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西の4人での任務中に🐙🌟がピンチになる話
捏造過多。ご本人様には一切関係ございません。
こちらリクエスト作品となっております。リクエストありがとうございます。
⚠️流血表現、首締め等人によっては不快に思われる描写が多数存在します。気分が優れない場合や上記の表現が苦手な方は閲覧をお控えいただきますようお願い申し上げます。
口調•言動の解釈不一致が起こる可能性があります。こちらも自衛の方よろしくお願いします。
今回は登場人物ごとの括弧分けをしていません。
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暖かな日差しが眠気を誘う昼下がり。微睡む意識を突き破ったのは、若い男の声だった。
「めんどくせえー!」
扉を乱暴に閉めた男───伊波ライは音を立て椅子に座り、足を大きく開いてため息をついた。このところ忙しさに拍車がかかっていた為か、彼の全身から疲労感が滲み出ている。
小柳くん曰く、お盆の時期は幽霊や妖魔の類の動きが活発になるそうだ。つまり、現在の西は繁忙期である。
「まただよ山奥の任務。移動めんどくさいんだよマジで、インフラ整備しろ!」
「うちのメカニックが怒ってんぞ。カゲツなんとかしろよ」
「ほっといた方がええでこれ」
「たしかに。触らぬ神に祟りなしって言うしな」
マイペースな狼と忍者は荒れたメカニックのことを放っておく選択をしたらしい。俺もそれにならい、無言で水を差し出してスマホに向き合う。しかし、彼の一言で俺たちの平和な昼下がりは終わりを迎えた。
「あ、今回の任務4人でだから」
という拠点での出来事から数時間後、とある山の中腹。最初は無駄話をやいのやいのと言いながら進んでいたが、弱い妖魔やら幽霊やらが出るようになってから小柳くんの空気が変わった。
人一倍その類の扱いに長けている彼が気を張るということは、それなりの相手であるということ。しかし、ここまでの道のりでは俺たちでも簡単に対処できるものしか出てきていない。だからこそ、彼がここまで警戒する理由が分からない。
「なぁオオカミ、今回そんなやばいん?」
「4人で行けって言われてる時点で危険ではあるだろ」
たしかに、4人での出動命令は稀だ。基本的にしょうもないことをする小賢しい連中相手に多くのヒーローの人員が割かれることはない。現場でばったりなんてことはあっても、チームとはいえ単独任務が多い。むしろそれは平和の証でもあり、ヒーローとしては嬉しいことである。
「神様の成れの果てなんて言ってたし、やばいんはそうなんやけど、あんま気配感じんからさ。なにがやばいんかわからんくて」
「気配がないからヤバいんだよ」
「どゆこと?」
首を傾げるライは俺以上に妖魔の気配に疎い。彼の後ろをふわふわと舞っていた蝶のような妖魔を手で払いながら小柳くんが口を開く。
「仮にも神ならこの辺は神域。神の気配でどこにいるかなんて一発でわかるんだよ」
「なのにどこにいるか分からないってこと?」
「そう。わかんねえし、基本的に神の領域なら低級の妖魔はそもそもいない。入れないからな」
「逆に悪い気配には妖魔が集まりやすいとかあるもんな」
小柳くんはカゲツの言葉に前を見据えたまま頷いた。
「だからまあ、神から妖魔になったってのは間違いないんだろうけど」
「にしては気配がなさすぎると」
「そゆこと」
「まあ、簡単に祠まで来れちゃいましたしね」
目の前にあるボロボロの祠。きっと手入れがきちんとなされていた頃は立派だったのだろう。今は中心に置かれたお札の貼られている鏡だけが綺麗に残っていて逆に不気味だ。
「この鏡が依代っぽいから壊せば終わると思う。俺がやるけど、仮にも元神だし時間かかりそうだな」
「じゃあロウが壊してる間、オレは上に言われてる記録取るからここいるね」
「伊波がここおるんやったらボクとタコで周りに湧いてる妖魔やるか」
「はあーい。小柳くん早くしてくださいね」
「わかってるよ」
それぞれが配置につき、小柳くんが鏡に手をかざす。
途端、空気が重くなる。圧倒的な気配と圧迫感に押しつぶされそうだ。ボロ雑巾を煮詰めたような澱んだ空気が肌にまとわりついて気持ちが悪い。
「っ、う゛ぇ」
えずいた喉の奥が迫り上がってきた胃液で熱くなる。少し離れた所からも忍者のものと思われる荒い息が聞こえてくる。立っているのもやっとだ。本当なら今すぐ地面に倒れ込みたい。でも虫がいるかもしれないからそれはやめておきたいな。なんて呑気なことを言っていられるほど楽なものでもないのだが。
ライは大丈夫だろうか。彼は特に耐性が無い。
小柳くんがいるとはいえ依代のすぐそばにいるならここよりもっと澱みが酷いだろう。
少し先の方から妖魔の気配がする。動き出した神の力に当てられて出てきたようだ。他にもちらほらと気配がする。
今にも地に伏しそうな身体を無理矢理持ち上げて走り出す。なるべく小柳くんから離れた所で戦わなければならない。依代を壊す間彼は動けないし、ライも妖魔相手には相性が悪い。
「しんど、はぁ、がんばるか」
そう独り言を溢し、トランクを振るった。
どれほどの時間が経ったか。空気が軽くなり、澱んだ空気を制するように冷たく凪いだ空気が流れてきた。小柳くんの術が順調に進んでいる証拠だろう。もう少しだと震える身体に鞭を打ち、見える範囲では最後の一体となった妖魔を祓う。
「…ふぅ」
一息ついてトランクに腰掛けた瞬間だった。
「星導!」
「え、ライ?」
「うん。ロウが依代壊し終わったから呼びにきた」
「ああ、そうなんですか」
たしかに空気は普通の山と変わらぬものになっている。しかし、何故だか変な汗が止まらない。
「あの、ライ。カゲツは?」
「ロウが呼びに行ったよ」
「通信機使わなかったの?」
そう、俺たちには通信機がある。普段から任務中の意思疎通は耳に付けたこの通信機で行なっている。
そういえば今回は戦っている最中も静かだった。いつもならもう少し情報共有があるはずだが。
なんとなく嫌な予感がして目の前の彼から距離を取る。
「どうしたの星導。なんで離れるの?」
「あなた、本当にライですか?」
音がなくなった。目の前の男は身じろぎひとつせずにじっとこちらを見つめている。
しくじった。今聞くべきではなかった。他3人の状況を確認して、策を練ってから計画的に動くべきだった。どうする、このままでは。
「うん。ホンモノだよ」
彼がそう言って笑った瞬間、ぐにゃりと辺りの木々が歪んだ。視界が明滅し、身体の中身を全てひっくり返されたような気持ち悪さが襲う。
「ぅ゛、ぇ、っは?」
思わず地面に膝をつく。
「馬鹿だね。気づかなかったらそのまま楽に死ねたのに」
ライじゃない。ライの見た目でライの声で、ライの話し方なのに、違う“何か”だ。
「ら゛ぃ、を、どうし、たんです?」
「ここまできてまだ仲間の心配?お人好しすぎるでしょ」
歪んだ視界の隅で彼が大きなハンマーを振るうのが見えた。ほとんど勘でそれを避け、触手での反撃を試みる。けれど、いつもより自分の反応が鈍いのが分かる。違うと分かっていてもその顔を見てしまったら。
「あ゛ぁ゛ッ」
「うわ、ぶよぶよしてる。グロ」
切られた、触手。ハンマーじゃなかった。目で追えなかった、何で切られた?肩と腹も痛む。この液体なんだろう。ああ、血か、自分の。
「っ゛、はっ、はぁ゛、ぅ゛」
痛い。あと触手は何本動かせる?感覚が無い。全部切られたのか?いつの間にか空気が重くなっている。ボロ雑巾を煮詰めたような、これは。
「神………?」
「そう呼ばれてた時期もあったね。今や妖魔にまで落ちこぼれちゃったけど」
目の前のライの姿をしたものから神の成れの果ての気配がする。
「ロウがなかなかしつこくて。意地でも祓おうとするもんだからさ」
「その口調、やめてもらえます?ライじゃないんですから」
大怪我もなんてことないように繕って話す。弱みを見せればその時点で終わりだ。
「なんで?オレは伊波ライだよ。完璧に伊波ライの身体を再現したんだから、ホンモノと変わらない。記憶もあるしね」
「伊波ライは濁りのない人間です。あなたみたいに汚れた中身は入っていません」
「神に向かって汚れた、ねえ」
さらに空気が重くなる。倒れ込んだ土の湿った感触が気持ち悪い。手の甲を虫が這う感覚がする。触手の再生も遅い。内臓は相変わらずしっちゃかめっちゃかにされたままのような感覚が残っていて吐き気が止まらない。
「たしかにこの身体のガワは伊波ライそのものだよ。星導の言う通り中身が妖魔ってだけでね。でもオレ、依代壊されちゃってるからもう長くは持たないんだよね」
嫌な気配はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「なんでオレが星導のところに来たか、教えてあげようか?」
首に体温のない妖魔の手が添えられた。逃げなければならない。しかし、身体が思うように動かず逃げられない。
「オレの依代になってもらうためだよ」
手に力が込められる。首をきりきりと絞められ上手く息が吸えない。
苦しい、痛い。
「ぁ゛っ、かっ、はっ゛、」
「ロウは論外。カゲツも素質はあるけど無駄に気配に鋭いせいでやりづらかった」
それはただの作業を遂行するかのように、淡々と語り始めた。
「伊波ライは普通の人間。脆すぎて神の力に耐えられない」
「ぅ、ぐっ、ぁ、っ」
手がかたかたと震えだす。足をばたつかせようにも力が入らない。
「けど星導ならロウとかカゲツよりも気配には疎い。その分やりやすいし、オレを入れても壊れないだけの土台がある。変なの中に飼ってるよね」
宇宙だっけ、と妖魔は楽しげに笑いながら言った。その声で、顔で笑わないでくれ。
「っあ゛、ひゅッ、ぅ…」
妖魔の手を引っ掻く。するとそれは苛立ちをあらわにして舌打ちをし、さらにその力を強めた。
「ぅっ、ぐぅ……ひゅッ、」
「なのにさあ、気づいちゃうからこんなことしなきゃいけなくなったんだよ。本当なら祠までの道のりでゆっくり入り込んで乗っ取るつもりだったのに」
「……ぁ゛っ、?」
乗っ取る?俺の身体を?
「そうだよ。オレの器になってもらう。そしたらオレは星導を依代にして、現世に安定して留まれる」
「っ、ひゅッ……ひゅッ、」
まるで会話が成立しているみたいだ。俺はもう声なんて出せないのに。
「オレには星導の考えてることが分かるからね。同化がうまくいってる証拠だよ。もう少しで星導は完全にオレの器になる」
そんなのごめんだ。ライの顔してるんじゃねえよ。くそ、だから本気で攻撃するのを躊躇った。躊躇ってしまった。
意識を落としたら終わりだ。それなのに、視界が暗くなってきた。身体の力が抜けていく。もう触手も動かせない。喉から変な音が鳴ってきた。
苦しさすら、もう感じない。
「それじゃあ身体もらうね。ありがとう星導」
気持ち悪い。嫌だ。なんで。冷たい。
ああもうだめだ、本当に死───
「タコ!」
目の前の“何か”の身体が傾いた。首にかけられていた手から力が抜ける。
「っ、はッ、はーっ、けほっ、けほっ゛」
血の味がする息を必死で吸い込む。
狭まった視界ではよく見えないが、妖魔の頭に鈍色の何かが刺さっている。それは、クナイに見えた。
「ぇ゛ほっ、くっ、はぁ゛っ、か、げつ?」
「そうだよ星導!大丈夫、本物のオレたちだから、遅くなってごめん!」
「らい…?」
「うん。ライだよ」
ライだ、ライの声だ。本物のライの気配がする。背中に当てられた手はきちんと体温を持っていて温かい。
「はっ、ぁ゛、けほっ、ごほっ、ぅ゛はっ、」
「落ち着いて星導。頑張って、ゆっくり息吸って」
「はーっ、ふぅー、けほっ。…うん、ありがとう。ちょっと落ち着いた」
「よかった。あとはオレたちじゃ妖魔は無理だから、頼むしかないな」
そう言ってライは目の前で戦う忍者と妖魔に目を向ける。
「もう、しつこいな。神の依代壊しといてさらに楯突くつもり?」
「伊波の顔と声で喋んな。気持ち悪いわ」
カゲツはライの姿をした妖魔に容赦なくクナイを投げつけた。
ハンマーを振るいクナイを払う妖魔にも忍者の里のエースは果敢に向かっていく。素早く身軽な動きは洗練されており、妖魔を圧倒していた。弱っているとはいえ元神と、しかも自分が手も足も出なかった相手と互角以上の戦いをする彼の強さを改めて実感する。
元神はカゲツとの攻防の中でとうとう姿を保つことができずどろどろと溶け始めていた。動きが鈍ったその瞬間、ここぞとばかりにカゲツが距離を詰め、喉元にクナイを突き刺す。 すると妖魔は、溶けかけたライの顔を不気味に歪めて笑い、血としわがれた声を吐き出した。
「くそ、もうお前でいい。寄越せ!」
妖魔はその溶けた腕をカゲツに向かって振るう。しかし、その腕が届く直前。
「───抜刀」
青い一閃。音もなく振り下ろされた刃がその身体を斬り裂いた。溶けた身体がぐちゃりと嫌な音を立てて地面に落ち、霧散する。
終わった。元神を、妖魔を祓えた。
「うわー、なんか複雑。自分が溶けて死ぬところ見るって」
「遅いわオオカミ!」
「これでも急いだんだよ。依代壊して後始末までしたんだぞ」
「しらんわそんなん」
「お前マジ?」
あれほどの強敵を倒したとは思えないほど普段通りの会話をする3人になんだか力が抜ける。
「はあ…」
「星導大丈夫?相当やばかったけど」
「死んだかと思いましたよ」
「こわあ、よかった間に合って」
本当にそれが死にかけた仲間にかける言葉かよとツッコミたくなるほど軽いライの言葉に苦笑する。彼こそ自分の身体をそっくりそのまま再現したものを見た直後だというのに。メンタルが強いのか、それとも鈍感なのか。
もうなんだかどうでも良くなってきた。元神相手に少しは時間稼ぎしたし、助けてもらったけど疲れたし。少しくらい迷惑かけてもいいですよね。
「あ、おいお前寝るなよ!?運ぶの大変なんだからな!」
「おいタコ?おい!こいつまじで寝たで」
「置いてっていいんじゃね」
「それでええか」
「無駄にデカいから運ぶの面倒なんだよな」
「引きずる?」
「あり」
「やめてください!歩くから!」
むしろここまでいつも通りでいられるのが良いところだよな。もう少し労わってくれてもいいけど。そう思いながら立ち上がる。土と血で汚れた服も、ボサボサになってしまった髪も拠点で一気に綺麗にしてしまおう。
「今日は定休日ですかね」
そう呟いて、見慣れた3人の背中を追いかけた。
コメント
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リクエスト答えていただき、ありがとうございます!クオリティや解像度が高すぎてすごすぎます!!!!!同期愛を感じれてすごく面白かったです!