久しぶりに、夢を見た。
忘れたくない夢を。
ピピ…ピピピピ…ピピピピ…。
時計の針が八時四十五分を指した時、スマホのアラームが鳴り響く。その音を消しながら、俺は上体を起こした。もう少し、眠りたい。なんて思いながらLINEの通知の量を見てそれはやめた。
眠い目をこすりながら、トーク画面を開いて文字を打ち、送信してそのまま電源を落とした。
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(おはやう……)
ざわざわといつもより賑やか教室。黒板に書かれているのは自習という文字。各自が好きなことをやる中大半が文化祭の話をしていた。俺はこの間出された数学の課題を解いていた時、微かに聞こえた通知音にスマホを開く。
今起きたのだろうか。なんて笑みがこぼれる。おはようと送り返していると、ふと影が重なった。
「——…何笑ってんの?」
ギギ、と椅子が音を立てる。前に座って友達と騒いでいたはずのころんはいつの間にかこちらを見ていて、椅子をグラグラさせて遊んでいる。
「なんでもないよ」
そう笑ってスマホを伏せて窓の外に目をやる。
少しずつ彩り始めた草木に秋の訪れを感じながら、彼がいつ来るのかを想像した。
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「さっきからずっと窓の外見てるけど、楽しいの」
「んー」
休み時間、さっきからずっと暇さえあれば窓の外を見つめている友達に声をかける。
何を聞こうと何処か上の空な返事しか返さない彼にそろそろ嫌気が刺して来そうだ。愛おしそうに、何か大切なものを見つめるようにずっと一点を見つめている。一体何を見ているのやら、と視線を辿ってみるとどうやら校門を見ている様子。
「……………ははーん。さては愛してやまない恋人さんがいつ来るのか待ち遠しくてたまらないのかな?」
わざとらしくさとみくんの周りをうろつき腕を突くとウザく思ったのか脳天に思い切り拳が振り下ろされた。
痛みに耐えていると次の授業の予令が鳴り、時計を見る。早く席に戻ろうと再びさとみくんの方へと視線を向け、奴を現実に引き付き戻さなければと考えていた矢先に、彼の顔がくしゃりと歪んだ。
「やっときた」なんて、くすくすと笑っているさとみくんに出しかけた言葉が消えていく。
そんな風に、笑うんだ。
「ははっ……あ、もう予令鳴ってんじゃん。ころんも早く席に戻れよ」
「あーうん。そうだね」
教室のドアを開けながら「席につけー」という先生の言葉に僕は急いで自分の席へと戻った。
——————
「もー莉犬!あんなに言ったのにまた寝坊して」
シューズが擦れる音と、みんなの声が響く三限目の合同体育。
一人壁に寄りかかってサボっていれば同じクラスのるぅとくんが声をかけて来た。
間に合うと思っていた二限目は普通に遅刻になって、見事先生に怒られてしまった。まぁ起きてしまったものは仕方がない。次頑張ればいいのだ。
「ごめんねぇアラーム八時にセットしてた筈なんだけどねー参った参った」
「思ってないでしょー(笑)」
隣に座ったるぅとくんは可愛らしく頬を染めて笑う。ふと、るぅとくんが俺の顔を覗き込んできた。
「莉犬、なんだか熱っぽい?ほんのり赤くなってるよ」
「嘘マジでー…?治ってると思ってたんだけどなぁ…」
「具合悪いの…?」
優しく頬を撫でるるぅとくんに俺は頬に手を添えた。確かに少しだけ熱い気がする。今朝顔を洗った時気付いていたが学校に来るまでに治っていると思っていたのだが、そうはいかなかったらしい。
心配そうに眉を下げて見上げるるぅとくんに「そうじゃないよ」と首を振る。
「具合悪くなったらすぐに言ってね」
「うん。ありがとう」
そう言って前を向き試合の光景を眺めた時、ふと心臓がドクン、と大きく音を立てたかと思えば一気に静まり返る。
碧く、海のように深いその瞳が、俺を見ていた。
深海へと引き摺り込まれるかの様な感覚に、ぶわぁと記憶が蘇り、口を隠す。
なんだか、顔が熱い。
そんな俺に彼は眉を下げて笑い、『おはよう』と口パクで伝えた。どこか気恥ずかしくて、その視線から逃れる様に膝に顔を埋める。
「莉犬、大丈夫?」
「…うん。へーき…」
熱を冷まさせようと深呼吸を繰り返している間、試合中だった彼の頭にボールが直撃して辺りに笑い声が響く。
パッと顔を上げれば怒るさとみくんとにっししと悪戯っ子の様に笑うころちゃんがいて、くすくすと俺も笑いが込み上げてきた。
「……いいなぁ…」
「ん?るぅちゃん何か言った?」
「ううん、なんでもないよ。そろそろ試合終わりそうだね。次僕たちだから、行こ」
るぅとくんはすくっと立ち上がると俺の手を取って笑う。俺も流されるままうんと頷き、まだ終わらない試合を眺めた。
コメント
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うわわわ、やっぱりお話の書き方が丁寧ですごくすきです🥲💗 続くんですかね!? 続くのであればすごく楽しみです☺️ これからも応援しております🤲🏻✨️
下手くそだ