テラーノベル
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ダンススタジオの鏡の前で、RYUKIは一人、集中した面持ちで足の動きを確認していた。
「ワン、ツー、スリー、フォー……」
細かいリズムを刻みながら、理想の角度とキレを追求してストイックに汗を流している。MAZZELの中でもそのパフォーマンスへのこだわりは随一で、練習に集中しているときのRYUKIの周囲には、ピリッとした緊張感が漂っていた。
そんなピリついた空間の空気をまったく読まない——あるいはあえて壊しに来るのが、NAOYAだった。
「はいはいは〜い!そこ、ちょっと角度ズレてなーい?RYUKIちゃ〜ん?」
ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら、NAOYAがフロアを横切って距離を詰めてくる。手には冷えたペットボトルを持ち、それをRYUKIの首筋に急に「ペタッ」と押し当てた。
「——っ!? 冷たっ!!」
ビクッと身体を強張らせたRYUKIは、跳び上がるようにして距離を取った。首をすくめ、鋭い目つきでNAOYAを睨みつける。
「なにしてんの、NAOYA!今めっちゃ集中してたのに!」
「え〜?だってRYUKIが真面目すぎる顔して練習してるからさ。ちょっとブレイクタイムにしてあげようかな〜って親心?」
「親心とかいらないんで!てか、毎回毎回集中してるタイミングでちょっかい出してくるのやめてもらえます!?」
「だってRYUKI、怒った顔が一番イキイキしてるじゃん?『バチバチ』って感じでさ〜」
NAOYAは悪びれる様子もなく、むしろ狙い通りの反応が得られて満足そうにクスクスと笑っている。自分のペースを完全に乱されたRYUKIの眉間に、シワが深く刻まれていく。
「イキイキしてねぇし!マジで今、あともうちょっとで感覚掴めそうだったんすよ。マジで邪魔しないでください!」
「はいはい、ごめんって〜。じゃあ埋め合わせに、このお茶あげるから許して?」
「いらないです!」
RYUKIがプイッと横を向き、再び鏡に向かい合おうとしたその時だった。NAOYAがすかさずRYUKIの前に回り込み、変顔を作りながら踊り狂うようなコミカルな動きを見せ始めた。
「ほらっ、RYUKIちゃん!こういうグルーヴはどう!?新しいダンス!」
「……っ、ほんっとうに……!!」
ぷつん、とRYUKIの中で何かが切れる音がした。
「NAOYA!!マジで一回黙ってください!!!」
ついに爆発したRYUKIの大声がスタジオ内に響き渡った。RYUKIは拳を握り締め、ガシガシと大股でNAOYAに詰め寄る。
「なんすかそれ!煽ってんすか!?俺が本気で怒らないと思って調子乗ってますよね!?」
「うわっ、出た!RYUKIのガチ切れモード!怖い怖い〜!」
NAOYAは口元を押さえながらオーバーに怖がるフリをして見せるが、その瞳は完全に面白がっている。RYUKIがさらに一歩踏み出し、胸ぐらを掴む勢いで迫ると、NAOYAも負けじと胸を張ってニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。
「なに?やる気?」
「やる気っていうか、今すぐ表出ろレベルでウザいんすけど!」
「ははっ、いいじゃんその威圧感!その勢いのまま、さっきの振り付け踊ってみてよ!」
「……は?」
一瞬、RYUKIの動作が止まった。怒りで熱くなっていた頭に、NAOYAの言葉が引っかかる。
「さっきのRYUKI、真面目すぎて動きが固かったの。でも今の『ふざけんな!』って勢いとエネルギー、めっちゃカッコいいじゃん。それ乗せて踊ってみなよ」
NAOYAは悪戯っぽい笑みを残したまま、スッと壁際まで下がり、肘を突いて真剣な眼差しでRYUKIを見つめた。
RYUKIはハッと息を呑んだ。胸の中でメラメラと燃える怒りと悔しさ、そして溢れ出るエネルギー。それをそのままぶつけるように、音楽のスイッチを押し、曲を流した。
——カウントが始まる。
RYUKIは激しい感情をそのままステップに乗せた。力強く、刃物のように鋭いキレ。さっきまでの迷いや固さは消え去り、野生的なまでの迫力がダンスに宿っていた。
最後のポーズを決め、肩で息をするRYUKI。
パチ、パチ、パチ、と壁際でNAOYAが満足そうに手を叩く。
「ほらね。やっぱり最高じゃん、RYUKI」
「……っ、ハァ……ハァ……。NAOYA、最初からこれが狙いだったんすか……?」
RYUKIが汗を拭いながら睨みつけると、NAOYAはウインクをして見せた。
「さあね〜?単にRYUKIを怒らせるのが楽しかっただけかも?」
「……マジで最悪だ、この人!!」
「あはは!でもダンス良くなったでしょ?感謝してよね!」
「絶対感謝しないっす!!」
バチバチと視線と意地をぶつけ合いながらも、お互いの信頼とパフォーマンスへの情熱が根底にある二人。汗を流した後のスタジオには、呆れ混じりの溜息と、どこか晴れやかな空気が漂っていた。
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えみ
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