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・初心者です。
以上が無理な方は🔙推奨になります
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side.暇なつ
「……っは、げほっ……!」
静まり返った自室。ベッドの端に膝を抱えて座り込んだ俺は、口元を押さえて激しく咳き込んだ。喉の奥が熱く焼けるような痛みに襲われ、たまらず掌を開くと、そこにはピンク色の花が、
「……また、だ……」
…そう。高校一年のときはまだ平気だったが、最近、花を吐くようになってしまった。
自分の掌に落ちた花を見つめながら、俺――暇なつは、小さく息を吐き出した。 これはただの咳じゃない。
以前、気になって調べた。
恋をした人間が、その想いを叶えられずにいると、やがて苦しみながら花を吐き出してしまうという病――『花吐き病』だ。
信じられないかもしれないが、本当の話なのだ。 なぜなら今、俺の胸の奥で暴れているこの切なさと苦しさは、まぎれもなくそれだ。
_____
相手の名前は、すち。 3年生で、この学校の生徒会長を務めている人。
全校生徒の前に立つその姿はいつもおっとりしていて、ほわほわとした優しい空気に包まれていて。誰に対しても分け隔てなく柔らかい笑顔を向ける姿は、いつだって校内で眩しく輝いていた。 だけど、生徒会役員でもない、2年のクラスで過ごしている俺なんかとは、これまでまともに話したことすらないわけで。
すちさんから見れば、俺なんて「全校生徒のひとり」くらいの認識でしかないはずだ。
…いや、そろそろ認識されてない可能性もある。
「……面識なんて、ほとんどないのにな……」
事の発端は、一年の時。気づけば、廊下の向こうに見える姿を目で追うようになっていて、すれ違うだけのわずかな瞬間に胸が締め付けられるようになっていた。 その「好き」という気持ちが、いつの間にか体の中で溜まり、ついにこんな綺麗な、それでいて残酷な花に姿を変えてしまったらしい。
誰にも言えない。言えるわけがない。 こんな片思いのせいで病気になったなんて知られたら恥ずかしすぎるし、何より、あの優しいすちさんに気負わせたり、困らせたりしたくなかった。
だから、一人で隠し通すつもりだった。 痛む喉を潤そうと、デスクの上にあったマグカップルに手を伸ばそうとした、その時だった。
コン、コン。
「おーい、なつ。入るぞー」
ドアが軽くノックされるやいなや、無遠慮に開け放たれた。 そこに立っていたのは、俺の1歳上の兄――らんだった。
「……っ!」
反射的に口元を覆い、吐き出したばかりの花びらを隠そうとしたけれど、もう遅かった。 部屋に入ってきたらんは、俺の異様な様子と、ベッドの上に散らばるピンク色の花に、すぐ気がついた。
「……なつ。お前、それ……」
らんはゆっくりと俺に近づいてくると、その足元に落ちた花びらをじっと見つめた。
「……花吐き病、だよな。それ」
「っ……、違う、これは……!」
必死に取り繕おうとしたけれど、声がかすれてしまってうまく言い訳ができない。
らんは、今まで俺がなんか嘘ついても、見破ってきたりして、バカなのに、鋭い。ムカつく。
「隠すなよ。兄貴だぞ。……で、相手は誰なんだよ? そんな風になるほど、誰に惚れたんだ、なつ」
_____
静まり返った部屋に落ちた。 ごまかそうとしても無駄だと悟った俺は、膝を抱えたまま、悔しさと気恥ずかしさでぎっと唇を噛み締めた。言えるわけがない。相手が誰かなんて、口が裂けても教えられるものか。
「……別に。ほっといてくれよ」
「ほっとけるわけないでしょ!兄だもん」
いつもはあんなにスベりまくってるくせに。こういうときのらんは、驚くほどしっかりしていて、優しさを感じる。
それが余計に気恥ずかしくて、俺はプイと顔を背けた。
…こうなったらんは、止まんないもんなぁ、
「……相手は、3年の……すちさん、だよ」
ぽつりと、掠れた声で零れ落ちたのは、自分でも驚くほど情けない告白だった。これ以上隠し通す気力が、今の俺には残っていなかったらしい。
「__っ、」
らんはわずかに目を見張り、それから、どこか納得したような、深く息を吐き出すような顔をした。
「すち、か……。あいつ、生徒会長の?」
「……そうだよ。面識なんてほとんどねぇし、あっちからすりゃ俺なんてそこら辺の生徒の一人だろ。こんな気持ち、知られたって迷惑なだけだ。だから、誰にも言うなよ……!」
必死にそう言い募る俺の頭に、らんは大きな手をポンと置いた。乱暴だけど、温かい手だった。
「言わねぇよ、誰にもな。……けどさ、なつ。黙って耐えて、花吐いて苦しんでるの、兄貴としては絶対に認めねぇからな」
「うるせぇ……どうすりゃいいんだよ……」
「安心しろ。すちとは、親友だし、話し合える仲だ。……ちょっと、俺に考えがある。任せとけって」
そう言って、らんはおかしな自信を含んだ笑みを浮かべたのだった。 あのときの兄貴の背中が、少しだけ頼もしく見えてしまったのは、ここだけの秘密だ。
コメント
1件
読ませていただきました……! 花吐き病、切なすぎますね……。ピンクの花びらが掌に落ちる描写がとても綺麗で、それでいて胸が苦しくなりました。 すちさんへの想いを隠そうとするなつくんの気持ち、すごく伝わってきます。「言えるわけがない」って諦めてる感じが切なくて。でもそこに兄のらんくんが踏み込んでくる展開、続きが気になりすぎます! 「親友だし」って言葉にドキッとしました。この後どうなるんだろう……!