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戦争が終わって、数日後。いや、数週間は経っただろうか。私達は日本へ帰還した。久しぶりの日本は、なんだか懐かしい感じがして、出発時は桜が咲き終わりの時期を迎えて、ぽつぽつと咲いており、少し暑い気温だったが、もう帰ってきた頃には木は赤、黄色に染まって、涼しさが感じられる気温になっていた。街並みは空襲を受け破壊されていたところもあったが、あの懐かしさはまだ残っていた。そして、みんなそれぞれの場所へ帰っていき、それぞれの生活を紡ぎ始めている。
「お母さん!!!」「真紀、友紀…!ただいま。良い子にしてた?」「真紀ね、寂しかったけど…頑張ったんだよ!」「友紀も!お母さん…これからはずっと一緒だよね?」「もちろんよ…」カナさんは双子の子供と再開し、また一緒に暮らし始めた。「カナ…良かった…!」「あなたも無事で…嬉しい…」幸いな事に、旦那さんも戦争から無事に帰還して、今は家族四人で幸せに暮らしている。
涼子は、市内の病院で、従軍看護師だった経験を活かして働いている。看護の腕は相当な様で、もう副師長にまでなったそうだ。「トワ!久しぶりだな〜!」「涼子!!久しぶり、元気してた?って…あれ?その子は?」涼子は3歳くらいの男の子と一緒にいた。息子か、と思ったけど、顔があんまり似てなかったので分からなかった。
「あ〜こいつは、私が引き取ったんだよ。私の知り合いが戦争で亡くなって…孤児だったんだ。虎太郎って言うんだぜ。ほら、挨拶しな?」
「おれ虎太郎!3歳!」その子はニコニコしながら挨拶し、指を3つたてて3のジェスチャーをした。こんなにも笑顔で幸せそうなのに、まだ数ヶ月も経たないうちに大事な人をなくしてしまったのか…戦争は何億もの人の大事なものを奪い去ってしまった。平穏、財産、家族、命…それが子供だろうが大人だろうが、軍人だろうが民間人だろうが関係ない。だけど、失っても歩き続けなきゃならないのだ…
「久しぶり、トワちゃん」「あっ、チヨ!久しぶり〜元気だった?」私とチヨは偶然にも同郷だったので、久しぶりと言っているが会うのは1週間ぶりだ。あれからチヨは作家として活動し始めた。お絵描きや執筆活動の趣味が趣味だったが、この戦争が始まってから親に看護師に専念するようにと禁止されていたらしい。だが、従軍看護師として戦地で貢献した為、母に認められやっと解禁されたらしい。「今は小説を書いてるんだ、戦争モノの。ノンフィクション…って事になるのかな?」1度彼女の原稿を見せて貰ったが、玄人のような味のある文章で、とても面白かったのをよく覚えている。「楽しみだな、出来たら教えてね!私が読者第1号になるよ」「へへへ…嬉しい」だがこの時の私達は知らない。後に彼女が書いた絵本が大ヒットし、超定番の絵本として老若男女問わず愛されることを…
私はと言うと、実家の和菓子屋を継いで働いている。お菓子を作る時は何も嫌な事を考えず没頭できる。
まぁ…それはどうでもいいのだがもう1つー
私は戦地で亡くなった人の遺品を遺族に渡しに行く事をしている。(個人的にだが…)この間はアキさんのご実家に行って、彼女の隊服の1部だけだが渡しに行った。ちょっと夏の勢いも衰えてきた頃…晴れてて気持ちのいい日だった。
扉をノックしたら、すぐに返事が来て、扉が開いた。家の主は60代くらいの女性だった。「こんにちは。私は従軍看護師の中野と申します。こちらはアキさんのご実家でよろしいですか?」「ええ…そうです。従軍看護師という事は、戦地でアキと…一緒になったんですね?どうぞ中に」言われるがままに中に入れさせて貰った。そこはどこか安心感のある場所で、あの彼女が住んでいたとはちょっと思いにくい程、普通で家庭的な場所だった。「私はアキの祖母です。彼女の両親は彼女がまだ幼い時に亡くなってしまい…彼女の祖父も私がまだ若い時に亡くなってしまったので…私ひとりで育ててきました。」「そうなんですね…あっこれをどうぞ…アキさんの軍服です。ほんの一部しか持って来れませんでしたが…」そうして彼女の軍服を手渡した。「まあ…ありがとうございます。」おばあさんの目にはほんのりと涙が浮かんでいた。それから、アキさんが戦争の時にどんな事をしていたかを話した。私よりも歳下なのに皆とても尊敬していた事、彼女が軍を鼓舞し、彼女のおかげで成し遂げ慣れたこと…色々話した。「あの子が本当にまだ…14歳くらいかしら。その位の頃に何故か陸軍に入隊して…最初は彼女の嘘だと思ったんだけれどね…入隊した後に軍人さんが家に来て、あの子の強さは並の軍人顔負けだって言ったから…誇らしくて、でもちょっと怖かったわ。」「あの子が亡くなった知らせを聞いてから、ずっと後悔していたの。なんであの時止めなかったの?って…でも貴方が来てくれたおかげで気持ちが晴れたわ。あの子のした事は無駄じゃなかったのね」
「ありがとう、トワさん。貴方が来てくれて良かった」おばあさんは手で涙を拭った。でもその涙は後悔や悲しみの涙じゃなく、爽やかで晴れ晴れとした涙のように見えた。
「いえ、私も…よかったです。今度お墓参りに行かせてください…」
そして、どんどん寒くなってきて冬になり始める頃…最近はアキさんのおばあさんとはたまに文通をしており、看護師のみんなとも会って話したりすることがある。でも1つ心残りがある。それは波多野中尉の事だ。あの時、野戦病院で別れたきりで、まだ会っていない。戦地で亡くなってしまったのか、とも思い亡くなった人の名簿を調べてみたが、何処にも名前は見当たらない。まさか、何処かで生きているのか…いや、でもあの状況で生き残れたとしてもどうやって日本に帰って来れるのだろうか。まさか、戦地に取り残されているのか?私の心を表すかのように、冷たい風が吹く。寒いなぁ…波多野中尉は何処にいるのだろうか…辛い思いはしてないだろうか。空を見上げたら、視界に幾つもの白い粒が入り込んだ。ああ、雪だ…
「中尉殿…もう一度会えたら…」
少し暗い気持ちである場所へ向かう。見えてきた。今日はアキさんの墓参りに行こうとしていたんだ。雪が降ったら当分は行けなくなるから…ちょっとの間のさよならを言うために。
数本のお花を持って彼女の墓に向かうと、既に先約がいたようで、その人は手をあわせ数秒ほど目を瞑っており、なにか呟いていた。
こんにちは、と声をかけようとしたが、お互い顔を見て、はっとした。
「「あっ…」」
「中尉殿…!?」「お前…トワか!?」
確かに見覚えのある顔、聞き覚えのある声、彼だ。生きていた。
「えっ中尉殿…なっ、なんで…」なんだか目の奥が熱くなって…ずっと会って話したいと思っていたのに、いざ目の前にしたら言葉がつっかえておかしな嗚咽しかでない。
「久しぶり。生きてたんだな。良かった。」彼は私の頭をわしゃわしゃ撫でた。私はそれにつられて彼の前でボロボロ泣いてしまった。そんな私に彼は少し苦笑いをした。
「そんなにか」「あ、会いたかっ…た!ずっと…心配してて…探したんですよ!どうして…」
なんだか変な怒りのようなものと感動が心に溢れ出して、つい彼を抱き締めた。「や、やめ…」彼はちょっと驚いていたが、やめろ、とは言わず、背中をさすってくれて、色々話してくれた。
「申し訳なかったな。お前ら看護師にに生きてると言わずに…日本に帰ってきたのはほんのちょっと前だからな…つい最近まで向こうの国にいた」
ーーー
「あっ…なんかごめんなさい」涙がひいてきて、さっきの自分の取り乱し具合が恥ずかしくなった。
「別に。お前もアキの墓参りにか」「はい、アキさんのおばあさんに教えて貰って…」「そうか…まあ、アイツも喜ぶよ。」
そしてふたりとも墓参りを終えて、帰ろうとする雰囲気になった時、私は、なんだか名残惜しくて…
「それじゃ…「あの!」
彼がじゃあなと言いかけた時、勇気を振り絞ってこう話した。
「こ、この近くに私のお気に入りの喫茶店が…あるんです。ちょっとお茶でも…どうですか?私達があの時別れた後の話とか…色々したいです。」
彼が返事をくれる前のたった数秒が凄く長くて、心臓がドキドキうるさかった。冷や汗もちょっと出ていたくらい。
なんだか恥ずかしくなって、私の顔がぶわっと赤くなった。私は顔に出やすい方なので、彼は私の顔を見てちょっと笑った…
「ああ、暇だからいいよ。連れてってくれよ」
そして、私達は歩き始めた。少し高い丘の上にあるこの墓地は、街の景色がよく見える。戦争で壊された街は少しずつ元通りになっていき、平穏な街並みに、しんしんと降る雪が美しい。
2人とも、また来いよ!
なんだかそんな声が聞こえて、立ち止まって私達は振り向いたが、目に映るのは静かな墓地のみ。だけど、なんだか彼女がそこにいる気がしてー…
2人で懐かしい気持ちになりながら、また歩き出した。
私達の戦争は、やっと終わった。