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俺はドライブが趣味だった。ただ、もう趣味などではない。車に乗るともはや嫌気が差すほどだ。あの日からそろそろ3年も経つが、いまだにフラッシュバックすることがある。
3年前、テレビの特集で滝葉城跡という、城と滝と紅葉の絶景が見られるスポットの紹介をしていた。ここからそう遠くもなく、ザ・日本といった景色だった。俺は自然の景色が好きで、尚且つ車を洗車したばかりだったから、即、行くことを決めた。
「このまま、道なりです」と、ナビが喋る。国道沿いの賑やかな街を抜け、いつしか辺りにはのどかな風景が広がっていた。すると、あの道路の上に看板が見えた。看板には「紅葉の郷、滝葉へようこそ」「滝葉城跡は200m先、左折です」と書いてあった。すると、ナビが暫くの沈黙を破って喋った。
「200m先、右折です」
ん?と思った。聞き間違いではない。はっきりと「右折です」と言ったのを俺は聞いた。普通なら、GPSか何かで探知しているだけのナビよりも地元の看板を信用すべきだったのだろうが、何故かあの時の俺はナビを信用していた。
交差点に着いた。左を見ると、ただぽつぽつと集落がある感じで紅葉と滝なんてどこにあるのか分からなかった。右を見ると、ちらほらと山に紅葉が見えた。ナビを信じる俺と実際に見えた景色もあって俺は迷わず右折した。
ガタッ、ゴオーー。右折して数百mほど進むと、急に路面の状態が劣悪になった。所々割れていて、窪んでいて、とにかく走っていてうるさい。そしてそのまま峠道に入る。薄気味悪く、木が茂って暗い峠だ。やっぱり左折だったんじゃないか、と急に後悔と不安感が込み上げてきた。ただ、行くとこまで行ってみようと思ってそのまま車を進めた。
大分峠道を登り、下り坂に転じるポイントに埃やらで汚れた汚い看板を見つけた。「久美梨峠」と書いてあるのが見てとれた。くみなし?変な地名だなと思って見ていた。すると、雨が降ってきた。黒い雲が知らない間に空を覆っていた。ちぇっ、せっかく洗車したのにまた汚れちまう、と思いつつ走っているとついに峠を抜けた。
そこにはこぢんまりとした集落があった。汚い看板がまたあった。「ここは久美梨村です」と拙い字で書かれていた。峠道から降りてきてそのまま村になっている。他に行く道が無さそうなので、村を回ってみることにした。なんだかどれもこれもが褪せた家だった。人が住んでいるには何かが足りないような感じがした。不気味だ。ナビがうんともすんとも言わない。すると、ある畑を見つけた。ど田舎の田畑。別になんともない景色だ。そこにはとても小さな案山子が立っていた。ビビった。その案山子は首から上が無かった。ひぇっ、と間抜けな自分の声が聞こえた。驚きつつも目を逸らしたくなって走り出した。怖い。ただ、このままでは帰りたくなかった。長い道のりを走ってきたのだから、綺麗な景色くらい見たい。俺は、誰か人を探して聞こうとしたが、全く人がいない。まあ雨だからしょうがないか思い、近くの家を訪ねることにした。
「・・・」
インターホンを押したが、反応がない。車は一台、ボロい車が庭に停めてあるから、いるにはいるのであろうが、相変わらず聞こえてくるのは雨が地面を叩きつける音、ただそれだけだった。ポストを見た。回覧板が入っていた。片面のバインダーに地区のチラシが挟まっているだけのしょぼくれた回覧板だった。しかし、そこには恐ろしい内容が書かれていた。
「久美梨祭りの案内 今年も次女以降の女児が生まれた方は久美梨公民館へお申し付けください。剥ぎ取った頭を久美梨祭りの生贄とさせていただきます」
いやいやいや、何だこれ。どう考えても尋常じゃない。背筋が凍った。生贄?日本にそんな文化があるのか?あったとしも現世ではもう廃止されているものじゃないのか?
・・・本当にここは日本なのか?
早まる鼓動を聞きながら俺は自分の車に急いで戻った。そして、急いで走り出した。
左に進むと峠道へ、右へ進むと村の中へまた戻る交差点まで戻ってきた。すると、うんともすんとも言わなくなっていたナビが水を得た魚の如く「ここ、右折!ここ、右折!」とナビらしからぬ荒い口調で勢いよく喋り出した。俺は額の冷や汗を手で拭い、チラッと右を見た後にナビを無視して峠に戻った。その時、誰かが村の遠くでこちらを見ていた気がした。
なんだったんだよ、あれ。俺はそう何度も呟きつつ峠道をすっ飛ばした。そしてだんだんと戻ってくる。いつもの賑やかな街並みが近づいてきた。いつのまにか天気は晴れていた。アスファルトもカラカラに乾いていてとてもいい天気だった。ナビも調子を取り戻し、普通に案内をするようになった。その後、そそくさと帰宅し、怖さを紛らす為にネットで面白い動画を見まくった。
あの村は実在したのだろうか。それは俺は怖くて調べていない。そして、あの案山子は、生贄で首を切られた子だったのではないか。あの村の山の紅葉は祭りで首を切られた子の血で染まっているのではないか。などと考えだしたら3年経つ今でさえ、夜も眠れなくなる。そして気付いた。俺は読み方を間違えていたのだろうと。「くみなし」などではなく、
久美梨村(くびなしむら)
だとね。