テラーノベル
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「名前さん」
名前はすぐパソコンから顔を上げた。
珍しい。所内で下の名前で呼ばれるなんて。
「…週末」
と隣から見下ろされ首を傾げた。
「…出掛けませんか?最近家にばかりいましたし」
「警部、嬉しいんですけどこの猛暑の中出掛けるのも…」
「いえ」
と諸伏。
「親戚が会員制ホテルの会員でして…年齢も年齢だからあまりの猛暑で今年は行かないことにしたそうなんです。ですが年会費は払っているから勿体ないので、夏は是非自分達の代わりにと」
名前は目をぱちくりした。
「わぁ~!」
名前は窓から身を乗り出して髪を押さえた。
「危ないですよ」
「見てみて!海ですよ警部!あはっ」
諸伏は目だけちらとして笑みを浮かべた。
「運転してるので…それに部屋はたぶん」
名前はどさっ、と部屋の入り口で荷物を落とした。ゆら…と窓に近づいていく。
「…お、オーシャンビュー…!」
名前は目をきらきらさせて窓を背にして目を真ん丸にして振り向いた。
くすくす、と諸伏。荷物をベッドに置く。
「気に入りましたか?」
「警部っ」
名前は諸伏の腕に飛び付く。
「こんな贅沢な部屋初めて!あ、ありがとうございます!」
「親戚も喜びますよ」
「うわぁ~あははっ!」
名前はくるくるしてベッドに倒れてバタバタした。
「…食事はブュッフェなので」
と諸伏はチケットを確認する。
「18時から21時の間に。最終入場は20時です…」
「はぁい」
名前は荷物をにこにこ出し始める。ばっ!と新しいビキニを取り出してからだに当てた。
「見ててねっ!ダイエット間に合ったから白のシンプルなビキニに挑戦しますから!へへーん」
諸伏はまた同じようにくすくす口に拳をやり笑った。
「楽しみにしています…あ」
とまたチケットを取り出して諸伏。
「フロント横にバーが」
名前はぴかぴかの床に映る自分をエレベーターで眺めていた後、さらに入ってきた客たちに諸伏に肩を寄せた。
ちら、とお互いに見やるのが可笑しくて、ふっ…と静かにキスした。
しー…と名前が唇に人差し指を立てるので、声を出さずに諸伏も同じようにした。
「(大好き)」
名前は声を出さずに口パクしてくすくすして諸伏にぎゅ、と抱きつく。
なんだか付き合いたてみたい。素直に恥ずかしい愛情表現ができる。普段と違う場所と雰囲気に、名前は心から楽しく振る舞っていた。
ちゅ、と額にキスされて名前はさっと赤くなった。
笑みを浮かべて人差し指を立てる諸伏に、さらに赤くなって。
「わぁ~」
バーのまわりには、明らかにいつもなら一緒に過ごさない人たちがいた。要するにお金持ち。
小さな子供まで革靴をはいて。上品な女性の指にはダイヤ。
バーテンの後ろからはホテルのプールが見える。その後ろには海。
「あそこのプールは子供専用ですから」と諸伏に肩を抱かれて名前はぴくっと肩を縮めて見上げた。
す…とカウンターまで案内のようにされ、バーテンが頭を下げる。カードキーを見て頷いた。
「何か飲みますか?」
「あ…わたしお酒よくわからなくて…」
「では彼女には甘口でカクテルを、わたしにはウォッカをロックで」
名前は慣れない雰囲気にむずむず。辺りをキョロキョロしていたら、急にワンピースの裾を引かれびっくりして下を見る。
小さな子供が、玩具片手に立っていた。
「なあに?」
名前はしゃがみこんで首をにっこり傾げた。
「お姉ちゃん。綺麗だから僕と結婚して」
ははは…と聞いていた周囲の人間がちらほら笑い出すので、名前は唖然と諸伏を見上げてもっとびっくりした。
諸伏も声を出して笑っていたからだ。
諸伏もしゃがみこむ。
「…ごめんね僕。お姉さんは…わたしのなんです」
「…けいっーー!」
男児は諸伏に頭を撫でられてむっとした。
「僕のほうが格好いいもん」
「えぇ…いい勝負ですね…」
名前はぷっと吹き出した。ばっ!と諸伏の手を振り払うと、男児は呼ばれた両親の元へ走っていく……途中で、べー!と舌を出して。
「ふふ…可愛かったですね」
「え?」
ときょとんとする諸伏がグラスを持つので、ちん。とふたり静かに合わせる。
「…妬いてしまいますね」
「わぁ!なんかお花浮いてる~いい香り…って」
名前は細いストローを持って一口飲んだ後、諸伏をきょとんと見た。
「妬けちゃ…?」
こくりこくりとウォッカを飲む諸伏が、にこっと首を傾げた。
「子供とはいえ男性です。ライバルができてしまいました」
「っ警部の馬鹿…」
す、と腰を引き寄せられ名前はまた赤くなる。
「あ…」
「ふふ…なんだか雰囲気に飲まれてしまいそうです」
ふわ。と耳元に髪をかけられ、名前は息を止めた。
「わ、たしも…」
諸伏はホテルの案内を目の前から取り出してめくりだした。
「…大人たちは上にプールがあるようですね。バーもあります」
続きはそちらに致しましょうか…
名前はロッカールームを閉めて、胸を集め直した。
本当に白のペラペラしたビキニだからだ。
「…やっぱりこのタイプ胸は盛れないなぁ…でもっ!」
名前は鏡の前で後ろを向く。頑張った尻トレ!桃尻!そしてーー下着屋のマネキンみたいなくびれ!
「十分頑張った!…でも警部巨乳好きだったら終わるけどね…」
泣き真似をしつつ、はっとして名前はロッカーを出た。
ロッカーを出て行くと小さなバーと、あれはサウナ…?と名前は小さく腰を曲げる。
「(あ、いたいた)警部っ」
諸伏は外のプールのへりに座っていたが、名前が声をかけるとわかりやすく2度見した。
「…名前さん?」
「え?」
と中途半端に名前は笑ったままちょっともじ、とする。
瞬間諸伏はプールにばしゃん!と入ると名前の手を掴みプールに引き入れた。
「うひゃああ!?」
結構な水しぶきに名前は前髪をあげてきょとんとしている間に、ぐい!とお尻に腕をやって軽く持ち上げられた。
「…なんて格好してるんですか」
「えっ…」
諸伏はまじまじと名前の姿というか胸元を見てから名前を見上げる。
「…とても他の人に見せられません…」
「えぇ!?そ、そんなに似合ってませんか?」
名前は泣きそうになると、抱き締められる。
「…控えめに言って。綺麗すぎです」
「!」
「その格好でロッカーからひとりで来たんですよね?あぁ…帰りは駄目です」
「け、警部…」
かぁぁ…と赤くなる名前に、遠慮なく諸伏は後頭部に手をやって抱き直した。
「…見せたくないです。他の人には」
「でも警部っ…わたしプール楽しみた…」
「…いいですよ」
名前は赤くなったのを隠そうとしてすい、と諸伏から離れた。
「わぁ…」
インフィニティプールだ。海の線とプールの線が同じでつながっているように見える。
「キレーー!警部見…」
と思わずざば!と上半身を出してしまう。
すぐに名前は水中に引っ張られて肩まで浸かった。
「ぷわぁ!」
「…こら」
と耳元で囁かれて名前はさらに赤くなる。
今お尻つかまれなかった?
「…あっちのジャグジーが空きました。向こうに…」
「あ…バスタオル忘れちゃった」
諸伏はじと、という目をするとプールから出て指差した。
「…持ってくるので動かないでください」
「はひ…」
名前はあまりの圧に肩を抱いた。
「(こんな短距離なのに…バスタオル…)」
もう巻いてるうちにジャグジーについてしまったというのに。
「(そ…そんなにダイエットうまくいったのかなぁ…やったぁ)わ、あったか~」
名前はバスタオルを取り諸伏が手を出すので手をとる。
「…名前さん」
「ん?え、あっーー」
諸伏が足の間に名前をいれて後ろから抱きついてきた。
「わわわ…」
肩に顎を乗せられ、ちらと見ると目が合って慌ててそらす。
「警部っ…は、恥ずかしい…」
「…もう部屋に戻りたい」
「えぇ?サウナとかありましたよ…?あとなんか雪降ってるみたいな不思議な部屋ーー」
「あなたが水着でなければ行きます」
名前はむっとしてざば!と振り向いて膝をついて諸伏の肩に手を置いた。
「み、見せる為にダイエット頑張ったのにっ!」
ちゃんと見てっーー!
「っ…」
諸伏はしばらく黙って名前を見つめていたが、やがて片手で顔を覆った。
「…す、みません。ただ…」
「ただ…?」
「…」
どきどきしてしまって……
「他の人に同じ気持ちになってほしくないんです…あなたは…その…も、もう少し…自分の美しさを自覚してください…」
もにゅ、と諸伏が胸元に顔を埋めてきて名前は真っ赤で叫んだ。
「ベランダにもプールあるんだ」
「はい」
頭を拭いて諸伏。
「こちらは裸でもいいですよ…」
「何言っ…!」
「いえ、冗談ではなく」
真顔の諸伏に名前はベッドにぼすっと座る。
「ブュッフェまでまだ時間あるし…」
「海辺散歩でもしますか?」
「それもいいけど…」
名前はなぜか砂の城を細かく作る諸伏が浮かんでしまい笑いをこらえる。
「せっかくふたりきりなんだから…そのプールも堪能しましょうよ…」
「名前さん」
と諸伏。冷蔵庫から瓶のビールを出して呟く。
「…誘ってますか?」
「えぇ?」
こくり、と一口飲むと赤くなってビールを戻す諸伏。
しん、となった室内で、名前はちらと上目遣いで諸伏を見た。
「…だ、だったら…?」
「…水着」
「え?」
「…よく見せてくれますか?」
リクエストにお応えして…名前は着替えて外に出た。
「…」
「警部…見すぎです…」
名前は顔を覆う。
「…後ろも見ていいですか?」
名前は後ろを向く。ちら、と肩越しに見れば諸伏の視線が上から下まできちんと動いているのがわかりまた名前は顔を覆った。
「…そんな格好でうろうろされたらたまったもんじゃないです」
「け、警部のエッチ!」
諸伏はふと顎に手をやり眉をひそめた。
「わたしが…エッチ……」
ふと諸伏は真面目になる。
「…そうかもしれません」
「はっ?」
「あなたを見ると…すぐそういう気分になります…」
名前はぷるぷるしながら静かに諸伏の隣に座った。
「…な、なって…くださ…い……」
「…そんなこと言ったら」
諸伏は膝にある名前の手を握る。そのままキスされて指を絡ませた。
「んっ…」
にゅる、と舌が入ってくると諸伏は1度離れた。
「…もういつもです」
「あっ」
する、と薄い水着の隙間から手が胸元に入ってきて揉まれる。
「は…きゃ!」
そのままばしゃん!とふたりでプールに落っこちる。
「あはっ…あははっ!」
名前はおかしくなってしまい、髪をかきあげる諸伏を指差して笑った。
「…なんですか」
「ごめんなさ…警部が……あはっ…あまりにも…なんか真面目だから……あはは…」
「わたしはいつも真面目ですけど」
「そうだけど…ふふっ」
子供に嫉妬したり他の人に水着姿は見せたくないって…なんか可愛すぎるし…そのわりには自分はまじまじとじっくり見たくせに…
「警部のえっち」
名前はすいと近づいてキスする距離で抱きついたまま囁いて、ばっと泳ぎだした。
「名前さん」
「うふふっ…」
「お預けなんて…」
「そんなことしてないも~ん」
ばしゃばしゃと行く名前に、むっと諸伏はあるものを名前に向かって投げた。
「ひゃあ!」
わなげのごとく名前に浮き輪が投げられて、あっけなく捕まると諸伏がぐいと引っ張る。
「あーー」
「…」
ぴちゃ…とゆっくり浮き輪に両腕を置くと、諸伏はまたキスした。
「…捕まえましたよ」
にや、とされ名前はどきりと動きをやめた。
「う…」
「ふっ」
「え」
「ふふふっ…」
今度は諸伏がくくっと笑い出す。
「…そんなに怯えないでくださいよ…」
「ちが…!」
す、と顎をあげられ、ぴちゃと塩素の匂いがする。
「…あなたが好きです」
名前は目を見開いた。
「…とても」
「け、いぶ」
諸伏は声を出してにっこり笑って首を傾げた。
「あなたが大好きです」
「っ…」
名前は思い切り諸伏を引き寄せて口づけてから抱きついた。
「わたしもっ…」
う~…と名前はばたばたした。
夏の夜が訪れようとしていて、高い湿度のなか気温が下がっていく。
上を見上げればのびた日がようやく暮れ始めようとしていた。
「…名前さん」
「え?」
「…ブュッフェ行きましょうか」
しん、となったプール内に名前はぷっと頬を膨らました。
「やだ」
「なまーー」
「離れたくないもん…」
「…わたしもです」
「でもお腹もすいてきたし…」
「…もっとすいてから行きますか」
「え?」
はしごで振り向く名前の左右に手をやる。
「え、警部…」
名前は下半身に感じたそれに素直に赤くなって目をそらす。
「…したい」
どきっ、と名前は唇を噛む。
「えプ…こ、ここで?お外…」
「お外じゃなければではいいですか?」
「そういうことじゃーーあ?」
しゅる、とショーツの紐をほどかれ名前は諸伏を見る。
「え、警部ほんとにっ…」
後ろから擦りつけられ名前はとにかく赤くなり、ぷるぷるしながらはしごを握りしめる。
「あ…」
入っちゃ…と名前は切なげに肩越しに向く。
「そんな顔して…逆上せたんですか…」
水の中でーー
名前は星空に向かってのけぞった。水も一緒に入ってきて「あっ…あ!」とからだを揺らす。
「…はあ…名前さん奥…濡れてたんですね…すんなり入ってしまいました…」
「あ、やだっ…」
顔を覗かれ名前は恥ずかしくて顔をそらす。
「…プールでしたこと…ありますか?」
「あ、っや…」
揺らされながら言われ、名前は首を振る。
あるわけないじゃん!
ぱしゃ、ぱしゃっ…と水が跳ねる。
「う、んっ…あんん…」
「なら…わたしが初めて……」
「何言っ…あ」
「ふふっ…」
という意地悪な笑みに、名前はさらに赤くなった。
「やあ!警部のえっちぃっ…」
腰を掴まれて揺らされてプール全体から水が溢れ出す。
「いいですーー」
あなたにだけは…そう見られたいーー
名前は振り向いて頭に手を回して口づけた。
そのまま互いの吐息がかかる距離でしばらく黙ってしがみつく。
「高明さ…あ、好き…好き…」
また口を開けたまま口付ける。
「いいですよ…いつでもーー」
「んやあっ」
「でないとわたしが…」
名前は溢れる水を結構飲みながらしがみついていたから、呼吸が浅くなってからだに力が入らなくなっていた。
「ごほっ…けほっーーあ、や、も…っ」
こんなに必死になっている自分が恥ずかしくて、名前はなかを締め上げた。
「う…んっ」
「け、警部…出してくださ…こほっ、あ、わた、しっ…!」
「名前さん…」
愛しています……
名前はぶるっと震えてのけぞった。
「お皿何枚いきました?」
エレベーター内で言われ、名前はお腹をむっとしながら撫でる。
「大皿1枚と小皿2枚…」
「よく食べましたね」
くすくすと口に手をやって笑う諸伏に、名前はさらにぷぅ!となった。
「だっ、誰かにすごいことされてお腹減ったんですっ!」
「どなたですか?」
羨ましい…
耳打ちされ、名前は真っ赤になって諸伏の腕に顔を埋めた。
夜にベッドに裸で横になって手をただ握りしめる。
お互いがいとおしくて、ただ見つめているだけで笑みが生まれる。
「ご親戚にお土産買っていきましょ」
「そうですね…何にしましょうか」
「お土産やさん見てからね」
「えぇ…構いませんよ」
諸伏は名前の肩にシーツをかけ直した。
「んふっ」
名前はくすぐったそうに諸伏の胸元に額をつける。
すぐ撫でられた頭に名前は目をうっとりさせた。
「…高明さん…ありがとうございます。素敵な思い出になりました」
「まだこれから…」
と諸伏は笑みを浮かべて名前を見る。
「…たくさん。色んなところへ。ふたりで行きましょうね」
名前も諸伏を見上げて、何度も笑顔で頷いた。
今年の夏も、まだまだ暑そうだ。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 諸伏警部と名前さんの夏のホカンス、甘々でドキドキが止まらなかったです…!警部の嫉妬深いところとか、水着姿に「見せたくない」ってなる感じ、すごく可愛くてニヤニヤしちゃいました。プールのシーンはちょっと大人っぽくて照れたけど、お互いを想う気持ちがひしひし伝わってきて、読んでて幸せな気持ちになりました。素敵な作品をありがとうございます!また続きが読みたいです🌙
2,105
花梨
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