それがなんだかずっと先を越されているようで、少しだけ悔しい。
「亀甲の腹の内は見えない。」
「心まで一気に知ってしまうのは、楽しみがないだろう?」
「はいはい。少しずつね。」
「うん。少しずつ、ぼくを絆して、解して、知って、それで…もっと愛して欲しい。」
「欲張り。」
「ふふ、ごめんなさい。でもそれはご主人様だって同じだ。」
「似た者同士、相性は悪くないでしょ。」
会話に一つ休符が入り、二人で同時にくすくすと笑い出す。
「今も、この後だって、私は君のこと愛してる。」
「…ぼくは幸せ者だね。」
今度はまだ、「愛している」とは言わなかった。
それはまるでこの先の為に大事に取っておいているようで、酷く可愛らしくていじらしいと思えた。
コメント
1件
わあ…心音がないってタイトルからもう切ない雰囲気がしてたけど、実際読んだらもっと深かった…。 亀甲が自分のバグを隠してた理由とか、審神者が「知ってしまった幸福感と罪悪感」って言うところ、ぐっときたよ。好きだからこそ余計に知りたくて、でも知ることで壊れるかもしれないっていう葛藤、すごく分かる気がする。 最後に「愛してる」を言わないで大事に取っておく感じも、亀甲らしくてじーんとした…。 白乃さんの描く二人の距離感、すごく繊細で透明で、でもちゃんと熱くて…読んでて胸が締め付けられました。続き、すごく気になるよ…!