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「他に聞きたい事はあるか?」
「えっと、お仕事は何をなさっているのでしょうか?」
「いつもという訳では無いが、過去に軍に属していた経験を活かし、傭兵として行商人や旅人の護衛をしている。二、三ヶ月に何人かの護衛をするだけで暫くは暮らしていけるな。普段あまり金を使わないから」
「そうなんですね」
ギルバートの話を聞きながら、彼の顔の傷は過去に軍に属していた時に負ったものなのか、それとも傭兵として護衛をしている最中に負ったものなのかを密かに気にしていた。
「質問ばかりですみません、ギルバートさんは、お一人で暮らしておられるのですか?」
「構わないさ。そうだな、人付き合いはあまり得意では無いのでな、町の外れにある離れた小屋で一人気ままに暮らしている」
「そうなんですね」
人から距離を置いて生活をしているというギルバート。そんな彼の家にお邪魔してもいいものなのか、自分は邪魔なのでは無いかとエリスは気になってしまうも、当の本人はそんな事を全く思っていないどころか、
「――話は一旦このくらいにして、自宅に行く前に、市場に寄ってお前の服を買い揃えよう」
「え? でも……」
「流石にそのままという訳にはいかないだろ? 買い物する際人目につく事を気にしているのならば問題無い。俺に任せておけ。さてと、少しスピードを上げるからしっかり掴まっていろよ」
「は、はい」
エリスの身なりに気を遣い、服を買い揃えようと提案したり、買い物をするにあたり人目につく事を気にしているエリスを気遣う言葉を掛けるギルバート。色々と思う事があるエリスだったが、今の自分は何も出来ないただの役立たずで意見出来る立場でも無いので、ひとまずここはギルバートに全てを任せる事にした。
暫く走り続けた後、サラビア国の中心部へ辿り着いたエリスたち。
人の賑わう市場へやって来ると、ギルバートはリュダから降り、エリスにも降りるよう命じた。
「これを羽織るといい。これならば顔もよく見えないからお前の容姿が知られる事も無い」
リュダを裏通りの一角にある屋根のある休憩スペースの柱付近に繋いで待たせると、自身が羽織っていたフード付きのマントを脱いでエリスに差し出した。
勿論身長や体格差のあるエリスには少し大きくてブカブカなのだが、血の付いたネグリジェ姿よりは幾分も見栄えが良い。
ひとまずマントで身体を覆い、フードを目深に被ったエリスの前に、今度はギルバートが背を向けてしゃがみ込む。
「あの、ギルバートさん?」
そんな彼の行動に疑問を抱いたエリスが声を掛けると、
「流石に靴の代わりになる物は持ち合わせていないからな、俺の背中に乗ってくれ」
「ええ!?」
どうやら靴の代わりになる物が無いから背負っていくつもりのようで、エリスに背中へ乗るよう促した。
「そんなっ! 大丈夫です、歩けますから!」
とはいえ、いくら何でもそこまでして貰う訳にはいかないエリスは歩くと言ってギルバートの申し出を断ろうとするも、
「遠慮はするな。これ以上そんな傷だらけの足で歩くと治りも遅くなる。いいから乗るんだ」
ギルバートの方は一歩も引く気がないようで、少し強い口調で再度乗るよう促した。
そんな彼を前にしたエリスは、心配してくれている事と、これ以上迷惑を掛けない為にも素直に申し出を受ける事を決めて、戸惑いながらもギルバートの背に自身の身体を預けた。
ギルバートに背負われて市場を回るエリスは、通りすがる人々が自分に視線を向けてくる事に気付くと、その視線が怖くて更にフードを目深に被り直す。
「やはりここは人が多くて疲れるな。さっさと用を済ませて出るとしよう。もう少し我慢してくれ」
「はい、気を遣わせてしまって、すみません」
「いや、構わない。周りの視線が気になるようなら顔を伏せたままでいていい」
エリスが何に怯えているのかが分かっているギルバートは『気にするな』と伝え、一軒の店の前まで歩いて行く。
けれど、ギルバートを見た店主の顔はどこか険しいものだった。
それは恐らく、ギルバートの顔にある大きな傷と、彼が背負っているエリスにあるのだろう。
怪しむように見つめるだけで、相手をしようともしない店主に気にする様子も無いギルバート。
「すまないが、二十代の女性が好む服を数着、見繕って欲しい。肌着や靴なども頼む。金はこれくらいで足りるだろうか?」
相手にされていない事は重々承知の上で、ギルバートが店主にエリスのような女性が好みそうな服を見繕うよう頼むと、腰に下げていた袋から札束を取り出しカウンターに置いた。
これには店主も驚いていたが、目の前にある大金に気を良くしたらしく、態度を改め丁寧に接客し始めた。
「勿論でございます。それですと、この辺りなど如何でございましょう? こちらはどれも若い娘にも人気の品でございます」
「そうか。ならばそれと、他にも数着頼む」
「はい、畏まりました」
買い物をしている間もエリスは一切顔を上げはしなかったのだが、彼女はそれを申し訳なく思っていた。
しかし、今の自分の格好や万が一にもシューベルトたちが捜していたらと思うと姿を見せる事に抵抗があり、どうしても顔を上げる事が出来なかったのだ。