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3話 日差し
5月――まだ朝晩は肌寒いけれど、ふとした風に春の匂いが混じりはじめていた。
僕の部屋のカーテンの隙間から、やわらかな朝日が差し込んでいる。
ベッドの下、固めのラグの上で僕は目を覚ます。頭が少し重く、首筋がじんじんと痛む。昨夜の出来事を思い出し、頬が微かに熱を帯びた。
「……ふぁ……」
伸びをしようとした瞬間、視界の上方にふわりと影が落ちる。
──。
ベッドに寝かせたはずの彼が、なぜか体の上に乗るような形で、両腕を回して僕にしがみつきながら、すやすやと寝息を立てていた。
「……は、え……えぇっ!?」
僕は驚きすぎて、思わず彼の体をばっ!と振り払ってしまった。勢いに押されて、彼はベッドの反対側にごろんと転がる。
「いたっ……な、何すんの……」
彼は目を細めながら、寝ぼけたようにぼそりと呟いた。目元をこすりながら、ぼーっとした顔でこちらを見つめる。
「な……なんで、あなたが……ベッドにいたんですか!? 僕、確か……ソファーに……」
「んー……太陽の光、イヤだったから……勝手に入った……」
ぽそ、と返ってきた声に、僕はしばし固まる。
「そ、そんな理由で……勝手に人のベッドに……」
彼はふにゃ、と口元を緩めて小さく笑った。
「だって、あったかかったし……君の匂い、落ち着くし」
「……っ、///」
顔が一気に赤く染まる。言い返そうとして口を開いたものの、うまく言葉が出てこなかった。
「ねぇ、今日も血……」
「だ、ダメですっ!」
「あ、断るの早い……」
そこでふと、僕は気づいた。
彼がまだ布団を肩までかぶって、まるで日差しから逃げるように身を丸めていることに。
「……そんなに、日差し……苦手なんですか?」
僕が尋ねると、彼はほんのわずかに顔をしかめた。
「……ちょっとどころじゃない、痛いの。ジリジリして、皮膚が焼けるみたいに」
そう言って見せた首筋は、光に触れかけた箇所がうっすら赤くなっていた。
まるで日焼け、いや――軽いやけどのようにも見える。
「それって……普通じゃないですよね」
僕は思わず、その小さな肩に手を置いた。
驚くほど冷たい感触が、じん、と掌を包む。
「……っ!」
氷のような体温。
寝起きの人間の温度じゃない。まるで、血が通っていないみたいに――
「……?」
「……っ」
言葉に詰まりながらも、僕の中で確かな“違和感”が形になりはじめる。
(この子……人間じゃ、ない……?)
違和感が確信に変わるその時は、もうすぐそこまで来ていた。
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