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晶哉は、まだベンチに座っていた。照りつける夏の日差しが容赦なく肌を焼く。
手のひらのスマホは、もう熱くて握るのも辛いほどだった。
「小島くんに強がって“忘れてや”とか言ったけど……」
声が震えた。
「ホンマは、忘れてほしくない……。忘れられるのが、怖い……。」
風が、静かに頬を撫でた。
蝉の声が、けたたましく響く。
その時だった……
『晶哉〜!』
耳に届いた声。
信じられないと思いながら、晶哉は顔を上げた。
太陽の逆光の中に、健が立っていた。
『やっと見つけたわ!』
その笑顔は、確かに”自分に向けて”だった。
「……小島くん、なんで?」
『晶哉のこと、絶対探すって言ったやろ?』
そう言って笑う健。
その笑顔を見た瞬間、晶哉の頬を涙が伝った。
「……小島くん、俺さ……ホンマは忘れてほしくない。小島くんだけでも、ええから覚えといてほしい……」
声が詰まり、言葉が溶けた。
『晶哉……。俺は、絶対に晶哉のこと忘れへん。約束する。』
健の言葉はまっすぐで、迷いがなかった。
その瞬間、雲の切れ間から光が差し込んだ。
2人を包むように、やさしい陽の光が降り注ぐ。
まるで、“希望”がそこに宿ったかのように……。
だが……
その“光”の下で。
健の背後に、ゆらりと黒い影が揺れた。
それは形を持たない“闇”だった。
目には見えない、記憶を喰らう何か。
健の肩へ、静かに手を伸ばしていく。
まだ誰も、その存在に気づいていなかった。