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▪️ある日のHANAの控え室
ライブ前の準備で
部屋は少し賑やかだった
ヘアメイクのブラシの音
衣装のファスナー
誰かの笑い声
それぞれが準備をしながらも
どこか落ち着いた空気が流れている
チカ
鏡の前で前髪を直しながら
「この前髪、今日言うこと聞かん」
モモカ
リップを塗りながら
「前髪にも意思あるんだ」
チカ
「あるばい。今日反抗期」
マヒナ
「前髪かわいいよ!」
ユリ
淡々と
「かわいいかどうかじゃなくて、視界の問題」
ジス
「本番中に目に入らないようにね」
チカ
「オンニ、現実的」
そんな中で
ふと
ユリが鏡越しに言った
ユリ
「ねえ……」
少し考えるように
眉を寄せる
ユリ
「最近さ」
マヒナ
「うん?」
優しい声で返す
ユリ
「コハルとナオコ……」
少し言いにくそうにしてから
「ちょっと変じゃない?」
その言葉で
控え室の空気が
ほんの一瞬だけ止まる
誰も
すぐには否定しない
むしろ
全員の頭に
同じ光景が浮かんでいた
コハルが何かを探す時
なぜかナオコが先に見つける
ナオコが黙っている時
コハルが自然に隣へ行く
飲み物を渡すタイミング
立ち位置
リハ中の目線
言葉にしなくても
伝わっているような間
チカ
静かに言う
「……私も思ってた」
ジス
「え?」
少し首を傾げる
チカ
メイク道具を置きながら
真顔になる
「距離」
ジス
「距離?」
チカ
「普通の友達の距離じゃない」
少し考える
言葉を探すように
チカ
「ずっと一緒に動いとる人の距離」
モモカ
小さく笑う
「分かる」
「会話してないのに、会話してる時あるよね」
マヒナ
「え、どういうこと?」
モモカ
「目で」
マヒナ
「目で会話!?」
ユリ
「してる」
マヒナ
「すご!」
チカ
「しかも片方が動いたら、もう片方が先回りするやん」
ジス
腕を組む
「たしかに」
少しだけ笑う
「面白い関係だよね」
マヒナ
小さく頷く
マヒナ(心の中)
(確かに)
(気づくと二人並んでる)
(でも、自然なんだよね)
ユリ
鏡越しにドアを見る
ユリ(心の中)
(私が気づくくらいだから)
(みんな思ってたんだ)
ジス
静かに考える
ジス(心の中)
(あの二人)
(まだ何か名前がついてないだけで)
(もう形はあるんだよね)
その時
控え室のドアが開く
コハル
「飲み物買ってきたよー!」
明るい声
部屋の空気が
ぱっと少し明るくなる
ナオコ
「みんなの分もあるよ」
ゆったりした
優しい声
二人は並んで部屋に入ってくる
歩く速度まで
自然に合っている
モモカ
それを見て思う
モモカ(心の中)
(また一緒)
(ほんと自然だな)
コハル
袋を机に置く
「好きなの取ってー!」
マヒナ
「やったー!」
チカ
「ありがとー!」
ユリ
「助かる」
ジス
「ありがとう」
ナオコ
静かにジュースを取り出す
そして
何も迷わず
コハルの横に座る
二人の距離は近い
でも
それが不自然に見えない
いつもの位置に
いつもの人がいる
そんな感じだった
コハル
自分のジュースを開ける
ストローを刺す
そして
何も言わずに
ナオコに渡す
ナオコ
「ありがとう」
穏やかに笑う
コハル
「うん」
ほんの数秒
でも
二人の空気はとても自然だった
メンバー全員
「……」
ユリ(心の中)
(ほら)
マヒナ(心の中)
(これだ)
チカ(心の中)
(やっぱり)
モモカ(心の中)
(無意識だよね、これ)
ジス
小さく笑う
ジス(心の中)
(もう隠してないというより)
(隠すものだと思ってないんだろうな)
ユリ
小声で言う
「今の見た?」
マヒナ
「見た」
モモカ
「完全にいつものやつ」
チカ
「だよね」
ジス
ふっと笑う
少しだけ悪い顔
「ねえコハル」
コハル
「なに?」
無邪気な顔
ジス
「ナオコのこと、好きでしょ」
控え室
沈黙
一瞬で
全員の視線が
コハルに集まる
コハル
「え!?!?」
顔が一気に赤くなる
「な、なに言ってんの!?」
慌てるコハル
でも
無意識に
ナオコを見る
ナオコ
少し笑う
「ちょっと……ジス」
困ったような
でも怒ってはいない
優しい声
ユリ
「図星」
マヒナ
「絶対そう!」
チカ
「前から思っとった」
コハル
「違うって!」
コハル(心の中)
(そんな風に見えてるの!?)
(いや、好きだけど)
(そういう好きじゃなくて)
(ナオコは……)
(ナオコは、なんか)
(安心する人で)
(隣にいると踊りやすくて)
(見てくれてるのが分かって)
(でもそれを何て言えばいいの!?)
顔は真っ赤
言葉は出てこない
ナオコ
少し肩をすくめる
そして
ゆったり言う
「まあ……」
全員が見る
ナオコ
「半分は当たりかな」
「えええええ!?」
部屋が一気に騒がしくなる
コハル
「ナオコ!!」
顔真っ赤
「何言ってるの!」
ナオコ
笑う
コハルの慌てた顔を見る
ナオコ(心の中)
(ほんと)
(分かりやすい)
(でも、たぶん)
(この子はまだ分かってない)
チカ
身を乗り出す
「半分ってなに!?」
モモカ
「そこ詳しく」
ユリ
「説明求む」
マヒナ
「半分好きってこと?」
ジス
「マヒナ、言い方笑」
ナオコ
落ち着いた顔で
「好きは好きでしょ」
コハル
「わああああ!!」
ナオコ
「メンバーとして」
一拍
「相棒として」
空気が
少しだけ変わる
コハル
赤い顔のまま
目を丸くする
チカ
「……相棒」
モモカ
「なるほどね」
ユリ
「それなら納得」
ジス
小さく頷く
「一番しっくりくるかも」
コハル
少しだけ視線を落とす
胸の奥が
ふっとあたたかくなる
(相棒)
(ナオコが私を)
(そう思ってくれてるんだ)
コハル
「……」
ナオコ
その横顔を見る
ナオコ
「違った?」
コハル
すぐ顔を上げる
「違わない」
少しだけ照れて
でも
嬉しそうに笑う
「でも、急に言うから!」
ナオコ
「ジスが振った」
ジス
「私のせい?」
ユリ
「きっかけはジス」
ジス
「まあ、否定はしない笑」
▪️相棒の距離
チカ
静かに言う
「だから」
「二人の空気」
「違うんだ」
その言葉に
コハルは少し照れる
でも
嬉しそうに笑う
ナオコ
コハルの方を見る
「バレちゃったね」
優しい声
コハル
「ナオコのせいだよ!」
ナオコ
「私?」
コハル
「半分当たりとか言うから!」
ナオコ
「全部外れではないから」
コハル
「そういうとこ!」
メンバー
爆笑
モモカ
「いやでも分かる」
「ナオちゃん、コハルのことめっちゃ見てるよね」
ナオコ
「見てる」
コハル
「即答!?」
ナオコ
「振り間違えそうな時とか」
「集中切れそうな時とか」
「足の入り方とか」
「表情が硬い時とか」
「見ないと分からないから」
コハル
赤い顔のまま
少し黙る
(そんなに見てたんだ)
ナオコ
「あと」
「コハルが笑うと、場が戻る」
コハル
「え?」
ナオコ
「リハ詰まった時とか」
「空気硬くなった時」
「コハルが一回笑うと、みんな戻れる」
コハル
「……」
ナオコ
「だから、見てる」
控え室が
少し静かになる
ジス
やわらかく笑う
「いい関係だね」
チカ
「いい相棒やん」
マヒナ
「すごい!」
ユリ
「仕事の話として普通に強い」
モモカ
「でも照れてるコハルはおもろい」
コハル
「そこ拾わないで!」
▪️コハルから見たナオコ
ジス
少しだけ面白そうに
「じゃあコハルは?」
コハル
「え?」
ジス
「ナオコのこと、どう思ってるの?」
コハル
「え、なにこれ面接?」
チカ
「相棒面接」
ユリ
「第2問」
マヒナ
「がんばって!」
モモカ
「急に公開尋問」
コハル
「やめてよ笑」
でも
ナオコが静かに見ている
答えを急かさない
ただ
待っている
コハル
少しだけ考える
「ナオコは……」
一拍
「ちゃんと止めてくれる人」
ナオコ
少しだけ目を細める
コハル
「私、わりと突っ走るじゃん」
チカ
「わりと?」
ユリ
「かなり」
コハル
「そこは流して!」
モモカ
「はいはい笑」
コハル
続ける
「でも、ナオコは止めるだけじゃなくて」
「なんで止めたのか言ってくれる」
「私が何をやりたいかも見たうえで」
「こっちの方が伝わるよ、とか」
「そこは危ない、とか」
「ちゃんと考えてくれる」
ナオコ
黙って聞いている
コハル
少しだけ照れて
「だから」
「一緒にやると、安心する」
「安心して、攻められる」
チカ
「ええやん……」
マヒナ
「かっこいい!」
ジス
「いいね」
ユリ
「完全に相棒」
モモカ
「これは強い」
ナオコ
少しだけ口元を緩める
「そう思ってたんだ」
コハル
「……うん」
「言ったことなかった?」
ナオコ
「ない」
コハル
「そっか」
少しだけ笑う
「じゃあ、言えてよかった」
ナオコ
「うん」
「ありがとう」
▪️からかい再開
しんみりしかけた空気を
モモカが軽く壊す
モモカ
「でもさ」
「さっきのジュース渡す流れは、どう見ても熟年コンビだったよ」
コハル
「熟年!?」
チカ
「分かるばい」
「コハルが刺して、ナオコが受け取るまで無言」
「寿司屋の大将と常連?」
ユリ
「例えが変」
マヒナ
「でも息ぴったりだった!」
ジス
「確かに自然だったね」
コハル
「そんな見られてたの!?」
ナオコ
「見られてたね」
コハル
「ナオコ落ち着きすぎ!」
ナオコ
「別に悪いことしてない」
コハル
「してないけど!」
ナオコ
「ならいい」
コハル
「いいけど!」
チカ
「コハルがずっと負けとる」
モモカ
「ナオちゃん、こういう時強い」
ユリ
「落ち着いてる方が勝つ」
コハル
「勝負じゃないし!」
ナオコ
小さく笑う
「じゃあ、引き分け」
コハル
「何が!?」
メンバー
爆笑
▪️“私の”の意味
そのあと
ユリがふっと言う
ユリ
「でもさ」
少し笑う
「なんかいいよね」
マヒナ
「うん」
チカ
「お似合いっていうか」
少し考えて
「相棒って感じ」
その言葉に
コハルは顔を上げる
ナオコも少し笑う
ナオコ
「……まあ」
少し間
「コハルは私の相棒だから」
部屋
一瞬静かになって
チカ
「言い方!!!!」
モモカ
「強い強い笑」
マヒナ
「かっこいい!」
ユリ
「所有感」
ジス
「でも相棒としてね笑」
コハル
「もう!!」
真っ赤になりながら
ナオコの袖を掴む
ナオコ
その手を見る
少し笑う
ナオコ(心の中)
(ほんと)
(放っておけない)
コハル
「言い方!」
ナオコ
「間違ってない」
コハル
「間違ってないけど!」
ナオコ
「じゃあいい」
コハル
「よくない!」
チカ
「この掛け合い、もう完成しとる」
モモカ
「相棒漫才」
ユリ
「ライブ前に仕上がってる」
ジス
「でも、いい空気になったね」
マヒナ
「うん!なんか元気出た!」
▪️ライブ前
スタッフの声がかかる
本番まで
あと少し
控え室の空気が
少しずつ締まる
コハル
立ち上がる
「よし」
ナオコ
隣で立つ
「行こ」
コハル
「うん」
二人は
自然に並ぶ
チカ
それを見て
小さく笑う
チカ
「やっぱり距離近い」
コハル
「チカ!」
ナオコ
「近い方が出やすい」
コハル
「そういう問題!?」
ナオコ
「そういう問題」
モモカ
「仕事の話に持っていった笑」
ユリ
「便利」
ジス
「でも本当に、二人が並ぶと安定する」
マヒナ
「うん!」
コハル
少しだけ照れながらも
ナオコを見る
ナオコ
その視線に気づいて
小さく頷く
言葉はない
でも
伝わる
(行ける)
(大丈夫)
メンバー全員が
それぞれ立ち上がる
本番前の緊張
少しの高揚
そして
隣にいる相棒の安心感
ナオコ
小さく
「コハル」
コハル
「ん?」
ナオコ
「今日、最初の入り」
「ちょっとだけ溜めて」
コハル
すぐ分かる
「うん」
「ナオコは2カウント目、強めでしょ?」
ナオコ
「そう」
コハル
「分かってる」
ナオコ
「さすが」
コハル
ふっと笑う
「相棒だからね」
ナオコ
少しだけ目を細める
「うん」
▪️締め
ステージへ向かう廊下
コハルとナオコは
肩が触れそうな距離で歩く
恋とか
そういう名前ではまだなくて
でも
確かに特別だった
お互いの弱点を知っていて
強みも知っていて
止め方も
背中の押し方も
少しずつ分かってきていた
それは
まだ始まりの形
メンバーは後ろから見て思う
(この二人)
(やっぱり特別だ)
チカ
小声で
「相棒って、いいね」
モモカ
「ね」
ユリ
「安定感ある」
マヒナ
「かっこいい!」
ジス
やさしく笑う
「いい関係だね」
その声を背中に受けながら
コハルとナオコは
ステージの光へ向かって歩いていった
まだ恋ではない
でも
確かに
始まっていた。
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