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中学一年生。モテる。
スタイルがよく、運動神経抜群!
でも勉強が大の苦手。
颯のことが好き。
中学一年生。不器用。女子嫌いと有名。
イケメンで、モテている。
運動と勉強どっちも得意。
帆乃夏のことが好き。
中学一年生。颯と仲がいい。
帆乃夏と仲が良いが、颯のことが好き。
颯の恋の相談相手。
頭がいいが、運動は苦手。
中学一年生。帆乃夏と仲がいい。
帆乃夏の幼馴染的存在で昔から好き。
勉強は苦手だが、運動は得意。
フレンドリーで、みんなと仲がいい。
秋の朝。 校舎は、いつもより少しだけ華やかで、少しだけ緊張していた。
廊下にはポスターが並び、教室の扉には手作りの看板。
帆乃夏は、制服の上にエプロンをつけながら、鏡の前で髪を整えていた。
「…なんか、緊張する」
唯が隣で言う。
「うん。…でも、ちょっと楽しみ」
帆乃夏は、鏡越しに笑った。
──
教室では、颯がテーブルの配置を確認していた。 朝陽は、呼び込み用のチラシを配っていた。
「颯、こっちの席、ちょっとズレてる」
帆乃夏が言うと、颯はすぐに動いた。
「…ごめん。ほのが座るとこ、ちゃんと綺麗にしたかった」
その言葉に、帆乃夏は少しだけ胸が跳ねた。
朝陽は、そのやりとりを遠くから見ていた。 でも、すぐに笑顔を作って、廊下へと出ていった。
──
午前中の営業が始まる。 クラスの喫茶店には、他の生徒や先生が次々と訪れた。
帆乃夏は、メニュー表を持って接客していた。 その横で、颯が静かにドリンクを運んでいた。
「ほの、笑顔いい感じ」
唯が、カウンター越しに言う。
「え、そう?…なんか、ちょっと緊張してるけど」
帆乃夏は、照れながら答えた。
「颯、ずっとほののこと見てるよ」
唯の言葉に、帆乃夏は思わず目をそらした。
──
昼休み。 帆乃夏は、廊下の窓際で風に吹かれていた。
そこに、朝陽が現れる。
「ほの、ちょっとだけいい?」
帆乃夏は、頷いて歩み寄る。
「今日のほの、めっちゃかわいい。…制服にエプロン、反則」
朝陽は、笑いながら言う。でも、その目は真剣だった。
「…ありがと」
帆乃夏は、少しだけ照れながら言う。
「俺、今日の文化祭、ずっと隣にいたかった。…でも、颯が先にいたから、ちょっと悔しい」
その言葉に、帆乃夏は胸が揺れた。
“告白じゃない。でも、ちゃんと伝わる”
──
午後。 教室の片隅で、颯が帆乃夏に小さな袋を差し出した。
「…これ、文化祭の記念に。…ほのに渡したかった」
中には、小さなブローチ。帆乃夏が雑貨店で「かわいい」と言ったものだった。
「…覚えてたんだ」
「うん。…ほのが言ったこと、けっこう覚えてる」
帆乃夏は、ブローチを胸元につけながら言った。
「…ありがと。今日、ちょっと特別な日になったかも」
颯は、目をそらしながら言う。
「…俺も、そう思ってる」
──
文化祭の初日。 言葉にならない気持ちが、教室の空気を揺らしていた。
帆乃夏は、ブローチに触れながら、そっと思った。
“明日も、誰の隣にいたいか——ちゃんと考えたい”
文化祭の午後。 教室の喫茶店には、保護者や地域の人たちも訪れ始めていた。
帆乃夏は、制服にエプロン姿でメニュー表を持ちながら、笑顔で接客していた。
そのとき、廊下から声がした。
「帆乃夏〜!」
母親の声だった。
帆乃夏は、驚いた顔で振り返る。
「え、来るって言ってなかったじゃん!」
母は、笑顔で手を振りながら教室に入ってくる。
「だって、ほののエプロン姿、見たかったんだもん」
唯が、そっと耳打ちする。
「…かわいいお母さんだね。ほのに似てる」
帆乃夏は、照れながら言う。
「やめてよ〜」
──
颯は、帆乃夏の母に軽く会釈する。
「こんにちは。帆乃夏とメニュー係やってます」
母は、颯を見て少しだけ目を細める。
「颯くん?…ほの、よく名前出してたよ」
帆乃夏は、顔を真っ赤にして言う。
「ちょ、やめて!そんなこと言ってない!」
颯は、少しだけ笑って言う。
「…俺も、ほのの話、よく唯から聞いてます」
母は、意味ありげに微笑む。
「ふふ、いい空気ね」
──
そのあと、朝陽が教室に戻ってくる。 帆乃夏の母を見て、すぐに笑顔で挨拶する。
「こんにちは!帆乃夏さんには、いつもお世話になってます」
その声は、明るくて、礼儀正しかった。
母は、朝陽を見て言う。
「あなたが朝陽くん?…ほの、昔から仲良しって言ってた」
帆乃夏は、また顔を赤くする。
「もう、ほんとやめて…!」
唯は、遠くからその様子を見ながら、そっと呟いた。
「…親って、空気を揺らす天才だよね」
──
そのあと、母は帆乃夏の働く姿を写真に撮って、満足そうに帰っていった。
帆乃夏は、ため息をつきながら言う。
「…なんか、全部見られてた気がする」
颯は、そっと言った。
「でも、ほのが笑ってるの、ちゃんと伝わってたと思う」
帆乃夏は、ブローチに触れながら、静かに頷いた。
“見られてる距離感”が、少しだけ心を近づけた気がした。
昼過ぎの陽射しが、屋台のテントを柔らかく照らしていた。
人々の笑い声と賑やかな音楽が響く中、帆乃夏は一人で歩いていた。
唯と颯が並んで歩いている姿が頭に浮かぶたび、胸の奥がじんわりと痛んだ。
「……一人って、こんなに寂しかったっけ」
自嘲気味に呟いたそのとき、背後から冷たい声が帆乃夏の耳を刺した。
「よぉ、帆乃夏。久しぶりだな」
振り返ると、そこに立っていたのは神崎 蓮。 黒いパーカーに身を包み、鋭い目つきで帆乃夏を見下ろしていた。
その目は、かつて彼女を支配しようとした頃と何も変わっていなかった。
「……どうしてここに」
帆乃夏の声は震えていた。
「話したいことがあるんだよ。逃げんなよ」
蓮は強引に帆乃夏の腕を掴んだ。その手は冷たく、力強く、かつての恐怖が一気に蘇る。
「やめて……離して」
帆乃夏が必死に腕を振りほどこうとしたその瞬間――
「帆乃夏!」
颯の声が空気を裂いた。人混みの中から颯が駆けてくる。
そして、蓮が掴んでいない方の腕を、颯が迷いなく掴んだ。
「行くぞ」
颯は帆乃夏を引き寄せるようにして、強引にその場から連れ出した。
蓮の手が一瞬だけ帆乃夏の腕を離すが、すぐに睨みつけて叫ぶ。
「おい、待てよ!話は終わってねぇだろ!」
颯は振り返らず、帆乃夏の手をしっかりと握ったまま人混みをかき分けて進む。 帆乃夏は走りながら、蓮の怒鳴り声が遠ざかっていくのを聞いた。
屋台の裏手、少し静かな場所まで来ると、颯はようやく足を止めた。 帆乃夏は肩で息をしながら、震える声で言った。
「……颯、ありがとう」
颯は帆乃夏の手をそっと離し、真剣な目で彼女を見つめた。
「大丈夫か?あいつに何かされた?」
帆乃夏は小さく首を振った。
「……でも、怖かった。蓮が、また……」
颯は拳を握りしめた。
「次にあいつが近づいてきたら、俺が絶対に止める。帆乃夏は、もうあんなやつに怯えなくていい」
帆乃夏はその言葉に、涙をこらえながら頷いた。 空はまだ明るく、陽射しが二人の影を長く伸ばしていた。
「お化け屋敷、行ってみる?」
颯の提案に、帆乃夏は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑って頷いた。
「うん、ちょっと怖いけど……颯となら大丈夫」
昼過ぎの陽射しの中、二人はお化け屋敷の入り口へと向かった。
外の明るさとは対照的に、建物の中はひんやりとした空気に包まれていた。
「手、握ってていい?」
帆乃夏が小さく言うと、颯は無言で彼女の手を握った。
中に入ると、薄暗い廊下に不気味な音が響く。 突然、壁の隙間から何かが飛び出し、帆乃夏が小さく悲鳴を上げた。
「大丈夫、俺がいる」
颯は帆乃夏の手を強く握り直した。
だが――その瞬間だった。
照明が一瞬だけ完全に落ち、真っ暗になる。
「帆乃夏!」
颯が叫ぶ。
だが、帆乃夏の手はもうそこになかった。
「颯……?」
帆乃夏は誰かに腕を掴まれ、暗闇の中を引きずられるようにして奥へと連れて行かれた。
「静かにして。騒ぐな」
低く、冷たい声。
聞き覚えのある声――蓮だった。
「蓮……なんで……」
「お前が俺を捨てたからだよ。あいつと笑ってるの、見てた」
蓮の声は怒りと執着に満ちていた。
帆乃夏は必死に抵抗するが、蓮の腕は強く、逃げられない。
彼はお化け屋敷の裏手にある非常口を使い、誰にも気づかれずに外へと抜け出した。
一方、照明が戻った瞬間、颯は帆乃夏がいないことに気づき、すぐに奥へと走り出した。
「帆乃夏!どこだ!」
スタッフに事情を説明し、館内を探し回るが、帆乃夏の姿はどこにもなかった。
非常口の扉がわずかに開いているのを見つけた颯は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
「まさか……蓮……」
外はまだ昼の光が差していたが、颯の心には重たい闇が広がっていた。
帆乃夏は、蓮に連れ去られてしまった――。
「帆乃夏……どこだよ……!」
お化け屋敷の非常口を見つけた颯は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
文化祭の賑わいは続いている。
笑い声、音楽、屋台の呼び込み――けれど颯の耳には何も入ってこなかった。
すぐにスマホを取り出し、連絡先を開く。
「朝陽……頼む、出てくれ」
数コールの後、朝陽の声が応答した。
「どうした、颯?文化祭中だろ」
「帆乃夏が……蓮に連れ去られた。お化け屋敷の非常口から出てったみたいなんだ」
朝陽の声が一瞬止まった。
「……マジか。今どこにいる?」
「中庭の近く。唯にも連絡する」
颯はすぐに唯にも電話をかけた。唯は驚きながらも、すぐに状況を理解した。
「わかった。私も探す。蓮って、帆乃夏の元カレでしょ?どこに行きそうか、心当たりある?」
「それが……全然わからない。でも、文化祭の敷地内なら、まだ間に合うかもしれない」
三人はそれぞれ別方向へ走り出した。 朝陽は体育館側へ、唯は校舎裏へ、颯は屋上へと向かった。
文化祭の喧騒の中、三人の目は真剣だった。
屋台の裏、倉庫の影、使われていない教室――蓮が帆乃夏を隠すなら、目立たない場所のはず。
帆乃夏を取り戻すために、三人はそれぞれの思いを胸に、文化祭の迷路へと踏み込んでいった。
旧校舎の奥、使われていない音楽室。
文化祭の喧騒は遠く、ここだけ時間が止まったような静けさが漂っていた。
帆乃夏は蓮に腕を強く引っ張られ、古びたピアノの前に乱暴に座らされた。
「痛っ……!」
彼女が顔をしかめると、蓮は無表情のまま扉に鍵をかけた。
「逃げんなよ。話があるって言っただろ」
帆乃夏は震える手で距離を取ろうとするが、蓮はすぐに詰め寄る。
「お前、颯といるときだけ笑ってるよな。俺といた頃は、そんな顔しなかった」
「蓮……もうやめて。こんなことしても、何も戻らない」
その言葉に、蓮の目が鋭く光る。
「戻らない?お前が勝手に終わらせただけだろ」
帆乃夏が立ち上がろうとした瞬間、蓮は彼女の肩を強く押さえつけた。
「座ってろって言ってんだよ」
帆乃夏は目を見開き、恐怖で息を呑んだ。
「……怖いよ、蓮。今のあなた、本当に怖い」
蓮はしばらく黙っていたが、拳を握りしめて壁を殴った。
「俺は……お前がいないと、何もないんだよ!」
その音に帆乃夏は思わず身をすくめた。 けれど、彼女は目を逸らさずに言った。
「それでも、私を傷つける理由にはならない。蓮がどんなに苦しくても、私を道具みたいに扱うのは違う」
蓮は荒い息を吐きながら、帆乃夏のすぐ横の壁に手を突き出した。
「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ!」
壁ドン――帆乃夏の顔すれすれに蓮の腕が突き出され、空気が震えた。 帆乃夏は目を閉じ、震えながらも言葉を絞り出す。
「蓮が変わるしかない。誰かに依存して生きるんじゃなくて、自分で立って」
蓮はその言葉にしばらく沈黙し、やがて腕を下ろした。
「……俺のこと、もう嫌いなんだな」
帆乃夏はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「怖い。でも、憎んではない。だからこそ、もう終わりにしたい」
外では、颯・朝陽・唯の足音が近づいていた。 扉の向こうに、光が戻ってくる気配がある。
帆乃夏は立ち上がり、蓮を見つめた。
「私、逃げない。でも、戻らない」
蓮は何も言わず、ただその場に立ち尽くしていた。
「帆乃夏!」
音楽室の扉が勢いよく開かれ、颯が飛び込んできた。 そのすぐ後ろには朝陽と唯も続いていた。
蓮は帆乃夏のすぐそばに立ち、壁に拳を突き立てたまま振り返った。
その目は、怒りと焦り、そして何か壊れかけたものを宿していた。
「邪魔すんなよ」
蓮の声は低く、張り詰めていた。
颯は帆乃夏の前に立ち、蓮を睨みつけた。
「もうやめろ。帆乃夏はお前のものじゃない」
蓮は笑った。
「お前に何がわかる。こいつが俺の隣にいた時間のこと、知らねぇくせに」
帆乃夏はその言葉に、胸が締めつけられるような感覚を覚えた。
――蓮と付き合っていた頃の記憶が、頭の中に浮かび上がる。
あの日、雨の中で蓮が傘を差し出してくれた。
「濡れるなよ。お前は俺が守るから」
その言葉に、帆乃夏は安心して笑った。
でも、次第に蓮の言葉は変わっていった。
「俺以外の男と話すな」
「俺の言うこと、聞けよ」
「お前が悪いんだろ」
優しさは束縛に変わり、愛情は支配にすり替わっていった。
帆乃夏は何度も「私が悪いのかも」と思い込もうとした。
でも、心の奥ではずっと叫んでいた。
「違う、これは愛じゃない」
そして、別れを告げたあの日。 蓮は何も言わず、ただ睨みつけて去っていった。
その背中が、今目の前にある蓮と重なった。
帆乃夏は震える声で言った。
「蓮……私たち、もう終わったの。あの頃の私は、あなたに怯えてただけ」
蓮は目を見開いた。
「怯えてた……?」
「あなたの言葉が怖かった。あなたの手が、目が、全部」
颯が一歩前に出た。
「だからもう、帆乃夏に近づくな。これ以上、彼女を傷つけるな」
蓮は拳を握りしめたまま、しばらく沈黙していた。 朝陽と唯も、無言で蓮を見つめていた。
やがて蓮は、静かに壁から手を離した。
「……俺は、何も持ってなかったんだな」
その言葉を残して、蓮は音楽室を出ていった。 誰も彼を追わなかった。
帆乃夏はその場に座り込み、深く息を吐いた。 颯がそっと彼女の肩に手を置いた。
「もう大丈夫。俺たちがいる」
帆乃夏は頷きながら、涙をこらえた。 文化祭の音が、少しずつ戻ってきた。
文化祭初日の夕方。
空は茜色に染まり、校庭ではステージイベントが盛り上がりを見せていた。
屋台の香り、笑い声、音楽――賑やかな空気の中、帆乃夏・颯・唯・朝陽の4人は中庭のベンチで休憩していた。
「明日もあるのに、今日だけで感情ジェットコースターすぎる」
唯が笑いながら言うと、朝陽が「ほんとそれ」と頷いた。
そのとき、校舎の方からざわめきが聞こえてきた。
「え、マジで?」
「誰が書いたの?」
「やばくない?」
興味を引かれて、4人は人だかりの方へ向かった。
掲示板の前に集まる生徒たちの視線の先には――一枚の紙。
手書きで大きく書かれたタイトル。
『好きな人ランキング(勝手に集計)』
帆乃夏の心臓が跳ねた。 その紙には、クラスの名前と、男子の名前が並んでいた。
──1位:松本 颯(8票)
──2位:堀内 朝陽(5票)
──3位:佐藤 悠真(2票)
そして、女子の名前の欄にも――
──1位:早瀬 帆乃夏(9票)
──2位:河野 唯(4票)
──3位:高橋 美羽(2票)
「……何これ」
帆乃夏が呆然と呟いた。
「誰がこんなの……」
唯も顔を赤くして言葉を詰まらせる。
周囲の生徒たちは面白がって騒いでいたが、当事者の4人は言葉を失っていた。
「俺、こんなの知らないし」
颯が眉をひそめる。
「俺も。てか、勝手に集計って何だよ」
朝陽が苦笑する。
帆乃夏は、颯の名前の“1位”という文字を見て、胸がざわついた。 唯の名前も、すぐ下に並んでいる。
そして――蓮の名前は、どこにもなかった。
「……蓮って、やっぱり他校だから載ってないんだね」
帆乃夏の声は、少しだけ沈んでいた。
颯は帆乃夏の顔を見て、何か言いかけたが、言葉が出なかった。
唯は、帆乃夏の表情に気づいて、そっと目を伏せた。
朝陽は空気を察して、軽く笑って言った。
「まあ、俺は2位ってことで満足しとくか」
その場は先生が来て、紙をすぐに剥がした。
「こんな悪ふざけはやめなさい!」
でも、書かれてしまった名前は、もうみんなの記憶に残っていた。
そして、4人の心にも――静かに波紋を広げていた。
「好きな人ランキング」の紙が剥がされてからも、ざわめきはしばらく校内に残っていた。
帆乃夏は、颯の“1位”という文字が頭から離れなかった。 唯の名前もすぐ下にあって、胸の奥がざわついていた。
そんな中、朝陽がぽつりと提案した。
「帰る前に、ちょっと寄り道しない?コンビニでも、神社でも」
唯が「いいね」と笑い、颯も「別にいいけど」と頷いた。
帆乃夏も「うん」と返事をしたけれど、どこかぎこちない。
4人は並んで歩き出す。 夕暮れの空はすっかり夜に染まり、街灯がぽつぽつと灯り始めていた。
途中、近くの小さな神社に立ち寄る。 境内は静かで、虫の声だけが響いていた。
「おみくじ、あるかな?」
唯が興味津々で覗き込む。
「夜に引くのって、なんか特別感あるよな」
朝陽が笑う。
帆乃夏は、少し離れた場所で手水舎の水に触れていた。 その背中を、颯がそっと見つめていた。
「……さっきのランキング、気にしてる?」
帆乃夏は振り返らずに答えた。
「別に。あんなの、誰が書いたかもわかんないし」
「でも、帆乃夏の名前、1位だった」
帆乃夏は少しだけ笑った。
「颯もでしょ。モテるんだね」
颯は言葉に詰まり、少しだけ目を逸らした。
「……俺は、別に誰に好かれてるとか、気にしてない」
帆乃夏はその言葉に、胸が少しだけ温かくなるのを感じた。
「……私も、気にしないようにする」
そのとき、唯と朝陽が戻ってきた。
「ねえ、みんなで写真撮ろうよ。せっかくだし」
4人は並んで、神社の鳥居の前でスマホを構えた。 シャッター音が響き、画面には少し照れた笑顔が並んでいた。
帰り道、帆乃夏は颯の隣を歩きながら、そっと言った。
「今日、いろいろあったけど……最後にこうして歩けてよかった」
颯は頷いた。
「明日も、こうして帰れたらいいな」
帆乃夏は、少しだけ顔を赤くして、静かに「うん」と答えた。
夜の風が、4人の間を優しく通り抜けていった。 文化祭はまだ終わっていない。
でも、今日という一日は、確かに心を近づけてくれた。
文化祭初日の夕方。
「好きな人ランキング」の騒動が収まり、空はすっかり茜色から群青へと変わっていた。
帆乃夏・颯・唯・朝陽の4人は、校門の前で立ち止まっていた。
「なんか、帰るのもったいないね」唯がぽつりと呟く。
「じゃあ、寄り道しようぜ」朝陽が笑う。
「コンビニ行って、アイス買って、神社寄って、最後に公園で語るとか」
「それ、フルコースじゃん」
颯が呆れながらも、どこか楽しそうだった。
帆乃夏は少しだけ笑って、「いいね」と頷いた。
最初に向かったのは、学校近くのコンビニ。 店内は文化祭帰りの生徒で賑わっていた。
「私はチョコミント!」唯が即決すると、朝陽が「それ、賛否分かれるやつ」と笑う。
帆乃夏は迷った末に、いちごアイスを選んだ。 颯は無言でバニラを手に取る。
「颯って、意外と王道なんだね
」帆乃夏が言うと、颯は少し照れたように「別に」と返す。
次に向かったのは、小さな神社。 夕暮れの静けさが漂う境内で、4人は並んでおみくじを引いた。
「中吉かぁ。まあまあ?」唯が笑う。
朝陽は大吉を引いて、「これは明日、何かあるな」とニヤリ。
帆乃夏は末吉。
「なんか、微妙……」と肩を落とすと、颯がそっと言った。
「俺も末吉。おそろいだな」
帆乃夏は思わず笑ってしまう。
「それ、ちょっと嬉しいかも」
最後に向かったのは、住宅街の外れにある小さな公園。 ブランコが2つ、ベンチが1つだけの静かな場所。
4人はベンチに並んで座り、アイスを食べながら空を見上げた。
「ランキングのこと、まだ気にしてる?」唯がぽつりと聞く。
帆乃夏は少しだけ考えてから答えた。
「ううん。もういい。あれはただの落書きだし」
颯は静かに言った。
「俺は、帆乃夏が1位だったの、嬉しかったけどな」
帆乃夏は顔を赤くして、アイスに視線を落とした。
朝陽は空気を察して、
「じゃあ、明日も寄り道しようぜ」と笑った。
唯が「今度は夜景スポットとか?」と乗っかる。
4人の笑い声が、公園の静けさに溶けていった。 遠回りの帰り道は、まっすぐな気持ちを少しずつ近づけてくれる。
文化祭はまだ終わっていない。 でも、今日という一日は、確かに心を動かした。
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