◇◇◇◇◇
一瞬にして瘴気に飲み込まれた颯たち。
だが、颯の瘴気吸収マックスパワーによって、颯の周囲半径5m程度の半球を作っていた。
その内部のみ、かろうじて瘴気が入って来ていないギリギリの状態で、6名はほとんど真っ暗の中で耐えていた。
もう、飲み込まれてから、数十時間は経っているであろう。
「颯!もういいよ。鼻血が止まらないよ。」
「お兄ちゃん!」
「とにかく、最後まで頑張りたい。」
魔法力の消費も激しく、たぶんあまり持たないだろうとは思っている。
一時は、ルームの使用を考えたが、その場合は一旦瘴気吸収を解除する必要があり、この中から1人だけしか運べない。あとの4人は瘴気の中に放置することになる。
誰か1人を選べば、少なくともその1人だけは救える。それは同時に4人を見捨てる選択になる。
一度はみんなでその話が出たが、俺はその選択をしなかった。出来なかった。その勇気がなかった。
自分も助かってしまうことが怖かったからで、結局自分のせい。それも言い出せない。
自分だけが救われない選択肢があれば良かったのに……。
「ごめん。俺が巻き込んだばかりに……。」
「颯!お願い!聞いて!ルームを使って!」
「颯くん!そうだよ。私も賛成だよ。」
「そうね。颯さんそうして!お願い!」
「颯!私は一度死んだと思ってるの。それを颯に助けられた。恋人にもなれた。もういいの。」
「颯くん!それなら私も一緒だね〜!」
「颯さん。私も助けられた。あのとき。だから、私もよ。」
「なら、私もいい。お兄ちゃん!私は選ばれたくない……。若葉をお願い!」
「なら早くしたほうがいいわ!颯さん!」
「嫌……。嫌!私も嫌!1人だけ助かりたくない!」
「若葉……。」
…………。
「颯。もういいよ。みんなも自分だけが助かりたくないんだって。颯もそうなんでしょ?
だから、もうこのままでいいよ。」
「みんな。ありがとう。ありがとう……。
みんなと……いられて良かった……。
もう少しだけ、一緒にいてください。」
◇◇◇◇◇
少し時を遡り、天門宮にて。
あとは、天界に任せるしかないですね。
上層部にうまく伝わればいいですが。
サランディーテは天界に現在発生した異常事態について報告し、自らは事態を収集するために行動を起こしていた。
S級探索者の5人は、まだ大丈夫な位置にいるみたいですね。とにかく、ハヤテのところに向かわないと!
サランディーテは、翼を広げ飛び立った。
◇◇◇◇◇
颯たちのいる空間にて。
ずぱーーん!!
何かが落ちて来た。
「ハヤテ!ここにいたんですね!」
「サランディーテ様!何しに来たんですか?」
「すいません。助けに来たつもりが、失敗してしまいました……。
上空からハヤテを探していたのですが、瘴気の層が厚くて、時間がかかりました。
でも、ようやく見つけたので、瘴気を突き切って降りて来たのです。
ただ、瘴気の層に入った際に翼を失いました。まあ、わかってたんですけどね。
一か八かの賭けに負けました。
来たのはいいですけど、状況は同じですね。
ごめんなさい。」
「だったら!なぜ来たんですか!」
「わかりません。天使だからですかね。
もう今は翼がないですけど。」
……。
「あなたたちもごめんなさい。」
「いえ、いいんです……。」
「こんなときに言うことじゃないけど、次生まれ変わったら、また6人一緒だといいですね。
私も次は……天使だったら嬉しいですね。」
◇◇◇◇◇
もう、意識も朦朧として来た。
たぶん、魔法力が切れそうなんだと思う。
そのとき突然、頭の中に大音量で、なのに心地よい声が聞こえてきた。
『ハヤテ!遅くなりました!』
その優しい声は、イースにいるすべての人の頭の中で響いていた。
サランディーテ、シズカ、アケミ、レイナ、サクラ、ワカバはもちろん、どこかにいる5人のS級探索者にも。
『はい。誰ですか?』
朦朧としていたはずが、声を聞いた途端に意識がハッキリとして、スッキリとして、もしかして、お迎えに来たのかなぁ……。
『私は天使長のエルミカです。
ハヤテ!よく頑張りましたね。
あなたの願いは受け取りましたよ。』
『あ!はい!ありがとうございます!』
これだけで颯は理解した。
〈自分だけが救われない選択肢〉
他の人には何のことか分からないが……。
サランディーテは、まさかの天使長エルミカ様の登場に驚きそして安堵した。
『ハヤテ!あなたはもうすぐ消滅します!
言いたいことがあれば今のうちに!』
『はい!ご配慮ありがとうございます!』
少しの間を置いて、颯はゆっくりとみんなに話しはじめた。
「静!
ずっと好きでした。ずっと好きでいてくれてありがとう。すごく嬉しかった。
朱美!
好きになってくれてありがとう。朱美といるといつも楽しかった。
麗奈さん!
短い間だったけど、好きになってくれて、恋人になってくれてありがとう。
若葉!
いつも桜をありがとう。これからも桜をよろしくお願いします!
最後に桜!
今まで本当にありがとう。
お前は俺には出来過ぎの妹だった。
ずっと一緒だった。
ずっと味方だった。
ずっと感謝してた。
ずっと好きだった。
そして、これからもずっと。
お兄ちゃんがいなくなっても、お前らしく、いつも笑顔でいてください。』
みんなの嗚咽と悲鳴の聞こえる中、突然、颯の体が膨らんでいく。ゆでたまごのように。
そして、フワッと少し浮いたかと思うと体が無数の光の粒となって、四方八方に光速で拡散されていった。
その光は一瞬でイースにあるすべての瘴気を消滅させ、そしてすべての境界門を消滅していった。
そして、イースは昔の姿に戻り、その瞬間、イースにいる全員が気を失い倒れた。
颯の消滅と共に……。
◇◇◇◇◇
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