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片手に買い物袋。片手に米を持って、女の子の家まで向かっている。女の子は何も喋らなかったが、聞こえてくるのは思考。それはもう、1人でわぁわぁ言ってて、俺が隣にいるのが落ち着かないらしい。
「あんた、見たところ俺とそう歳変わんねぇけど、最近引っ越して来たの?」
なんとなく質問してみたら、その子は “ 気を遣ってくださった ” だって。自己肯定感低いんだな〜。
女の子は俺の1つ下で、今日引っ越してきたらしい。名前は ゆう だってさ。かわいいじゃん。アパートの部屋は2階だって言ったら、ゆうは “ この時間がずっと続けばいい ” って。そりゃあ、俺だって嫌じゃねぇけど…..。階段上がるまで持ってくっつったら、律儀に例を言われた。そしたら、上目遣いで見てきて、なんか….小動物っぽい?可愛いな….って思ったら、さらに自虐しだして。飽きねぇやつ。
変わってんなぁ。俺のこと、抱かれてもいいくらいかっこいいって思った割には矛盾してて。
「っははっ なんだよ、あんた….いや、なんでも」
階段を上がって、家の前まで。
「すみません、こんなところまで。助かりました」
「それなら良かった。じゃあ、気をつけろよ」
軽率に “ 抱かれる展開になったらそれはそれで ” とか思うんじゃねぇよ。自分大事にしろ。
商店に帰ると、トイレから出たルーがレジにいた。
「あっ!どこ行ってたノ?!」
「野暮用だよ。すぐそこ。帰ってきたんだからいいだろ?」
「お昼ノ買い出し?!お土産ハ?!」
「ねぇよ店じゃねぇんだから」
女の子の家に荷物運んでやってた、なんて言えね〜….普段そんなことしねぇから、ぜってぇなんか言うだろコイツ。
そんなこんなで1日が終わって、次の日。
夕方、交番から坂本商店に電話がかかってきた。
「商店街近くの通りで、” 坂本を出せ “ って暴れてる男がいるんですが…..」
受話器をとった坂本さんの思考を読み取り、俺はガラガラと商店のシャッターを閉めた。閉店時間じゃないけど、この時間から来る客も少ないし、いいだろ。
チャリを漕ぐ坂本さんの後ろに座って、いざ商店街近くへ。そういえば、さっきすれ違ったのは、ゆう…か?
商店街近くの通りには、拳銃を持ってウロウロしてる男がいたから、そのままチャリで轢いた。男はすっかり伸びていたので、武器だけ奪って、あとは警察が何とかするだろ。さて、帰ろうか….と考えている坂本さんの後ろに乗ると、坂本商店で下ろしてくれた。俺も自分の家に….と身体を伸ばしたら、
” たすけて だれか “
鈴が弾む声は、車の影から聞こえる。よく見れば、治安の悪そうなやつが車の影に向かってる姿が。拉致されそうになってんだ、と思った時には、反射的に身体が動いていて。車のルーフに右手を置いて、そのまま遠心力と一緒に男に向かって身体を降ろした。
「ぐぇっ?!」
と情けない声を出したやつは、ゆうの右足首を掴んでいたであろう手を離した。地面にへたり込むゆうの背後から現れた男も、溝落に1発入れたことで伸びた。
「シン….くん…?」
「おう。怪我は?」
「ない、です…..大丈夫、ありがとう….」
「なら良かった」
手を差し出して、ゆうの手が俺に触れる。小さい手。ゆうは立ち上がろうとしたら、苦痛に歪んだ顔をした。思考からして捻ったようだ。
「仕方ねぇなぁ」
ゆうの腰と太ももに腕を回して、まぁ….いわゆるお、お姫様抱っこってやつ….を、した….。格好つけたな、って自分でも思ったけど。
” え、あれ?私助けてって言ったっけ?こんな夜で、よく見つけられたね…. “
「そりゃ、見つけるだろ。あんたの声がしたら」
あ、やべ。言っちまった。….あー、はず….。
「…..こ、え?」
「あー….なんでも」
エスパーなんて言ったら、あんたは気味悪がるかな。….やめとこ。黙っとこ。
ゆうのアパートの階段に差し掛かったので、気合いを入れる。そりゃ、さすがにこないだの荷物より重いからよ。すると、ゆうが俺の首に手を回してきた。ふわっと香るのは、柔軟剤の匂いかな….なんて、いや、俺今手汗酷いんじゃね?
部屋に着くと、ゆうはもう降ろしていいって言うから降ろしてやった。が、片足で鍵を開けるのは難儀だろうから俺が開けてやった。
「あ、ま、待って!あの、なにか持ってって、」
さっき例も言ってたのに。ほんと気が利くっつーか、律儀っていうか。そんな体で無理すんなよ。
「いーいー。休めよ。鍵挿しとくから」
「で、でもお茶かなにか、1本でも、」
「あー、…..坂本商店で渡して。お大事に」
なんかやらしい気がしてドアを閉める。すると、
” すごくかっこよかった “
とか言うから、俺だって恥ずかしくなって、
「鍵閉めて寝ろよ!」
と扉をもう1回開けて閉めた。….だって、やらしーだろ。俺のこと信頼しきって、身体預けていいとか言って。言ってねーけど考えて。そんなやつ、見てたらこっちだってそんな気になるわ。….おやすみ。