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錬金術師ギルドを出たあとは、引き続き街中の食べ物屋さんを巡った。
パンやお惣菜、備品やちょっとしたものを買いながら――
……追加でお料理を作ってくれるところを探したものの、やはり翌朝というのが厳しかった。
とはいえ、何軒も当たったことで、もう2軒のお店でもお願いすることが出来た。
実際のところ、それだけあれば十分だろう。
そもそも携行食だけじゃないという時点で、食事の環境は良くなっているのだから。
「――というわけで、それだけで1日が終わってしまいましたね」
宿屋の食堂でひと段落。
今日もジェラードとリーゼさんはおらず、いつもの三人だ。
「まったくですね。もっと早く動いていれば……。
早目早目が大切だということを痛感しました」
「これも経験ですね……。
もし次があれば、次こそはあっさり準備が終わるかも?」
「ダンジョンに行けば準備の過不足がまた分かってくるでしょうし、そうやって事前準備の理解が深まっていくんでしょうね」
「そうですね。でも今回の準備は無事に全部終わりましたし、あとは明日出発するだけです!
……ああ、行く前にお料理取りに行かなければいけませんけど」
「はい、お料理楽しみです!」
「本題はダンジョン探索ですからね!」
「わ、分かってますよ!?」
でも、途中のお楽しみがあるというのはやっぱり良いものだ。
『今日から5日間、ずっと携行食!』なんて言われたら、やっぱりどこかしんどい部分もあるし。
「……さて。ところで今日は、少し早めに解散しても良いですか?
今日受けた依頼をこなしておかないと」
「ああ、34件もあるんでしたよね……」
「アイナ様、寝不足にならないようにお気を付けください……」
「大丈夫、大丈夫。2時間もあれば終わるはずだから!」
「2時間で終わるのも凄いですけどね……。
ちなみに報酬は、どれくらいもらえるんですか?」
「えぇっと、物自体は大したことないから……全部で金貨30枚くらいです」
S-ランクの錬金術師が受ける仕事とはいえ、全部が全部、高額の報酬では無い。
とは言っても、2時間で金貨30枚というのはやはり破格の報酬ではあるのだけれど。
「2時間で金貨30枚って……。
アイナさん、将来は安定してそうですよね……」
「あはは、おかげ様で。
最近は冒険者ギルドの依頼も受けていませんし、こっちで稼いでおかないと」
「可能であれば、魔物討伐の依頼も受けたいところですが……」
ルークも、そこはしっかり主張する。
戦闘すればするほど強くなる、今は伸び盛りの時期のようだからね。
ルークにも自分の理想とする姿があると思うし、そこは尊重してあげないと。
……ということは、しっかり魔物討伐も受けていかないといけないか。
「そうだね。
ダンジョン探索が終わったら少し落ち着くだろうし、魔物討伐も受けていこう」
「はい、それは嬉しいです!」
ダンジョン探索が終われば、あとに残るのは神器関係が大半だ。
王様から工房をもらうなどの話はあるものの、実際のところは開店休業にしても良いし――
……あ、もしかして営業は必須だったりするのかな?
要らないからといって他の人に売るわけにもいかないだろうし、もしかしたら早まったかもしれない……?
とはいえ、いざとなれば人を雇ったりするのも視野に入れて、私はできるだけ自由な時間を確保することにしよう。
「――っと、それじゃ解散ですね。
アイナさん、引き留めてしまってすいません」
「いやいや、これくらいは別に。それじゃ二人とも、しっかり休んでくださいね」
「アイナ様も無理をなさらず」
「お寝坊は禁止ですからね!」
「耳に痛い。それでは部屋に戻りましょう」
私たちはいつも通り部屋の前までいって、そこで別れることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――2時間後。
私は自分の部屋に戻って、ひたすらアイテムを作り続けていた。
作るだけならもう少し早くできるんだけど、納品用の箱を渡されていたんだよね。
さすがに王族の依頼を、剥き出しの状態のままでは渡せないということで、錬金術師ギルドから箱の提供を受けていたのだ。
「……ふぅ、これでおしまいかな?」
最後のアイテムを箱に入れ終えて、ようやく一息つくことができた。
依頼の内容はレオノーラさん発と思われるヘアオイルや乳液を始め、少し違った美容関係のアイテムが含まれていた。
ムダ毛処理クリームやら化粧落としなんていう、今まで作ったことも無いものもあったけど……そこも問題なく作ることができた。
作れなかったらダンジョン探索のあとにしようと思っていたけど、何だかんだで全部作れたのは良かったかな。
それにしても、こういう風に依頼を受けていると自然と需要のあるアイテムが分かってくるし、工房を開いたときの品揃えの参考になりそうだ。
そんなことを考え始めると、どうしてもお店への夢は広がってしまう。
「でも、本命は神器だからなぁ……」
私の旅の目的である、神器作成。これだけはどうしても譲れない。
クレントスで『神剣デルトフィング』を見たときの、そしてそれを作れることを知ったときの興奮が忘れられないのだ。
『自分しかできないことをやる』
これ以上に興奮できることがあるだろうか。いや、ない。
神器を作ったあとのことは何も考えていないから、将来はゆるゆると工房を切り盛りしていく……っていうのも良いんだけどね。
でもまだまだ、未来のことは想像が全然付かないわけで。
「……さて、アイテムも作ったし、身の回りのことも終わったから……そろそろ寝ようかな?」
((…………))
((…………))
――ん? 部屋の外で、何だか誰かの話し声がする……?
珍しいな、と思いながらドアを開けて廊下を見てみると……そこには誰もいなかった。
方向的にはルークの部屋の方だったけど……誰か来たのかな?
うーん。ちょっと気になるし、行ってみることにしよう。
コンコンコン
ルークの部屋のドアをノックすると、しばらくしてからルークが現れた。
「アイナ様? 珍しいですね、どうかされましたか?」
「夜遅くにごめんね。
何だかルークの部屋から声がしたかな、って。宿屋の人でも来てたの?」
「え? いや、誰も来ていませんよ?」
「あ、そうなんだ。あれ、気のせいだったか……」
「ところでアイナ様は、作業はもう終わったのですか?」
「うん、ちょうど終わったところ」
「それでは明日も早いですし、新しいことに挑戦しに行くのですから……早めにお休みください」
「そうだね、少し神経質になっていたかも? それじゃ、おやすみー」
「はい、おやすみなさい」
そのままルークと別れて、自分の部屋に戻る。
どうやら誰かの話し声……というのは気のせいだったらしい。
……これは恥ずかしい!
今日はもう、さっさと寝ることにしよう……。