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湿って重たい空気と曇り空の早朝は、バングラを憂鬱な気分にさせるには充分なくらいだった。
部屋の窓からはいつものような晴天はなく、雲は今にも泣き出しそうなくらい重たい表情でうずくまっていた。唯一、小鳥がいつもと変わりなく朝を知らせにやって来ていることがこの気分を打破するための救いのように思える。
ふと時計を見ると、針はもう6:00近くを指していた。ただただ平日にははない、土曜の静寂が流れている。昨夜はうなされたのか、はたまた涙のせいなのか、枕が少し濡れていた。
バングラは毛布を頭からかぶり、ぎゅっと目を瞑る。昨日の出来事を思い返して、また胸が締め付けられるように苦しくなった。
どうして今まで勝手に恋に浮かれていたのだろう。自分はどれだけ単純で呆れるくらい盲目であったのか、また相手の目に映る自分を想像しただけで恥ずかしくて消えてしまいたくなった。
彼女にとっての中国先輩は、入学してから一年たった頃、憧れの的となる出来事があった。
今では彼女の良き友となるにゃぽんちゃんと中国先輩は深い交流があり、直接な関わりはなくともにゃぽんちゃんと共に行動するうちに目にするようになった彼の仕草やギャップのある多面性などの強く興味を惹かれるような魅力が、彼にはあるように思えた。
彼女の恋心に気づいたにゃぽんはやんわりと反対するも、それさえ余計と彼女の恋心に火をつけてしまうキッカケになるくらいにはバングラは中国先輩にどっぷりとハマっていった。彼のする仕草、声、表情どれひとつとっても愛しく感じるほどに彼は心に侵食していった。
彼女のそれは、元は理解相手であり仲介者のにゃぽんでさえも恋敵と認識してしまうほどであった。
一方の中国先輩といえば、生徒会長としてのキリリとした凛々しい一面の裏でプレッシャーに弱く、それを埋めるため自分を慕ってくれている異性と関係をもち、飽きたら突き放すという非道な行為を繰り返す、いわゆるヤバい奴であった。
所詮は同校の生徒というだけあるバングラのことも、内心冷ややかに見ていたのである。
にゃぽんはそれを知ってか知らずか、中国先輩のことを軽蔑のような目で捉え、それに想いを寄せるバングラに嫉妬のような、どこか見透かしてほくそ笑むような、妬みの混じった感情を抱いていたのであった。
この一連が、のちに今までの平穏な味気ない日常の歯車を狂わせていく大きなキッカケとなっていく。
「うぁあーー………」
いつもの時間よりちょっと遅く、ゆったりと起き上がる。ベッドの上で激しく振動するスマホを横目に、寝ぼけ眼を擦って窓の方へ目を向ける。
時計は朝の5時を記している。のに対して薄暗い天気に、曇りかよ、と舌打ちをして中国はスマホの画面を気持ち強めに叩いた。
起き上がってすぐに制服の袖に手を通し、ゆっくりとボタンを閉めていく。最後に襟元のホックに手を掛けたとき、胸ポケットの違和感に思わずとも手が止まった。何かをしまった覚えはあまりない。……はずだったが、微かに残るお香の香りが寂しそうに香って、消えた。瞬間、先週の記憶が蘇った。
朝から自分に対する嫌悪感に吐き気を感じながら、ポケットの中身を素早く取り出してそのまま机の引き出しの奥へ突っ込んだ。
早く朝食を摂って出かける準備をしなければ、今日の朝のボランティアに遅れてしまう。慌ててボタンを掛け直してリビングへと続く階段をかけ降りた。
リビングのテーブルには温かそうな朝食に、濃いめであろう珈琲の入ったカップから上品な香りをリビング一帯に漂わせていた。席について、ゆっくりと食べ始める。
新聞に目を通そうと手を伸ばすと、向かいの席に座る父のカップに腕が触れてしまい、カップが音を立てて大きく揺れた。
……と同時かそれより早くか、父の掌が視界の端をかすめてすぐ、左頬に鋭い痛みと大きな音がリビングに響く。
「朝からぼさっとするな!いつまで寝ぼけている気だ!…大体、何も言わずに手を伸ばすなんて行儀が悪いんだ!!」
父の怒号と、先ほど倒したテーブルのカップ。
溢れる珈琲の気だるさが、まるでくたびれた自分の姿のようで心底気分が悪い。頬の痛みは日頃の体罰のおかげかそれほど痛くはなかった。
父の疲れた顔を見ながら、父の口から出る叱責という名の愚痴をスパイスに、口に朝食を詰め込んで席を離れ、身支度を整えながら父にはいつもの謝罪文を唱えて家を飛び出る。
たまにある、 超絶ダルい朝のテンプレ に中国はイライラしながらも、自身は優等生であるという自覚を取り戻しつつ学校に向かうのだった。