テラーノベル
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まろい
60
青白いモニターの光だけが、薄暗い部屋を照らしている。カチカチというマウスのクリック音と、キーボードを叩く乾いた音だけが響いていた。
「うわっ、最悪や!ありさか、カバー!カバーしろや!」
「いや無理やって!だるまが一人で突っ込みすぎなんよ」
「ちゃうねん!今のは絶対行けるタイミングやったやろ!」
ヘッドセット越しではなく、すぐ隣から聞こえるだるまの大きな声に、ありさかは小さく笑いを漏らす。いつも通りの、くだらない言い合い。画面内では二人のキャラクターが理不尽な死を遂げ、ゲームオーバーの文字が浮かび上がっていた。
「あーあ、負けた。だるまのせいやね、これは」
「はぁ!?お前がカバー遅れたんが原因やろ!」
ふははっ、とだるまが笑う。ありさかもつられて笑う。
その平和な空気の裏で、部屋の隅に放り出されたスマートフォンが、無機質な振動音を何度も立てていた。画面には事務所からの着信や、未読が何百件も溜まったメッセージアプリの通知が絶え間なく表示されては消えていく。
二人が配信のスイッチを切ってから、そしてこの部屋から一歩も外に出なくなってから、もう何週間が経っただろうか。
床に散乱した空のペットボトルや、山積みになったカップ麺の容器。カーテンは完全に閉め切られ、外が昼なのか夜なのかすら、とうの昔に分からなくなっていた。世間から見れば、人気ストリーマーの二人が突如として失踪し、すべてを投げ打って堕落した、紛れもない破滅の状態だ。
「……なあ、ありさか」
ふと、だるまがマウスから手を離し、ぽつりと呟いた。いつもの騒がしいトーンからは少し外れた、静かな声だった。
「ん?」
「後悔、してへんの?」
それは、今まで築き上げてきた名声も、繋がりも、未来すらも全てドブに捨てて、ただこの閉鎖空間で終わらないゲームを続けることへの問い。
ありさかはモニターから視線を外し、隣で自分を見つめるだるまの目を見た。少しだけ疲れたような、けれど、どこか熱を帯びた瞳。
「するわけないでしょ。だって、俺が一番楽しいのは、だるまと一緒にゲームしてる時やし」
「……ふっ、なんやそれ。アホちゃう」
だるまは照れ隠しのように鼻で笑うと、手を伸ばして鳴り続けていたスマホの電源を長押しした。画面が真っ暗になり、二人を外の世界へ繋ぐ最後の糸が、完全に断ち切られる。
「俺もや。……他のモンなんて、最初からいらんかったんかもな」
もう二度と、彼らの声が世界に届くことはない。
それでも、再びゲームのマッチング画面を開く二人の横顔は、誰よりも満たされ、この上なく穏やかな幸福に包まれていた。
コメント
1件
おお、第2話…めっちゃ刺さったわ。 外の世界を全部切って、ただ二人でゲームに没頭する閉塞感。ありさかが「一番楽しいのはだるまと一緒にゲームしてる時」って言うシーン、えぐいほど沁みた。スマホの電源切ったラスト、背筋が冷えるけど、なんでかすごく温かいっていうこの空気感、やばいっすわ。続きどうなるんやろ…もっと読みたい🔥