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とよ
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行儀が悪いと分かっているが、壁にもたれかかる。やっぱりリツキさんは着替えるのに時間がかかっていそうだ。
オレはサイズさえ一緒なら任せる、でさっさと服を借りてしまったが。
どうせ何を着ても体格や見た目のせいで着られている感じは消えないのだから、選んでも面白くない。
「お待たせ! 待たせてごめんね。時間かかっちゃった」
弾んだ声で待ち合わせ場所にリツキさんは現れた。少し淡いけれどその色には見覚えがある。そう、それはーー
「えっと……僕の目と似てる色だな、そのドレス」
リツキさんはきゅっと淡い藍のドレスのスパを握って困ったように俯いている。
こういう時にどう言えばいいのか分からなくて、咄嗟に出た言葉だったけれど、少し、その、まずかったかもしれない。
急にオレの目と似ている色だからと言われても反応しづらいだろう。似合っている、で良かったのに照れが出てしまった。
「あ、えっと、間違えた。気にしないでくれ、似合ってる。いいドレスだと思う」
……余計に俯いてしまった。どうしよう。
「彼女、照れているだけだと思うんですけど、ルカ・ヘザー」
かすかに聞き覚えのある声に振り向く。彼女は、確か寮にいた新入生の一人だ。
着飾っている周りの女性陣とは異なり、古いローブを身につけている。彼女の家で受け継がれている礼服用のローブだろうか。
礼服用のローブが小柄な女性用に仕立てられることは少ない。何か事情がありそうだが、踏み込むべきではないだろう。
「何を驚いているんですか? ルカ。リツキ・クロウフィールドはあなたの言葉に照れているんだと思いますよ」
オレが彼女のことを覚えていないのだと思ったのか、ユアメリー・ヘイズメアです、と少女は名乗る。
オレとリツキさん、どちらの様子も特に気にしていない態度だ。寮で会った時も感じたが、独特なペースを持っている。
「あ、あのね、ルカくん。照れてるっていうか、ちょっとびっくりしちゃって……! ユアメリーちゃん、そ、そういうことなの」
いつもより随分早口にリツキさんは説明する。そう言えばユアメリーに対しても親しげだが、どのタイミングで仲良くなったのだろう。
「そ、そう。ならいいんだけど。……いい?」
落ち着きのないリツキさんの様子に自分もなんだか妙な調子になってしまう。照れているというユアメリーの評価も落ち着かない。
別に、照れられるようなことは言っていないはずだ。変なことを言ったことは認めるが。
「お二人とも緊張してるんですか? 固いですけど。羽目外さないと駄目ですよ。こういうパーティは」
聞き慣れない着信音が響いて咄嗟に自分のポケットを確かめる。何もなさげにユアメリーは自分の携帯端末を操作していた。
「連絡先、送っておきましたから。確認しておいてください、後で」
「どうして僕の携帯端末が……」
あ、とリツキさんが簡単にその理由を教えてくれた。どうやら全生徒に配られているこの携帯端末の名前からオレの物だと判別がつくのだという。
こんな機械を介さずに魔法で普段先生や先生の仕事相手とやりとりをしていたから、まだ慣れない。リツキさんは飲み込みが早いと感心した。
「リツキ、早く会場に行きませんか? お菓子もお肉も食べ放題みたいですよ」
ユアメリーは静かに目を輝かせている。こんな人だったのか……? 寮であった時とは印象が違う。
「あ、えっと、ルカくんも……行こっか?」
よく分からなかったあの瞬間なんて存在しなかったかのように、ユアメリーのテンションに圧倒されている様子のリツキさんが、オレに視線と言葉を投げかける。
「分かった」と小さく頷いた。
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