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「アイナさーん! おはようございまあああすっ!!」
錬金術師ギルドを訪れた瞬間、テレーゼさんの声が響き渡った。
他にも人がいたのだが、一斉に振り向かれてどきっとしてしまう。
「ちょ、ちょっとテレーゼさん! 大声で名前を呼ばないでください!」
「す、すいませぇん……。
それでアイナさん、今日は何のご用でしょうか!」
少しへこんだテレーゼさんではあったが、次の瞬間にはもう復活していた。
この図太さ、結構羨ましい。
「今日は早速、図書室を使おうかなと思いまして。
受付じゃなくて図書室で手続きをすれば良いんですよね?」
「はい、その通りです!」
「それじゃ、ありがとうございました」
「えっ!? もう行っちゃうんですか!?」
「だってテレーゼさんにお願いすることはありませんし、そもそもお仕事中じゃないですか」
「大丈夫ですよ! お話をしましょう!」
少しくらいなら良いかもしれないけど、最終的に私も怒られそうな未来が見えるなぁ……。
そんなことを考えていると、カウンターの奥にテレーゼさんの上司……ダグラスさんが歩いているのが見えた。
「ダグラスさーん、おはようございます!」
「おう! おはよう、アイナさん!
……もしかして、またテレーゼが何かやったのか?」
早速そんなことを言うダグラスさん。
まだやってはいないけど、このままだと危険な空気を察したので、声を掛けさせてもらいました!
「あはは、そんなことはないですよ!
ねぇ、テレーゼさん?」
「は、はい……」
テレーゼさんは近くにやってきたダグラスさんを見ながら、少し縮こまっている。
会うのはまだ2回目だけど、彼女の扱い方がすでに分かってしまった。
「それで、アイナさんは今日は何の用だ? もしかして早速依頼を――」
「あ、今日は図書室を見にきたんです。
依頼は……うーん、あとで見せてもらいますね」
「S-ランク以上の特別な依頼もあるからさ、それを引き受けてくれると助かるんだよ。
興味があったら、それは掲示していないから俺に話し掛けてくれ」
「テレーゼさんではダメなんですか?」
「本来はテレーゼの仕事なんだが、何だか色々とやっちまいそうでな。
今は俺が担当しているんだ」
錬金術師ギルド内でも、そういう扱いなのね……。
悲しいことに、納得感は凄まじいのだけど。
「それでは、帰り際に伺いますね」
「おう、アイナさんも調べ物を頑張ってな」
「い、いってらっしゃい~」
「はい、お二人ともまたあとで」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
手続きをして図書室に入ったあと、一番奥の特別な部屋に案内してもらった。
ここは選ばれし者こと、S-ランク以上の錬金術師のみが立ち入ることの出来る部屋なのだ。
ちなみに特例として、掃除をするために職員が入ることもあるらしいけど――
……本を読むことは許されていないし、入ることができる職員も限られているそうだ。
「私の人生史上、そんな場所に立ち入ったことがあっただろうか……いや、ない」
久し振りの反語を使いつつ、部屋の様子を眺めてみる。
落ち着いた図書館の一室……という感じで、街の音がたまに聞こえるくらいの静かな部屋。
大きさはそこまで広くは無いものの、それなりの数の本棚と、4箇所にテーブルと椅子が置かれている。
「くぅ~! この特別感! 最高ーっ!」
とりあえず適当に本を取ってから、椅子に座ってみる。
それだけで、名のある錬金術師にでもなったような気がしてしまう。
……いや、実際に実力はあるのだから、間違ってはいないんだけど。
手にした本をぱらぱらとめくってみると、難解な図と圧倒的な文字数が目に飛び込んでくる。
「よーし、分からないぞ!」
本の表紙を確認してみれば、『魂の構成と再現』……なんていうタイトルだった。
……いや、だからこういうのは手を出しませんから!
そんな感じで、何となく自分にツッコミを入れる。
正直なところ、ここで調べたいのは『まだ知らない何かを作れるか』ということであって、理論や仕組みでは無いのだ。
そういう部分は、私は全部スキルですっ飛ばすことが出来るからね。
現時点で明確に調べたいのは、神器と賢者の石の2つ。
よし、早速探してみようかな。
難解な本のタイトルとにらめっこしながら探すこと15分、賢者の石について書かれた本を見つけることが出来た。
さすが高ランク用の図書室、結構あっさりと見つかるものだ。
その本を開くと、まずは必要な素材が書かれていて、そのあとは製造の仕組みや理論が細かく書かれていた。
よくは分からないが、とても高度な手順が要るようだ。
でもよくよく考えてみれば、私の錬金術のレベルは間違いなく99なんだから――
……レアスキルの『工程省略<錬金術>』が無くても、色々と作れるはずだよね?
そんなことを思いながら改めて読んでみると、何となく理解できた気はした。気のせいではない……ことを祈ろう。
そのうち『工程省略<錬金術>』を使わないで、何かを作ってみるのも良いかもね。経験的な意味で。
「ま、それは後回しにして、賢者の石に必要な素材は――」
・竜の血
・七色の水
・精霊の雫
・秩序の炎
――とのこと。
現在持っているのは『竜の血』だけで、他の素材は見たことも聞いたことも無い。
ちなみに後半3つの素材については、本の各章でも詳しく説明がされていた。
使用する素材を別の素材から作り出す……という流れが延々と繰り返されていて、見ているだけで頭が痛くなってくる。
あとは、今までの街で大量の素材を購入してきたけど……それでも種類が全然足りていないことが分かった。
「……これはダメだ。
作るにしても、かなり後回しにしよう……」
賢者の石が欲しい理由は、神器の素材となるであろうオリハルコンが欲しいためだ。
このオリハルコンさえ手に入るのであれば、賢者の石は作らなくても良いわけだからね。
ちなみにこの賢者の石の使い道だけど――
……様々な金属を作り出す他にも、ホムンクルス錬金の素材として使うと目覚ましい効果があるらしい。
最近何となく縁のありそうなホムンクルス錬金。さっきも魂の本なんて取っちゃったし……。
でも人間が命を創るだなんて、おこがましい気がするんだよなぁ……。
「……さて、賢者の石はいったん置いておいて、神器の本は無いのかな?」
そう思いながら、改めて本棚を探してみる。
1時間ほど探したところで、1冊の本を見つけることが出来た。
その本のタイトルは……『神器作成』。
「おおおおおっ! ついにきたっ!!!!」
まさに、そのものズバリのタイトルだ。
私はこれを求めて王都に来たといっても過言では無い!
さてさて、内容はどんな感じだろう……?
前書き……。
この本は、完成された神器について研究して書かれたものらしい。つまり作った本人が書いたものでは無い、ということだ。
できれば作った人のものを読みたかったんだけど――
……ちなみにこの本、書かれたのは300年前である。さすが神器、かなり歴史があるものなんだね。
第1章……。
神器の歴史――最初に発見されたときの記録と、それ以降どのように伝えられてきたのかが書かれていた。
この本に書かれている神器は『神剣カルタペズラ』。
火属性の剣らしく、何でも火山の溶岩の中から発見されたらしい。……いや、それってどうやって拾い上げたんだろう? 魔法か何かかな?
そのあとは発見した冒険者が国に献上して、その代わりに貴族の爵位を与えられたそうだ。
第2章……。
神器の構成――つまり作り方に関することが書かれていた。
概ねアドルフさんに教えてもらったことばかりなので、特筆することは無いかな。
そう考えるとアドルフさんは凄いよね。『神剣デルトフィング』を見て、自分だけでそこまでの理解を得たんだから。
第3章……。
神器の素材――ここには神器を構成している素材が書かれていた。
よくよく読んでみると、既に存在していた『神剣カルタペズラ』からその素材を推測した内容になっている。
他の神器には触れられておらず、素材自体も『神剣デルトフィング』と似たような感じだった。
むむむ……。これは正直、期待外れ……ッ!
第4章……。
竜王の存在――って、あれ? 何で急に竜王の話に?
この章によると、竜は竜王の眷属、竜王は神の眷属、ということらしい。
素材には竜の魂が使用されるため、その関係でこの章が書かれることになったのだろう。
竜王は6属性に対応しており、全部で6体が世界に存在しているとのこと。
人間と接触した記録が残されているものもいれば、そういった記録がまったくないものもいるそうだ。
第5章……。
オリハルコンの生成――これも神器の素材として使われるために、章として書かれているようだ。
内容は先ほど見た本と大体同じ内容ではあるが、こちらの方が簡潔に書かれている。
第6章……。
神器に関連すると推察される伝説の数々――ってこれ、いつの話だろう?
普通に500年前とか1000年前とかあるんだけど……いや、凄いねこれは。
『世界が炎に包まれたとき、炎の剣が生まれた』
『神の使徒が現れ、昼と夜を7回繰り返したあとに光が訪れた』
『刃には勇気あるものの希望が満たされた。世界から闇を振り払うために』
『神の刃が誕生したとき、生きとし生けるものが祝福を与えた』
『過分な力は世界を滅ぼす。役目を終えた刃は燃える大地に鎮めよう』
「――……ぶはぁっ!?」
思いがけず読むことにのめり込んでしまい、読み終えたときには少し酸素が足りない状態になっていた。
……そんな経験、いつ以来だろう?
もう少し具体的な情報が欲しかったけど、何となく神器のあらましが分かったから……今回は良しとしよう。
具体的なところはユニークスキル『創造才覚<錬金術>』で調べられるからね。
逆に言えば、それを使って調べなくちゃいけないんだけど……反動がやっぱり怖いんだよなぁ。頭痛だけで終わるなら良いんだけど……。
……窓の外を見てみれば、昼過ぎといった頃だった。
区切りも良いし……一旦ここで、昼食にでもしようかな?