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※本作品は二次創作でありstgr内のストーリー、PL様には一切関係がありません
mondとnsm
僕はMonDと名乗る少年と共に、次の街への進路を歩いていた。
「どうして君は……僕のことを助けるの」
目は合わさずぽつりと呟く。
「さすがにもう、”気分が良かったから”…じゃないでしょ?目的はなに?」
彼は少し間をあけてこう答えた。
「おれ、おかねのかせぎかたがしりたいんだよね」
「…………」
「……働いたら?」
「ちがう!もっとたのしいやつよ。ギャンブルとか」
彼は僕の目前に立ち塞がると、ずいっと顔を近づけた。
「おまえ……なしま?はさ、おかねかせぐのうまいんでしょ?おれもやりたい」
「……僕のやってることは犯罪だよ。人からお金を騙し取ってるの」
「いいよべつに、なんでも。おれ、どろぼうならしたことあるよ」
あまりにもあっさりと言うので呆気にとられた。ますます彼の身の上が分からない。
「あるんだ…君てっきり、金持ちのところの坊ちゃんかと思ってた。1人でカジノに来る子供ってだいたいそうだから」
「んーおれさ」
「すうじつまえに、いえからにげてきたんだよね。おやはかねもちだったから、いえにあったほうせき、ぜんぶもってった」
「……ヤバくない?まさかの家出少年?」
「そうそう」
数日前に家出、しかもカジノに入り浸り盗みまではたらくとは…あまりにも破天荒がすぎる。
だが、彼の言っていることにおそらく嘘はない。
とても人を騙せるようなタイプとは思えないから、とりあえず今は…信用しても良さそうだ。
何より、彼の腕っぷしは使える。
「じゃあ……いっしょに犯罪、やってみる?」
そう言うと、彼は嬉しそうに目を輝かせた。
隣街についた僕らは、さっそく盗みの計画を立てた。
「この宝石店。夜の9時〜9時15分の間、ちょうど警備の人の交代時間で手薄になるんだ」
「その間に店内に侵入して、宝石を盗もう」
「わかった」
2日かけての下調べは完璧だ。
心配要素といったらやはり素人同然の彼だが、今後一緒にやっていけるかどうか見極める材料にもなるだろう。
──決行の時間がやってきた。
調べ通り、警備がいなくなる間を狙って僕らは店の中へ侵入した。
「ショーケースにカギがかかってる」
彼は指示を仰ぐように僕を見た。
ふっふっふ、と得意げに笑った僕は、ピッキング道具を取りだした。
「僕の特技なんだ。みてて」
ものの数秒でショーケースの鍵を開けた。
おおお〜という感嘆の声があがり、ちょっと嬉しくなった。
僕らは手分けして、着々と宝石を回収していく。
はじめ彼の挙動は不安だったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。素人とは思えないほど冷静で頼りになる。
「……こうして誰かと一緒に犯罪するのも、案外悪くないな」
そうぽつりと呟く。自然と笑顔になっている自分がいた。
パリーーーン!!
突如、ガラスが割れる音が響いた。
音のする方へ振り返ると、なんと彼がどこから持ってきたのかわからないハンマーでショーケースを叩き割っていた。
「ここ、あけてもらおうとおもったんだけど…。めんどくさくてわっちゃった」
「おい!誰だ!!」
警備員がバタバタと駆けつけてきた。
「やばっ…!にげ…」
慌てて彼の手を引こうとするが、彼はいつの間にか元いた場所から消え、光の速さで警備員に殴りかかっていた。
バタッと倒れる音が聞こえる。
どうやら1発KOさせたらしい。
しかし他の警備員も続々と駆けつけてくる。
「強盗だ!捕まえろ!」
「なしま!やばーい!!やばーーい!!!」
「ちょっとまじでっ!何してんのぉ!?」
──バレた時に逃げる用のルートを調べておいたのが正解だった。よく見ないと一見分からないような裏道をくぐり抜け、僕らはなんとか逃げおおせた。
逃げた先の草むらに倒れ込んだ僕らは、肩で息をしながらしばらく空を仰いでいた。
「あー、あぶなかった!」
彼は腰に手を当て、満足げな表情で立ち上がる。さすがに我慢ならないと、僕は彼に詰め寄った。
「ねぇ何考えてんの!自分で割っといてやばいやばいじゃないのよ!意味わかんないよ!しかも僕の名前叫ぶし!!」
興奮気味にそうまくし立てるも、彼は反省するどころかケタケタと笑いだした。どうやらツボに入っているみたいだ。
あまりにも無邪気に笑うものだから、さすがの僕も力が抜けた。
「もぉ〜…」
………まぁ確かに、警備員が来たときの彼の慌てた声はちょっと面白かったけど。
緊張が解けたせいだろう、思い返すと僕まで笑いが込み上げてきた。
そのまま2人でゲラゲラと笑い合う。
……不思議な気分だ。
犯罪をするときはいつも必死だった。失敗しないよう常に気を張っていた。
しかし、やることなすこと無茶苦茶な彼といると、どうしてだか気が抜ける。
人と純粋に笑い合うなんて、本当に何年ぶりだろうか。
そう思い過去の記憶を辿ると、嫌な記憶たちの奥底に優しい母の顔がみえた。
しかしその思い出も、真っ黒な霧で覆い潰されてしまう。
「これさ、いくらになるかな」
彼のウキウキした声で途端に現実に引き戻された。
盗んでる途中で逃げ出してしまったとはいえ、一つ一つの値段を考えると結構な額になるだろう。
「……君って今、いくら持ってるの?家出したときに持ってたお金ぜんぶある?」
「んーけっこうカジノでとかしたから…でも、このほうせきうったら、プラスになる」
「そっか。じゃあ今回の報酬は全部君にあげる」
「え!?」
彼は目をまん丸にして僕をみる。
しばらく黙りこくった後、意を決して僕は口をひらいた。
「やっぱり、君は家に帰ったほうがいいよ。お金も親に全部返してさ」
数日一緒に過ごして思った。
彼に黒の世界は似合わない。
「なんで?」と不満気な彼に、僕は慎重に言葉を選んでいた。
──理由は色々ある。
僕の首を絞めあげ殺そうとしたあの男。あいつの必死さを、汚さを見ただろう。
でも仕方がない。彼には彼の、そうならざるを得ない事情があったのだ。
僕もあの男と一緒だ。
人の不幸の上成り立つ行為でしか生きることが出来なかった。それ以外の選択肢を見つけられなかった最低な人間なのだ。
でもこの目の前の少年は違う。
彼には真っ当に生きれる未来がある。
家族や友達と笑い合いながら、 幸せに暮らせる未来がある。
「君は、まだ捕まってないし……引き返せるとしたら今しかない。ここで白として生きれる道を閉ざしてしまうのは、もったいないと思うんだ」
彼の顔を真っ直ぐ見るよう意識した。
とにかく僕の真剣さを、彼に伝えなければ。
「なんでそうおもうの?」
彼は僕の目をじっと見つめ返す。
……この目に嘘はつけない。
「き、君を犯罪に誘ったのは、申し訳ないけど……でも僕は君が……良い奴だと思ったから。
だから、黒の世界に染まって欲しくないんだ。……ごめん。これは、僕のエゴなのはわかってる…」
だんだんと声が小さくなる。
我慢ならなくて、僕は彼の目から逃げるように顔を伏せた。
彼は煮え切らない態度の僕に構わず、口を開いた。
「おれはクロになるよ」
そう言い切った彼の言葉に迷いはなかった。
きっとこれ以上、僕がなにを語りかけても彼には届かないだろう。
……そりゃそうか。だって、出会ったばかりなんだもん。彼の心を動かせるような関係値なんて築けていないし、第一僕には築き方もわからない。
「……なんでそこまで、黒になりたいの?後戻りできないんだよ?」
それでもなお僕は食い下がった。
余計なお世話なのはわかっている。
でも僕は彼に、この先辛い思いをして欲しくないと本気でそう思ってしまったのだ。
それほどまでに彼といる時間は…
「たのしいから。それに、なしまといっしょにいるほうが、じゆうだよ」
そう言って彼は満面の笑顔を見せた。
まるで黒の人間とは思えないその眩しさに、僕は呆気にとられた。
「なっ………んだよそれ」
そんな適当な理由で、この道に進むのか。
つくづく舐めたやつだと思った。
黒の世界は、そんな生易しいものじゃない。裕福な家庭、まともな人生のレールを手放してまで、手に入れるほどの価値はない。
そう、価値はないのだ。
けれども彼は、そんな大きなものを天秤にかけてなお、僕と共に居ることを選ぼうとしている。馬鹿げた選択だと思う。
やっぱり今すぐ僕が止めてあげるべきだ。
止めてあげるべきなのに……
ただただ嬉しくてたまらなかった。
その感情が、ひたすら僕の言葉をつまらせていた。
「なしま」
「あしたもわるいことしよう」
「………うん。… わかったよ、MonD」
はじめて彼の名前を呼んだその時、喉の奥がぎゅっと縮まるような感覚がして、僕はそれ以上何も言えなかった。