(ちょっと、疲れてきた……)
バイト終わりでそのまま歩き続けている訳だから当然といえば当然だし少し休みたいと思うけど、そもそも私が原因でこうして歩いている訳で、一番の被害者は小谷くんだ。
(私のせいで、小谷くんに凄く迷惑かけてるよね)
バイト終わりなのは彼も同じだし、ましてや彼は私に付き合ってくれている身。彼だって疲れているだろうし休みたいと思っている筈だ。
「ね、ねぇ、小谷くん」
「ん?」
「まだ尾けられてる?」
「いや、恐らく撒いたと思うから、このまま右の路地に入って公園抜けて近道する」
「分かった」
相変わらず彼は表情一つ変えないし、疲れも見せない。
(小谷くん、疲れてないのかな?)
繁華街に入った辺りから掴まれていた腕は離され、私は彼の横をついて歩いていたのだけど、疲れから徐々にペースが遅れて距離が出来ていた。
(は、速い……)
男と女じゃ歩幅が少し違う。彼はスタスタ歩いていて、私はそれについて行くのが精一杯。気付けば速歩きになっていて、余計に疲れが溜まっていく。
「……遅い」
「ご、ごめん……」
私が遅れている事に気付いた小谷くんが立ち止まり、文句を垂れた。怒っているかと思い謝ったけど彼は怒っていなかったしそれどころか、
「……疲れただろうけど、もう少しでアパートだから頑張れ」
気遣って励ましてくれて、それと共に手を差し出してきたけど、その意味が分からず戸惑ってしまう。
「手、貸せよ。引っ張ってやるから」
(あ、手を繋ごうって事だったのか)
「う、うん……ありがとう」
さっきはいきなり腕を掴まれて引っ張られていたけど、今度はきちんと手を繋ぐ気らしい。
(何だか、ちょっと照れる……)
小谷くんは別にそういうつもりはないのだろうけど、手を繋ぐという事を意識してしまうと何だか照れ臭くなる。
(不思議だな……小谷くんと居る時は自然に話も出来るし緊張もしないし、こうして傍に居てくれると安心する)
誰だか分からない相手に付け狙われていて怖いはずなのに、小谷くんが居る事で恐怖心は和らぎ、こうして二人で居るのが楽しいと思う。
「そういえば、今日本屋でどんな本買ったの?」
「あ? 本なんて買ってねぇけど?」
「え?」
「俺、本は基本図書館で借りるだけで自分では買わねぇよ。タダで借りられるのに買うとか勿体ねぇだろ?」
「そ、そうなんだ? じゃあ何か立ち読みしに来たとか?」
「いや? 立ち読みとかもしねぇな。俺、本は座ってじっくり読みたい派だから」
そんな話をしていて私はある事に気付く。
(あれ? じゃあ何で、バイト終わりにわざわざ本屋に寄ったんだろう?)
小谷くんは何故、本屋に立ち寄ったのかという事に。
(方角的に通り道ではあるけど、スーパーからなら別の道から帰った方がアパートまで近いんだよね)
「…………」
(え? もしかして……私を心配して、わざわざ?)
そして考えた末に出た答えは、私を心配してわざわざ立ち寄ってくれたのではないかという結論。
(……もしそうなら、ちょっと、嬉しいな)
それを確かめる事はしなかったので彼の真意は分からないけれど、そうであったらいいなと思いながら、小谷くんのおかげでこの日も無事にアパートへ帰る事が出来た。
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