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【第3話】甘い夜
夜はすっかり更け、仲間たちの寝息が遠くから聞こえてくる。焚き火の赤い炎だけが、二人を照らしていた。
羽京は龍水の肩に頭を預けたまま、目を閉じる。
「……こんなふうに人に甘えるの、久しぶりかも」
龍水は驚いたように眉を上げたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「ほう?羽京ともあろう男が、甘えるなどと言うか!」
「からかわないで」
羽京が少し拗ねたように口を尖らせると、龍水は思わず吹き出した。
「フハハ!可愛いぞ、羽京!」
その言葉に、羽京の耳が赤く染まる。
「……龍水は、そういうことを簡単に言うから……」
「真実を語るのに理由など要らん!」
龍水はぐっと羽京の肩を抱き寄せ、片腕で包み込む。
大きな体にすっぽり収まって、羽京は反射的に胸に手を当てた。
鼓動が速い。自分のものか、龍水のものか――もう区別もつかない。
「……龍水」
「なんだ?」
「僕、ずっと冷静でいなきゃって思ってた。
でも……今は、ただ安心したい。龍水の隣なら、それが許される気がする」
その小さな告白に、龍水の目が一瞬だけ真剣な色を帯びる。
そして低く囁いた。
「羽京。貴様が望むなら、俺はいつだって貴様の港であろう」
胸元で羽京がふっと笑い、そっと龍水の服を握った。
「……ありがとう。ほんとに、龍水って……ずるいくらい安心する」
夜風が二人を包む。
焚き火の炎が静かに揺れ、寄り添う二人の影をひとつに溶かしていった。
炎が小さくなり、夜はより深く静まり返っていた。
羽京は龍水の胸に寄りかかりながら、少しだけ顔を上げる。
「……龍水」
「ん?」
「もう少しだけ……近くにいてもいい?」
その瞳の揺らめきを見て、龍水は豪快な笑みではなく、驚くほど優しい微笑みを浮かべた。
「望むところだ」
言葉より先に、龍水は羽京を抱き寄せ、唇を重ねた。
最初は触れるだけのキス。けれど羽京がそっと目を閉じて受け入れると、龍水はさらに深く、熱を込めてその唇を味わう。
羽京の指先が龍水の服をきゅっと握り、熱を帯びた吐息が二人の間に溶ける。
「……龍水……」
「フハ……可愛いな、羽京」
龍水は羽京を抱き上げると、躊躇なく近くのテントへと運んだ。
その腕の中で羽京は小さく抗議する。
「ちょっと……運ばなくても……」
「船長が舵を取るのは当然だろう?」
テントの中、外よりもさらに近い距離。
布越しに響く鼓動と、温もり。
龍水の指が羽京の髪を梳き、頬を撫でる。
「羽京……今夜だけは、心も体も預けてくれ」
羽京は小さく頷き、恥ずかしそうに目を伏せた。
「……うん。龍水になら……」
その答えに満足げに微笑み、龍水は再び唇を重ねる。
外の世界が遠ざかり、二人だけの夜がゆっくりと更けていった――。