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「あいつ、意外とあっさりでしたね。てっきり一緒について来るかと思ったのです」
ローサについて城門までのゆるやかな坂道を下りながらメリーがちらりと後ろを振り返った。
「リューはそう簡単に国を離れられないよ」
そう答えながら、私も正直少しだけ拍子抜けしていた。
確かに昨夜、笑って見送ってくださいとお願いしたけれど。
(なかなか手を離してくれないんじゃないかとか考えちゃった)
まるでそうなることを期待していたみたいで恥ずかしい。
きっと竜騎士であるローサを護衛にと決めてリューも納得したのだろう。
私の前を行く、いつものエプロンドレス姿とは違うピンと背筋の伸びた凛々しい後ろ姿を見つめて。
「ローサ」
「はい」
呼びかけると彼女はすぐにこちらを振り返ってくれた。
「護衛を引き受けてくれて、本当にありがとう」
そうして頭を下げる。
さっきは驚き過ぎてちゃんと言えなかったから。
「とんでもございません。陛下より竜騎士の称号を戴いたときから、私の役目はコハル様をお守りすること。この度の護衛という任務も大変光栄なことと思っております」
胸に手を当て敬礼され、そんなこれまでとは少し違うローサの態度になんだかくすぐったくなった。
「でも本当にびっくりしたよ。ローサが竜騎士だなんて」
照れ隠しにいつもの調子で言うとローサはふふと微笑んだ。
「わたくし、元々竜騎士志願だったのですよ」
「そうだったの?」
「はい。ですが陛下より侍女としてコハル様のお傍につくようにと仰せつかりまして。コハル様をこの竜の城にお迎えするまでに侍女としての仕事や礼儀作法など必死で覚えました」
驚いた。
ローサは侍女として完璧に見えたし、ベテランなのだと思っていた。
「ですから、正直申しますと、この護衛のお話を戴いたときには心が躍りました」
そう少し潜めた声で言った後、ローサは侍女ではなく竜騎士としての自信に満ちた笑みを私に向けた。
「これこそがわたくしの本領。全身全霊をかけてコハル様をお守りいたします」
大袈裟でなくその格好良さに痺れた。
顔が少し赤くなってしまったかもしれない。
そのときメリーが慌てたように私の目の前に飛んできて胸を張った。
「メリーも! メリーもコハル様を全身全霊でお守りするのです!」
竜騎士のローサと妖精のメリー。なんて心強い旅の仲間だろう。
私は胸が熱くなる思いで、そんなふたりにもう一度ありがとうとお礼を言ったのだった。
竜の城をぐるりと囲む城壁。その玄関口となる竜のレリーフが施されたアーチ型の門を潜ると、その先にカネラ王子と馬車が待っているのが見えた。
「馬車で行くの?」
「はい。港まで馬車で参ります。夕刻には港に到着できるかと」
ローサが答えてくれる。
ここに来るときはリューに抱えられて飛んできたし、7年前は基本徒歩だった。
どこかで乗合馬車を使ったことはあったけれど、こんなに装飾の凝った立派な馬車に乗るのは初めてだ。
「お待たせしました」
カネラ王子と馬車の前に立つ御者さんにぺこりと頭を下げる。
と、王子はローサの方を見た。
「えーと、君が例の護衛さんね」
「ローサと申します。以後お見知りおきを。カネラ殿下」
王子はローサの前では素の態度で行くみたいだ。
ローサもそれで特に驚いたり気分を害したりした様子はない。
「で、それは?」
彼は私の後ろに隠れているメリーを指差した。
「妖精のメリーです。この子も一緒に来てくれることになりまして」
「妖精……へぇ、本物は初めて見るな」
覗き込むように見つめられて、メリーは更に引っ込んでしまった。
「そうなんですか?」
「妖精は基本シャイですからね。わたくしもこんなに近くで妖精を見るのはメリー様が初めてです」
ローサがそう続けた。
言われてみると確かにこれまで『妖精の国』以外で他の妖精を見たことはない。
(妖精王のエルもレアキャラみたいに言われてたけど、メリーもそうだったんだ)
そんなことを思いながら首を回し背後を見ると、メリーはそんな私を見上げて円らな瞳をぱちぱちと瞬いた。
そして早速私たちはその二頭立ての馬車に乗り込んだ。
ローサは「わたくしはこちらに」と御者の隣に座り、間もなくして馬車は動き出した。
と、向かいに座るカネラ王子が大きくため息をついて背もたれに身体を預けた。
「やぁ〜、一時はどうなることかと思ったけど、決心してくれてありがとうね、聖女サマ」
「いえ、お役に立てたらいいのですが」
「立つ立つ。でも、あの竜帝がよく許してくれたね」
首を傾げられて思わず苦笑が漏れる。
「ローサとメリーが一緒ならってことで」
私にぴったりとくっついて縮こまるように座っているメリーを見ながら答える。
「そっか。やぁ~それにしても良かった。これで俺の面目も立つよ」
「そういえば、カネラ王子はおひとりでここまで来たんですか?」
一国の王子様なのにお付きの人が誰もいないなんて。今更ながら不思議に思って訊ねる。
「あぁ、港でうちの船が待機していてね、そこで皆俺を待ってるよ。竜帝は気難しいって聞いてたから、敢えてひとりで来たんだ。こちらは丸腰ですよ~ってね」
「でも、よく許してくれましたね」
先ほどの王子と同じように首を傾げる。
リューが気難しいと聞いていたなら尚のこと、ひとりでは危険だと反対されなかったのだろうか。
と、王子はふっと口端を上げた。
「まぁ、俺は王子っていっても三番目だからね。聖女サマほど大事にはされてないってこと」
そうしてカネラ王子は窓の向こうに視線を投げた。
そこから見えるのは木々の緑だ。
(そっか、砂漠の国には王子様が10人くらいいるんだっけ。きっと色々あるんだろうな……)
王子の涼し気な横顔を見ながらそんなことを思った。
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