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「結局、アリエッタちゃんのお母様は何者なのでしょうか?」
ローテーブルの被害はスルーし、フレアは女神としてのエルツァーレマイアの話に戻した。
「怒りに任せて調査しに行った神によると、どうやら木の実や野菜を創造し、色をつける事が出来る力を持つ女神のようです」
「……それでヤサイオンナか」
「いや怒りって……」
イディアゼッター達は、既にエルツァーレマイアの調査を終えていた。そもそも実りと彩りの女神が自由に次元を行き来しているのだ。同じ事が出来ないわけがない。
ほとんどの神が次元を渡らない理由は、言葉も文明も違い過ぎて意思疎通が難しいうえに、必要な物は創造出来るので、交易などの意味も全く無いからである。次元を超えて付き合う理由が無いのだ。
それでも世界を参考にする為に見学に行ったり、興味や道楽で相手の言葉を覚え、遊びまわる神もいるが。
「えっと、実りという事は、エルさんは破壊神とかではないと」
「はい。木の実で世界を変え、いくつも滅ぼしました」
「わけがわからん」
「能力は使い方次第というが……スケールがヒトの理解を超えているな」
「まぁアレでも一応神ですから」
エルツァーレマイアに対する嫌悪感を隠そうともしないイディアゼッター。アリエッタの中にいなければ、ネマーチェオンで空中ダッシュから殴り飛ばしていたかもしれない。
「っとそういえば、奴に娘がいたのですね。アリエッタちゃんは、どのような娘でしょうか?」
湧き上がってきた怒りを収める為に、次の話題に進む事にしたようだ。
「アリエッタちゃんはとっても良い子よ。言葉はまだうまく通じないけど、ミューゼ達の言う事はしっかり聞こうとするし、頑張って妹の世話をしているし」
「イモウトじゃないからな!」
「そうですか。たとえ母娘でも、別の存在という事でしょうか。顔と力以外は似ていなくてよかったです」
ネフテリア達の評価は高いので、イディアゼッターは安心するが、
「アイツ、がんばりすぎて、たまにメチャクチャなコトするからなぁ……エテナ=ネプトのホシとか、けしとばしたじゃないか」
「……やっぱり母娘って、似るんですねぇ」
お早い前言撤回である。
他にも、アリエッタが関わった珍事件を、ピアーニャは全て話していった。ニーニルをメレンゲで埋め尽くした話をした時は、何とも言えない顔になっていたのを見て、ネフテリアがその気持ちは物凄く分かると言いたげに、うんうん頷いていた。
すっかり評価が低くなったと思ったネフテリアは、アリエッタ本人の生活について話した。絵の事、折り紙や模型の事、ミューゼへの想いなど、分かっているプライバシー情報は全て包み隠さずに。
「なるほどぉ……」(既にこちらの住人になってるじゃないですか。もう駄目だぁ……)
悪意無き厄災母娘には帰ってもらいたかったが、それ以上にこちらの次元に馴染んでしまった幼い女神の恋心を切り離す考えは、大人の神として出来なかったようだ。
なお、ヒトの肉体は次元を超えられないので、ミューゼごと送り出すという選択肢は無い。せめて母親だけでも早く帰ってほしい、娘だけでもまともに育ってほしいと、頭を抱えながら願うしかないのだった。
王城での話を終え、ニーニルに帰る前に王都でショッピングを楽しんでいるムームーとクォン。2人とも可愛いというのもあるが、クォンの恰好が煽情的な為、人々の目を引いていた。
その為、声をかけてくる男もいたりする。
「ねぇキミたち。僕と──」
しゅばっ
「おわぁっ!?」
「はい本日6人目。お疲れ様でしたー」
ナンパの撃退に慣れているのか、ムームーが一瞬で縛り上げ、道端に放置する。そしてクォンの目にハートが浮かび、ムームーを熱く見つめる。放置された男はその様子を見て、ガックリと項垂れた。
「くっ、尊さ専門のカップルだったか……」
「いやいや……」
なんだか頬を紅潮させながら悔しそうにする男。ムームーが呆れ顔で否定しつつ、クォンを連れてその場を去った。
「まったく。あの人は見る目がありませんね。ムームーさま」
「いやいやいやいや、キミの観察眼が凄すぎるんだと思うなぁ」
「そうですか? まぁ、クォンはこれでもJKですからね。間違えるなんて事はしませんよ。ふふん」
「? よく分からないけど凄いね」(帰ったら詳しく聞いた方がいいかな?)
道行く人々には、その会話の内容はまったくの不明だったが、そんな事より可愛いからヨシと、顔をだらしなく蕩けさせて納得していた。
2人はこの後も、寄ってくる男を縛り倒しながら、ショッピングを楽しんでいった。
「帰ってきたばかりだし、あたし達はもう家でゆっくりするよ」
「そうだし? ゆっくり休むしー」
のんびりと食事を終えたミューゼ達は、家の方へと戻った。
新作を携えたフラウリージェの店員達が、チラチラと食事中のアリエッタを見ていたが、流石に帰ってきたばかりの少女を着せ替えで酷使するわけにはいかないと、ノエラが睨みを利かせて、暴走を防いでいたのだ。
その中でもルイルイはパフィと食事を共にし、ムームーについて聞いていた。同行を頼んでいた筈だったのに、総長ごといなかった為である。
「よし。アリエッタ、おいでー」
「はいっ」
家に戻ったら名前を呼ばれたので、元気よく返事をしたらミューゼに抱き上げられた。向かう先は風呂である。パフィも同行し、挟まれたアリエッタは逃げられない。
「……あぅぅ」
風呂に入る前は元気だった少女は、ぐったりして運ばれた。久しぶりだったせいか、刺激が強過ぎたようだ。今もパフィの柔らか過ぎる凶器に包まれ、目を回している。
「本当はこんなに疲れていたのよ?」
「仕方ないわねー。今夜は一緒に寝てあげない?」
「いいのよ。後でミューゼの部屋にいくのよ」
この後も2人に挟まれ続ける運命が決定したアリエッタ。果たして疲れは取れるのだろうか。
「ミューゼー、パフィー、いるー?」
「およ? ムームーの声なのよ」
丁度王都から帰ってきたムームーが、ミューゼの家の裏口を叩いた。風呂に入っている間に、姉のいるフラウリージェに到着していたようだ。
「帰ってきたのよ?」
「うん。今後はちょくちょく顔を出すから、先に一応挨拶にね」
ムームーの隣には、しっかり服を着たクォンが立っている。王都で注目を浴び過ぎていた為、途中で購入したのである。
そのクォンは、ふわふわした服は着慣れていないのか、常にモジモジしている。
「うぅ、アリエッタちゃんまで、そんなに見ないで。服って恥ずかしいよー」
「いやぁ。この子、服を着る事に抵抗が凄くって」
「えっ、そういう人種なの?」
「そうみたい。エーテルスーツ?っていうのが、住んでたリージョンの標準なんだってさ」
「あの水着みたいな服?」
「そ。目立つから無理言って着てもらったけどね」
露出に関する価値観が逆なんだと、ミューゼ達が理解したところで、ムームーとクォンは後ろのエルトフェリアに向かった。食事がてらゆっくり過ごすらしい。
話の途中で、なんとなく美女2人にベッドへと引きずり込まれていく事を察したアリエッタは、視線で救助を訴えたが、届く事は無かった。
「……なんか、あのアリエッタちゃんって子、助けて欲しそうにムームーさまを見てませんでした?」
「そう? のぼせてたみたいだから、潤んで見えたと思うけど」
惜しくも訴えをスルーした2人は、ムームーの姉であるルイルイが働くフラウリージェへとやってきた。
店にはそれなりに客も入っていて、店員達が忙しそうにしている。高級店となってしまった影響か、一部の小物は少し高い程度なので定期的に売れているが、アリエッタデザインの服はかなり高値となっている為、多売とはいかない。人形に着せて飾っている服を憧れの目で眺める者、その後に値段を見て葛藤する者、稼ごうと気合を入れ直す者など、人気はあるが1日に数着も売れないのだ。それでも多大な利益を出しているようだ。
店に入ってそんな光景を眺めていると、ルイルイが気付いた。
「あ、ムーちゃん。おかえりなさい」
「ただいま姉さん」
挨拶の後、部屋に戻る事をノエラに言い、3人でルイルイの部屋に戻…ろうとしたら、ノエラもついてきた。
「なんか面白…ではなく、店員の家族の問題になりそうでしたから、聞いておいた方がいいかと思いまして」
仕方ないので4人で部屋へ。テーブルの布地などを片付け、ヴィーアンドクリームで買ってきた飲み物を並べた。
ちなみに、ルイルイが現れた瞬間から、クォンはガチガチに固まっていたりする。
「さてと。まさかムーちゃんが女の子をお持ち帰りしてくるとは思わなかったけど、紹介してもらっていい?」
「お持ち帰りかどうかは、まぁ置いといて。彼女はクォン。まだ未発見のリージョンからやってきたのを保護しました」
「ふ、ふつちゅかものでつがよろちくおねがいしみゃすっ!」
(噛んだ!)
(めっちゃ噛んだ!)
(最っ高にカミカミですわ!)
真っ赤に染まるクォンを見て、ノエラはとても満足そうにしている。これを見ただけでも、ついてきた甲斐があったようだ。
「って、その挨拶はなんか違うんじゃ……」
「ふええっ!?」
指摘されて慌てる姿を見て、今度はルイルイが満足そうに頷いている。そしてムームーを射殺すような視線で睨みつけた。
「ムーちゃん、この子気付いてるみたいだけど、自分から正体を明かしたの?」
ムームーは姉に正体を隠し通すように、命令されていた。それもシーカーになる前から。その命令は弱みでもあり、絶対に逆らえないようになっているのである。
そうしている理由は、主にムームーの娯楽。決して本人が望んでやっているわけでは無い。年季が入っているせいで、通常では見破れない程まで馴染んではいるが。
その事を知っているのは、フラウリージェの店員達と、上司であり責任者であるピアーニャとロンデルだけである。一部の女性シーカー達は気づいているようだが、口外はしないようにしている。
「ち、違うから! みんなが見てる前で一目で見破られたから……」
「ほう?」
慌てて正直に答えると、ルイルイの目がキラリと光った。
「なるほど、これはルイルイも認めるしかないですわね」
「ええ、この子しかいません。運命ですね」
ルイルイとノエラの会話を聞いて、ムームーはため息を吐いた。姉には逆らえないという事もあり、色々と諦めたようだ。しかしそれでも、クォンを見る目は優しい。
「では……クォンちゃん」
「はひっ!」
「弟の事を、よろしくお願いしますね」
その夜、フラウリージェでは宴会が開催された。