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金曜日になると、教室の後ろの席には元貴の姿がある。
最初は月に数回だった。
それが二回になり、三回になり、気付けばほとんど毎週のように金曜日だけは学校へ来るようになっていた。
クラスメイトたちも不思議に思っていた。
「大森って金曜日だけ来ること多いよね。」
「確かに。」
「なんでだろ。」
その理由を知っているのは、たぶん元貴と若井だけだった。
月曜日の朝。
ピンポーン。
元貴の家のインターホンが鳴る。
ベッドの中で作曲していた元貴は、眠そうに玄関へ向かった。
ドアを開ける。
「おはよ!」
そこには満面の笑みの若井。
「……何してんの。」
「学校行く?」
「行かない。」
「そっか!」
若井はあっさり頷いた。
怒るわけでも説教するわけでもない。
「じゃあ行ってくる!」
「……うん。」
それだけ言って走っていく。
元貴は呆然とした。
普通なら「来なよ」とか言うはずだ。
でも若井は言わない。
ただ聞くだけ。
行くか、行かないか。
それだけだった。
火曜日。
ピンポーン。
「学校行く?」
「行かない。」
「わかった」
水曜日。
ピンポーン。
「学校行く?」
「今日は無理。」
「そっか」
木曜日。
ピンポーン。
「学校行く?」
「行かない。」
「わかった」
そして金曜日。
ピンポーン。
ドアを開ける前から分かる。
どうせ若井だ。
元貴が鍵を開けると、案の定いた。
「おはよ!」
「……おはよ。」
「今日は?」
少しだけ沈黙。
元貴は頭を掻いた。
「行く。」
すると若井の顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!?」
「うるさい。」
「ひどいよ元貴。」
まるで自分のことみたいに喜んでいる。
元貴は思わず笑ってしまった。
「なんで若井が喜ぶんだよ。」
「だって一緒帰れるじゃん。」
その一言が妙に嬉しかった。
そんな日々が続いた。
若井は毎朝来る。
雨の日も。
寒い日も。
少し寝坊した日も。
必ずインターホンを押す。
「学校行く?」
それだけ。
無理に連れ出そうとはしない。
責めない。
否定しない。
だから元貴も少しずつ警戒を解いていった。
ある朝。
ドアを開けると若井の姿があった。
「学校行く?」
いつもの質問。
元貴はふと聞いた。
「若井さ。」
「ん?」
「なんで毎日来るの。」
若井は少し考える。
そして当たり前みたいに言った。
「会いたいから。」
元貴は固まった。
若井は続ける。
「学校来なくても顔みたいじゃん?」
「……。」
あまりにも自然な言葉だった。
打算もない。
裏もない。
ただ純粋な本音。
元貴は視線を逸らす。
胸の奥が少しだけ温かくなった。
「……変なやつ。」
「よく言われる。」
若井は笑った。
元貴も小さく笑う。
そしてその日の朝。
珍しく言った。
「今日、行く。」
若井は目を丸くする。
「えっ、水曜日だよ!?」
「知ってる。」
「金曜日じゃないのに!?」
「若井うるさい。」
でも若井は飛び上がるくらい喜んでいた。
その様子を見ながら元貴は思う。
学校が好きになったわけじゃない。
大勢の人も苦手なままだ。
だけど。
毎朝当たり前のように会いに来てくれる誰かがいる。
それだけで、少しだけ外へ出てみようと思えた。
コメント
3件
もう純愛すぎる、尊、
わあ、このエピソード、すごく好きです。若井くんの「会いたいから」って一言、打算も裏もなくて、ただ純粋に元貴くんに会いたいだけっていうのが伝わってきて胸がぎゅっとなりました。毎朝インターホンを押すだけのシンプルな繰り返しなのに、段々と元貴くんの心がほどけていく様子が丁寧で、読んでて温かい気持ちになりました。「学校が好きになったわけじゃない」という地の文で終わるラストも余韻が良くて、連載中なら次回が待ち遠しいです!