「な……あ」
「ちょっときミ、こんな女の子見てなイ?」
人の言葉を話す鉄の化け物は、胸についた光る板を指差す。その光る板にはフィニとハベルの姿が映っていた。
「は!フィニとハベル⁉︎お前ら何でそこに……まさかこいつに閉じ込められてんのか⁉︎」
板の中にいるフィニとハベルに声をかけるが返事がない。それどころか動き一つ見せない。
「ちょっト、ちょっと!モニターに唾つけないでヨ!」
「うるせぇ!フィニとハベルを閉じ込めたのはお前か!?」
鉄の化け物は、首を傾げる。 「閉じ込めル……?僕の方がこの二人を探してるんだけド……」
「え?」
二人を探してるだって……?…………!待てよ。仲間が一人いるって確かフィニが言ってたよな?
「フィニとハベルと別れてから随分経っちゃったシ、そろそろ合流したいんだけどナ……君は知ってル?」
そうだ。よく考えたらフィニとハベルのことを知ってる時点で気づくべきだった。 「……フィニとハベルは森の中にある村で寝てると思う」
「ムラ……ああヒトの集落のことカ。場所が分からないから案内してヨ」
「いや……俺、寝てる時にここに落とされたからここから村までの道は分からないんだ」
「なぁーんダ……それじゃ地道に探すしかないかナー」
鉄の化け物は片手を俺の前に差し出す。
「僕に捕まっテ。少し荒っぽいからしっかりつかまっててネ」
「いや……ちょ!」
鉄の化け物は俺の手を取り、背中に乗せる。
鉄の化け物は、俺をおんぶして軽快に動く。 すげえ……貴族の乗る馬でもこんなキビキビ動かないぞ。 二足歩行の化け物は軽快に走り去り、洞穴の岩を掴み、洞穴から抜ける。
「すっげえ……」
「へへッ、そんな驚かれるのは新鮮だネ……」
こいつ一体何者なんだ?人間の身体能力をとうに超えている。化け物は洞穴から出て俺が落とされた場所の近くに着く。
「ンー……ここからずっと森だねェ」
「俺、ここから落とされたんだ。縄で手足縛られてさ」
ただ立ち尽くしていると、大きな地鳴りが起きる。
「うワ!地鳴リ⁉︎」
「随分デカいな。土砂崩れでもしたのか?」
周りの木々が揺らぐ。
「フィニ、ハベルも大丈夫かなア……」
「……なぁ、お前ってフィニとどんな仲なんだよ?」
「ン?ナカ……?よく分からないけド、僕はフィニを守ることだけが使命だヨ!」
化け物は胸を張るような動きをした直後、アラーム音が鳴り響く。
「お!フィニが近くにいル!行かないト!」
鉄の化け物は、木に登り高い場所へスルスル上がっていく。
「あ……おい待てって!」
走って木の上を飛び移るあいつへ着いていく。
「音の方向ハ……こっちだネ!」
俺の数メートル先、二人の人間の姿を闇に慣れた目が捉えた。
「フィニ!!」
フィニは俺に気づいて振り向く。
「ジビルくん!あ!それにテクトも!」
上から降ってくる化け物に呼びかける。
「いヤーごめんごめン。探すのを手間取っちゃったネ」
「ホント無事で良かったよ!テクトも……それにジビルくんも」
フィニはテクトを抱擁を交わした後、俺を見つめる。
「フィニが探してた仲間って……」
「そう!この子はテクトって言うの。見つけてくれてありがとう……」
「いやー見つけたつーか……助けられたというか……」
「フィニ殿!それに二人とも!早く私について来い!話は後でする」
ハベルはフィニの片腕に掴んだまま、走り出す。フィニは少し躓きながらハベルについていく。
「よく分からないけド……ハベルについていくヨ!ジビル!」
テクトは俺の腕を掴み、自らの背中に乗せる。
「おわっ!?」
「しっかり捕まっててネ!」
テクトは言い切るより早く前に進む。
「おわっ、おま……」
なんとか片腕をテクトの首の部分に引っ掛け、背中に引っ付く。
★★★ しばらく走ると、先にいたハベルとフィニが立ち止まる。 「おっとっト……もう逃げるのはオワリ?ハベル」
「ここから少し進んだら崖だ……これ以上は逃げるのは無理だ」
息遣いが荒い。ハベルもフィニも少し苦しそうだ。 「あの……なんでお前らこんな必死に逃げてんだ?」
テクトの背中から降りて気になっていたことを問いかける。
「ハァハァ……そうだな。後で話すと言っていたな」
「いやちゃんと呼吸してからでいいからさ。こういう時は一旦深呼吸!」
フィニの方をふと見ると、俺を見つめ固まっている。
「ジビルくん!後ろ‼︎」
「え――」
振り向く瞬間、自分の身が勢いよく吹き飛ばされる。 闘牛が身体にぶつかったような衝撃と共に俺は空中を舞った。空中を舞った瞬間、地上へ顔を向ける。そこには巨大なナニかがそこにいた。巨大なナニかは、頭がなく、腕も足も無く、一つの塊となってウゴウゴとスライム状に蠢いている。 「なんでこんな小さな島に……」
「……!ジビル‼︎」
「巨大なエネルギー反応確認……防衛モードに切り替えます」
吹き飛ばされながらそれぞれが異形の周りの空間に黒い靄がかかる。その靄が見え始める時に、ぶつかった衝撃が体中に響き、痛みとして肉体の反応が返ってくる。
「ガハッ!」
血。吐血している……吹き飛ばされて数百メートルの場所へ枝を折りながら木の幹に叩きつけられる。そして異形がフィニ達へ近づいていく。