テラーノベル
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――98――
暗闇の中、そんな数字がぼんやりと目の前に現れる。意味も解らず、俺はただ暗闇の中でその数字を見つめる。
俺は……死んだ……のか――。
まるで水の中に沈んでいかのように、俺の身体はゆっくりと落ちていく。辺りは真っ暗だ。
――が次の瞬間。
俺の身体は何かで吊り上げられるかのように急速に上へ引き寄せられる。
そして、一気に水面と思われる境界へと浮上する。
「――――っ!?」
ドクン! と、止まっていたはずの心臓が激しく脈打つ。
一気に視界が明け、眩い光が差し込んでくる。
な……なにが――
「生得魔法が【解析】とは、そこを蜘蛛姫にかわれたのかな。さて、君の生得魔法は一つだけか、それとも二重生得者か」
それは、あり得ない光景だった。
目の前に立つのは、さっき俺を殺したはずの男……剣聖アルトレウス・バルフレアだった。
なんだ……何が起こった……?
あれ、俺死んだ……よな……?
ぱっと左肩を見ると、そこに俺を死へと至らしめた傷はなかった。
全てがなかったことになっている。
夢……でも見てたのか、俺は……?
「ぐっ……!」
斬られた瞬間がフラッシュバックする。
斬りつけられた瞬間の痛み、苦しみ……それらすべてがしっかりとこの心の刻みつけられている。あれが夢だったとは到底思えない。
視線を落とすと、そこにはまだ新しグレゴリーさんの死体が転がっていた。
まるで作り物かのように、微動だにせず、目を見開いて横たわっている。
到底現実とは思えない光景。
「指令は殲滅。まだ若いが、そこに情はない。大人しく死んでもらうよ」
「……え?」
ようやく少しだけ落ち着いたことで、俺はその状況の不可解さに気が付く。
今の言葉、さっきも聞いたよな……?
聞き間違い? デジャブ? いや、それにしてはあまりに鮮明だ。
死んだはずが生きていて、直前に聞こえた言葉がもう一度聞こえてきて。
あまりに理解不能な情況に、俺の脳が理解を拒絶する。
そんな俺の変化を、剣聖は目ざとく指摘する。
「慌てても遅いよ。これも国の為。この国を守るのが僕の役目であり、使命だ。悪は滅ぼす、それだけさ」
「いや……ちょ、待ってくれ! 何かがおかし――」
――瞬間、刃が振り下ろされる。
さっきと同じ個所に、寸分たがわずに。
「ッ!!」
痛え……痛え……!!
焼けるような痛みが、身体中を駆け巡る。これが、死の痛み。本来ならば、”一度”しか経験できないはずの痛みと絶望。
さっきよりもこの結果が「わかっていた」分、俺の身体ははっきりとその痛みを”認識”してしまった。訳も分からずに死ぬのではなく、わかった上で死ぬ。体が裂かれていく感覚を味わいながら、俺はまた仰向けに地面へと倒れこむ。
「僕は剣聖――アルトレス・バルフレア。悪いが、君と話している暇はないんだ」
くそっ……もう……知ってるっての……。
なんで……意味が……わからねえ……。
俺がこんな……。
そしてまた、俺の意識は闇へと落ちていった――。
◇ ◇ ◇
――97――
今度こそ……完全に死んだ……。
死後に意識何てあるんだな……などと、俺はぼんやりと思う。
悪いことなんて……何もしてないのに。あの苦しみを二度も……いや、トラックを含めれば三度。なんで……俺がこんな……。
眼前には、また謎の数字が浮かんでいた。
”97”……なんかさっきと数字が違うような……。
減ってるのか……? 駄目だ、さっきの数字が思い出せない……。
ぼんやりとした意識の中、また俺の身体は急浮上する。
!? おい……おいおい……! また……また戻るのか……!?
嫌だ……また殺されるのは……死ぬ痛みを繰り返すのは……!
「――――ッ!」
ドクン! と、止まっていたはずの心臓が脈打つ。
「生得魔法が【解析】とは、そこを蜘蛛姫にかわれたのかな。さて、君の生得魔法は一つだけか、それとも二重生得者か」
また同じ……!
恐れていた予感が的中し、全身の血の気が引いていく。
まさか本当に……時間が……巻き戻っている……?
そうでなければ、この現象は説明がつかない。
体感にして約10秒の時間回帰……。もしかして、これが【回帰】の能力なのか……?
夢にしてはやけにリアルで、ハッキリとした地獄のような痛みがあった。
傷は治っても、やはりまだ幻肢痛のような痛みが俺の身体を斜めに横断している。
また10秒前から繰り返すというのなら、俺にはこの後もう一度《《死》》が待っているということだ。
まだ経験していないはずの痛みと恐怖が、俺の身体を蝕み、竦ませる。
「指令は殲滅。まだ若いが、そこに情はない。大人しく死んでもらうよ」
すでに俺を二回も殺したことなんか知らない顔で、剣聖は淡々と告げる。
実際知らないのだろうが、改めて見てもこいつの精神状態が理解できない。日本で育った俺とは明らかに違う倫理観だ。
また殺される……こんな奴に……。またあの苦しみを味わうのか!?
こいつは、ステータスからすれば一度も傷を負ったことないレベルの能力なんだろう。ただ一方的に殺すだけの力。まさに無双だ。
こんな、この世界ですべてを持っている奴に、俺は殺される。
ただ、理不尽に――何度も……。
「…………なんで」
不意に、もやっとした感情が腹の内側から湧いてくる。
なんで俺が理不尽に、こんな奴に殺されないといけないんだ?
なんで俺がこんなに、死を恐れて怯えなきゃいけない。俺が何かしたか? してないよな……?
ただ巻き込まれて、殺され続けて、まるで俺が悪いみたいに許しを請うなんて、願い下げだ。
本当に俺が時間回帰してるっていうなら……。
利用してやる……!
「指令は殲滅。まだ若いが、そこに情はない。大人しく死んでもらうよ」
「どうして……こんなことを……」
「国の為さ。この国を守るのが僕の役目であり、使命だ。悪は滅ぼす、それだけさ」
ゆらっと、攻撃動作へと移行する剣聖。
圧倒的な圧。
くる……俺を殺す一撃が……! 対面するだけで全身の鳥肌が立つ、死の象徴――。もはや、こいつの存在は俺にとって死と同義だ。
本来なら反応できる間もない。
――だが、俺にはその剣筋が見える。
振り下ろされる刃。
その剣を視認せず、俺はただ斬られたはずの位置から、身体を捻り位置をずらす。
剣聖の攻撃は、ヒュン――と空を切る。
「!」
それはまさに、紙一重と言って差し支えない、必要最小限の回避だった。
#成り上がり
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コメント
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おお……第7話、読んだ読んだ! もう冒頭の「――98――」から「――97――」への数字の変化で鳥肌立ったわ。ループ構造、しかも死ぬたびにカウントダウンしてる演出がめっちゃ効いてる。 で、三度目のループで「見切った」主人公の反応、ガチで痺れた。同じ苦しみを繰り返す恐怖に打ち勝って「利用してやる」って立ち上がるの、脳筋じゃない強さってまさにこれよな。剣聖の台詞が毎回同じってのも、この理不尽さを強調しててうまいわ。 次、どう動くんだろう……めっちゃ気になる🔥