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1話 花の香りに誘われて
桜の花弁がひらひらと舞いおちて来て 、
俺はようやく春を感じた。
平日は仕事して、休日はあてもなく街をふらふらする、そんな日々を永遠と繰り返していた。
昨年まで俺は毎日平和で幸せな暮らしを送っていたのに、今年に入ってからは、何も感じない日々が続いていた。
桜が舞っているが、最早気にとめるような余裕は今は持ち合わせていなかった。
街の公園では、幼稚園生ほどの小さい子供達が、無邪気に遊んでいる。
泥団子を作ったり、花弁を投げたり、滑り台で遊んだり、追いかけっこをしたり。
俺にもあんな時、あったかな。
なんてしょうもない考えを巡らせながら歩く。
街を歩く時、たまにいい出会いがある。
人との出会いではなく、物との出会い。
美味しい食べ物 、本、楽器、服、とか
残念ながら俺は人に話しかける勇気も、話しかけられても応えるような対応力も持ち合わせて居ないため、ずーっと人との関わりはない。
だから物に触れて、空いた穴を埋めている。
そろそろ帰って読書しようかな、と考えていると、なんとなくいい香りがした。
ご飯、とかではなく、香水、でもなく
花の香りだ
ここら辺、花屋さんなんてあったかなぁ、と考えながら花屋を目指して再び歩みを進める。
足が疲れて来たので、スピードを緩めながら歩く
そう思っていたら、目的地が見えた。
あぁ、あそこの花屋かぁ、
と、俺にしては珍しく興味を強く示し、
その花屋に小走りで近づいた。
「花園」
看板にそう書いていた。
扉を開けると、涼しそうな鈴の音がした。
ふわっと、花の香りに包み込まれる感覚に落ちた
ショーケースに入れられた花、花瓶に生けられている花、造花の花束。
沢山の花が店内にあった。
なのに、花どうしが美しく響き合うように、店内を彩っていた。
うっとりと花に見とれていると、奥から人影が見えた
「わっ!びっくりしたぁ、いらっしゃいませ!」
奥から来た人物、店員さん?はびっくりした様子でそう言った
初対面だけど、俺はなんとなく かわいい という感情が芽生えた
「こんにちは、あの、おすすめって..ありますか? 」
あぁ、やばい、変な話し方になっちゃった。
そもそも人との関わりが少なくて、話す機会が無かったせいか緊張する。
そんな俺に、店員さんは言った。
「えぇっと〜、おすすめはね、このお花ですかねぇ〜っ」
差し出されたのは可憐な花。
儚くて、今にも散りそうな、鮮やかな色をした花
店員さんみたいだ
無意識のうちにそう感じた
「綺麗な花ですね」
さすがに、貴方みたいで、とは伝えられなかった
「そうでしょう?僕のお気に入りなんです」
店員さんは花にそっくりな笑顔で語った。
「じゃぁ、これください」
「わかりました!えっと、98円です」
花って結構安いんだなぁ
「はい、」
「代金いただきましたぁ〜っ!また来てくださいっ!」
久しぶりに人と関わった。
なんだか、元気が出た気がする。
また来よう。