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アリスは理由はよくわからなかったが、お福が突然訪ねてきて以来、直哉は人が変わったみたいに時々やけに、不機嫌になることに戸惑いを見せていた
「ガサツな男だらけの所に、一流の礼儀が通った家政婦が来たので戸惑っているのさ、すぐに慣れるよ」
北斗はそう言って笑った
でも本当にそうなのだろうかとアリスは思った、最近の直哉の状態はますますひどくなるばかりだ
身体は瘦せ細り、顔はやつれ、目の下には大きなくまが出来ている、それでも女性の目から見て魅力的に見えるのは、成宮家の遺伝子のおかげだろう
「お前何かいけないものに手を出していないだろうな」
北斗が直哉を睨む
「ドラッグとか?そんなものはやってない」
「ひどい顔をしてるぞ」
「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ~♪あなたが思うより健康でぇ~す♪」
また北斗が直哉をギロリと睨んだ
クドクド長々と小言を言いがちなお福と、言いたいことは簡潔にハッキリ言って、後を引かない直哉とでは性格が違いすぎるため、二人はそりが合わないのはすぐ目に見えてわかった
そしてある日とうとう直哉が爆発した
「ありす~!ナオとお福さんが、喧嘩してるょぉ~~」
明が畑にいるアリスと北斗を呼びに来た、慌ててリビングに三人が駆けつけてみると、そこには喧々囂々と大声でやり合っている、二人がいた
「直哉坊ちゃまの事を思ってこそ言うのです!特に責任の無い次男というお立場で何も、お考えにならないのは無理はありません、あなたが頑張らなくても旦那様が、頑張ればあなたにお給料が入りますからね、でもいつまでもそのお立場に甘んじていたら、もし旦那様に何かがあった時にどうするんですか!」
お福が腰に手を当ててナオに言う
ボソッ・・・「なかなかキツイな・・・ 」
北斗が笑いをこらえてアリスに小声で言った、アリスも北斗の横で両手にを口に当ててコクコク頷く
ブスッ・・・「俺だって色々考えているよ・・・だからってそれと晩酌を減らす事とは関係ないだろ?」
クドクド・・・
「長男である旦那様を支えながらも、自分にしか出来ない何かをお探しになるべきです!まだ下にも明坊ちゃまがいらっしゃいますよ、いざという時にはあなたがしっかりしないと、共倒れになることになりますよ。私も三人姉妹の真ん中でした、私の時は高度成長期で・・・・うんぬんかんぬん・・」
直哉がうんざりして言う
「でたっ!「~私の時は○○」昭和あるあるだな~、今は令和なんだぜ!時代が違うんだよ!そういうのウザいんだよ!今の若者に体育会系は嫌われるよ?古ぼけた自分の価値観をゴリ押しされても、何も響かねぇ~よ!」
直哉の苛立ちはピークに達していた
「こんなこと言いたくはなかったけど、もう帰ってくれよ!お福さん!俺たちゃ今までこれで上手く行ってたんだ!アリスだって立派な牧場主の嫁さんになれなくたって、兄貴は満足してるんだよ!第一コイツがそんなのになれるわけないだろっ」
えへへ・・・「すいません・・・・ 」
アリスが二人の後ろで申し訳なさそうにはにかむ、(どんまい)と北斗がアリスのおでこにキスをする
「あんたにも家族がいるんだろ!いつまでもお嬢様に執着してなくてさ!アリスは兄貴と結婚したんだからもう、お嬢さまでも何でもないだろ!お呼びじゃないんだよ!! 」
明はスイッチを両手に持って何事?と、こちらを見たけどすぐにゲームに夢中になった
「ナオ!言い過ぎだ!謝りなさい 」
北斗が直哉を戒める、それにさらにムカついた直哉がバンッとテーブルを叩いた
「うるさいんだよ!何で赤の他人の、あんたにそこまで言われなきゃいけないんだよ!俺はあんたの息子じゃないんだ!小言や愚痴はあんたの亭主や、子供に言いな!!家族の元に帰れよっっ!」
お福がピタリとその場に立ち止まって、動かなくなった
シン・・・・とリビングが水を打ったように静かになった
ハッとアリスが小さく息を呑む
口火を切ったのは北斗だった
「あの・・・お福さん・・」
ハッとお福が振り返って、アリスと北斗・・・明を見た
「まぁ・・・申し訳ありません・・お騒がせしてしまって・・・」
お福がいそいそとテーブルを拭き出した
「あっ・・・そうそう・・・夕飯用に玉ねぎを取って来ようと思っていたんだわ・・・いけませんね・・あたしったら忘れっぽくて・・・ 」
直哉はバツが悪そうに、口元を隠して窓の外を眺めている、だれも見ようとしない
ホホ・・・「それじゃ・・・畑に行ってきますね、直哉お坊ちゃま・・・お酒はほどほどにして下さいね」
パタパタとお福は勝手口から裏庭に出て行った
「おふくさん~かわいそう~~~~ 」
と明
「ナオ・・・・お前・・・」
「―なんだよ!俺は悪くないぞ!」
直哉が慌てて北斗にどなる、そのハンサムな顔(今はやつれてクマが出来ているが)を歪めて睨む
ブツブツ・・・
「第一勝手にやってきて一流の家政婦だか、何だかしらないが偉そうに― 」
「ナオ君・・・」
「俺だって考えているんだ!それをどいつもこいつも― 」
「ナオ君 」
「なんだよ!アリス!」
ナオが苛立って顔をしかめて、アリスに食ってかかった
「あのね・・・・・」
アリスは両手を顎の下に組んでナオを見つめた、責められると思っているのだろうか、ナオの体がこわばっているのがわかった。病人のような顔つきでこちらを見ている
アリスは出来るだけ落ち着いた声でナオに言った
「実は・・・お福さん・・・8年前に交通事故でご主人と息子さんを・・・亡くしているの 」
。:.::.*゜:.
雑草を引っこ抜くのは、考え事をするのにもってこいの作業だ、ずっとしゃがんでいるのはキツイし、背中は痛くなるけど、紛れもなく考え事をしている頭と体を引き離して動かせる
お福は畑の周りの以前から気になっていた、雑草を一心不乱に引っこ抜いていた
雨上がりの土はやわらかく、この作業はやってもやっても終わらないが、土が不意に降参して頑くなな根っこを手離して、ズルズル根元まで抜けた時は爽快だ
お福は残忍な集中力を発揮して、せっせと手を動かして、あちこち引っこ抜いて回った
あの時もっと強く引き止めておけば
。:.::.*゜:.
柵に張っている蔓が勢いよく伸びているので、力いっぱいそれも引きちぎった
私がもっと口うるさく言っていれば
。:.::.*゜:.
お福はキュッと口を結んだ
8年前のあの日・・・・
運転免許を取得したばかりの息子の京太郎は、嬉しそうにお福に免許を見せた
夫も喜んで息子に言った、いつも健康のために飲んでいる、山頂の石清水が湧き出る有名な神社に、息子の運転でドライブがてら水を汲みに行こうと
お福は空のペットボトル二つを二人に持たせ、駐車場まで見送った
夫は息子に「お手並み拝見と行こうじゃないか」と笑った、息子は嬉しそうに夫の車に、初心者マークを前後に貼った
お福はくれぐれも気を付けてねと言った
「運転歴40年の俺がついているから大丈夫だ」
と夫は助手席に乗り、息子とふざけながらシートベルトを締めた
お福は運転席側にも回り、息子にくれぐれも気を付けてともう一度言った
「母さんは心配性だな」
と息子は笑った
お福が最後に見たのはこの二人の楽しそうな笑顔
水飲み山神社の帰り道、狭い山道を息子の運転で帰る途中、居眠り運転をしていた対向車線のトラックに突っ込まれ
二人を乗せた車は崖から落ちた
二人とも即死だった
あの時もっと強く言って、私が行かせなかったら・・・・
。:.::.*゜:.
ハラハラお福の頬に涙が流れた、もう8年も経つのに・・・今だに後悔の念しか浮かばない
先ほど直哉に怒鳴られた言葉が脳裏に響く
―小言は自分の亭主や息子に言え―
グスッ・・・「私だって・・・・どれほど言いたいか・・・・」
お福は涙を拭い、雑草を引っこ抜くのに再び集中した