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hrfw
kidにどうしても甘やかして欲しくてかきたくなりました
いつも以上にとんでもなくキャラ崩壊な気がします
ご本人様に関係ありません
🥂✨──────────────────
その日は機嫌が著しく悪かった。
別に何があったわけじゃなかった。仕事で失敗とか、姫と喧嘩したとか、そういう特別なことがあった訳でもないのに俺の心は疲れていた。
よりにもよってそれは顔にまで出て、姫に心配させる失態を犯した。楽しみにしてきてくれたのに、不安や心配にさせたことが苦しくて、いつも以上に作った笑顔で誤魔化した。それからは気づかれることもなかったが、その行為が余計に自分の首を絞めていることは分かっていた。
アフターも断り早めに仕事を切り上げたら、すぐにでも彼の顔が見たくて、酔いでふらつく足を懸命に動かし、何とか帰路に着く。
気づけば涙で滲んだ視界からネオン街の輝きは消えていて、見える明かりは彼が待つマンションの一部屋。
何も考えられない頭で必死にエントランスを駆け抜け、エレベーターに倒れ込むように乗る。息切れも、汗でぐちゃぐちゃな髪も、涙で落ちたメイクも、彼ならば受け止めてくれる、という絶対の安心感を抱き玄関の扉を開ける。
「おかえり〜」
聞こえた声に安堵して、靴も脱がずその場に座り込む。
帰ってこれた。
それだけで緊張が一気に解け、溢れ出すのは涙と嗚咽。一向に部屋に来ない俺を心配した彼は、慌てた様子で玄関まで来てくれた。最初こそ焦ってわたわたしていたけれど、俺が啜り泣くだけだからあとは察して頭を優しく撫でてくれた。
セットも何も無くなった髪を、まるで壊れ物を扱うかのように優しく。
「…どうしたの?何かあった?」
両手で頬を持ち上げられると、キスしてしまいそうな距離に眉尻を下げた彼の穏やかな笑顔がある。空色の瞳に吸い込まれるように体を預ければ、暖かい体に包まれて。
ただ「つかれた…」と呟くと、何も言わずに横抱きをして、寝室に連れていってくれた。
腕から伝わるその温かさに、涙はとめどなく溢れた。
ベッドの上でも涙は止まらなかった。辛くて、苦しくて、安堵して、嬉しくて。感情に体も脳も追いついてなかったせいか、大きな彼の手に頭を撫でられるだけで、体内の水分を全て搾り取られるように枕を濡らす。
「何かあったの?辛いことあった?」
優しい音色のような声を前にすると何も言えず、ベッドに腰かける彼の服の裾を掴むだけで精一杯だった。察した彼は、呆れたように微笑み、隣に潜り込んできてくれた。
「…ほんとに、ただ、…疲れただけ…っ、…でも、晴の声聞いたら……全部どうでも良くなっちゃって…、」
「うん…」
「……晴、最近桜魔よく行くやん…?、…ほんとは、ずっと寂しくて…でも俺、晴以外に、上手く気持ち、言えんくて…だから、晴が居ない時……誰頼ったらいいんか、…わからん、くて…っ」
頭に浮かんだ言葉をポンポンと上げていくだけで、まとめられていないであろう文章をやけくそに放つ。とにかく吐き出さねば、心が爆発しそうだったから。
でも、そんな俺をいつも受け止めてくれるのは彼だけで。
「そっか、ごめんね…寂しかったよね、本当にごめんね、泣かせて」
「っ…そんな、…ちが、っ……おれ、が…不器用な…だけやから……」
笑おうとしても、笑えない。表情筋が職務放棄している。先程まで業務笑いしていたとは思えないほど、口角は下がっていた。
いつもそうだ。俺は、彼を前にすると、偽りの自分が作れなくなってしまう。俺さえ知らなかった素の「不破湊」を引き出してくれた彼に、俺はどれほどの信頼を置いているのだろうか……
「……そんな事言わないでよ。自分を責めすぎたって、辛くなるだけだから」
「…だ、だって……、頼りかた、っ…わからん…っ」
「…うーん……」
別に俺だって、話したくなくて話さないんじゃない。いつだって傷つけばいいのは自分で、人を困らせたくないだけだった。それが彼なら尚更のことで、いつも彼には笑っていて欲しいから、自分の小さな悩みなんて言えない。
でもそれを溜め込んで、一気に吐き出してこうやって彼を困らせるならば、それこそ迷惑なのかもな……。
「……はる、くん…」
「ん?」
「……おれ、こうやって、晴くんをよく困らせるけどさ……うざい?…嫌んなる?…」
本当に、「うざいよ」とか「嫌だよ」なんていう返事がくるとは思ってない。でも、「そんなことない」とだけ言って欲しいんだ。
安心させて欲しい……。
「…僕が、そんなこと思うと思う…?」
「……ううん」
「分かってるなら聞かないでっ!……そんなわけないでしょ…?」
そういうとこも可愛いけどさ、そう言って抱きしめてくれると、心音がトクトクと伝わってきた。
生きている、という実感に脳内が彼でいっぱいになる。異世界人の彼が、自分ら人間と同じ部分を見つける度に、彼に出会えた奇跡を噛み締める。
「困ってないよ。僕にぐらい気使わず、たくさん甘えちゃいな♡」
そう言って彼はギュッと強く引き寄せる。大きな手で頭を包まれると、ほろほろ、と熱を持った涙が零れた。
俺の心なんて、まるで全部読んでいるんじゃないかって思えるほど、俺のして欲しいこと全てに手を回してくれる。そんな君は、俺が君無しでは生きられなくなっていることに、本当に気づいていないのかな。
そういうとこだけ、鈍感なんやから……
「ご飯どうする?お風呂も」
「あしたでも…、いい?」
「僕はいいよ。でもお腹すいちゃわない?」
「……晴がいれば、お腹いっぱい…」
「んはは、胸じゃないんだ」
花がほころぶ様に笑う、素敵な笑顔。可愛らしくて、特別で、絶対誰にもあげたくない。細い繊細な体も、柔らかな目尻も、掠れた高めの声も、包容力のあるその腕も、寛大な心も、何もかもが……
俺だけのものならなぁ……──────
コメント
9件
なんか久々にやんさんの作品見てとんでもない神作が出てきてびっくり 最高にぶっ刺さったですありがとうございますッッッッ!!!!
え、神ぃ??? 最高なんだけどこの作品。 えっぎ!!!!!!∑(゚Д゚)