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第5話 君がくれた言葉
深澤side
深「ちゃんと話せよ」
その言葉が、やけに重く響いた。
風の音だけが通り過ぎる中、
佐久間は俯いたまま動かない
深「このままなの、無理だから」
もう一度、言う。
逃げるな、って。
自分にも、あいつにも。
佐「……」
長い沈黙。
やがて、佐久間の肩が小さく揺れた
佐「……なんで」
ぽつり、と落ちた声。
佐「なんで、そんなこと言うの」
顔は見えない。
でも、その声は——
今まで聞いたどんな声よりも、弱かった。
佐「別に、このままでよくない?」
深「よくねえよ」
即答だった。
深「よくねえから言ってんだろ」
少しだけ強くなる口調。
深「お前、無理してんじゃん」
ピタリと動きが止まる。
深「ずっと笑ってるけどさ」
佐「……」
深「全然、楽しそうに見えねえ時ある」
沈黙
逃げ場をなくすみたいに、言葉を重ねる。
深「この前の公園も」
深「あれ、“遊び”じゃねえだろ」
佐「……っ」
小さく息を飲む音が聞こえた。
深「好きなんだろ」
深「声で、何か伝えるの」
その瞬間——
佐「やめて」
強い声。
はっとする。
佐久間が顔を上げていた。
その目は、今まで見たことないくらい揺れていて。
佐「…それ以上、言わないで」
深「なんでだよ」
佐「いいから!」
叫ぶように言われる。
静かな公園に、その声だけが響く。
佐「……もう、いいじゃん」
震える声。
佐「終わったことなんだよ」
深「終わってねえだろ」
佐「終わってる!」
言い切る
その言葉に、胸がざわつく。
佐「俺にはもう無理なんだよ!」
初めて聞く、強い感情。
佐「やりたくても、できないんだよ!」
深「なんでだよ」
間髪入れずに返す。
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深「そんな声してんのに」
深「そんな好きそうにしてんのに」
深「諦める理由になんねえだろ」
その言葉に——
佐「……っ」
佐久間の表情が歪んだ。
佐「…知らないくせに」
小さな声。
深「なにを」
佐「ふっかは、なにも知らないくせに!」
顔を上げる
その目には、涙が滲んでいた。
佐「俺がどれだけ頑張ったかも」
佐「どれだけ無理だったかも」
佐「なにも知らないで、そんなこと言うなよ…!」
その言葉に、言い返せなくなる。
確かに、知らない。
こいつが何を抱えてきたのかなんて。
佐「…オーディション」
ぽつり、と呟く。
佐「何回も受けた」
佐「でも、全部ダメだった」
握りしめた拳が震えている。
佐「“声はいいけど個性が弱い”って」
佐「“印象に残らない”って」
自嘲気味に笑う。
佐「向いてないんだってさ、俺」
その笑い方が、痛かった。
佐「それでもさ」
続ける声は、震えていて。
佐「好きだから、諦めきれなくて」
佐「でも、どうしようもなくて」
佐「……疲れたんだよ」
その一言が、全部だった。
—
沈黙が落ちる。
何も言えない自分が、情けなかった。
でも
それでも——
深「それで、終わり?」
やっと出た言葉。
佐「……は?」
深「それで終わりにして、納得できんのかって聞いてんだよ」
佐久間の目が揺れる。
佐「だって、もう無理だって——」
深「誰が決めた」
遮る
深「お前だろ、それ」
佐「……っ」
深「周りに何言われたか知らねえけどさ」
深「好きなんだろ?」
深「だったら、そんな簡単に終わらせんなよ」
一歩、近づく
深「俺、あの時の声忘れてねえから」
『大丈夫。君ならできるよ』
あの声が、頭に響く。
深「ちゃんと届いてた、俺には」
その言葉に、佐久間の目から涙がこぼれる。
佐「……っ」
声にならない声。
深「“個性がない”とか言われたって」
深「そんなの関係ねえだろ」
深「少なくとも、俺にはちゃんと残ってる」
深「佐久間の声」
まっすぐに言う。
逃げないで。
今度こそ。
深「だから——」
息を吸う。
深「諦めんなよ」
その一言に、全部を込める。
—
長い沈黙のあと
佐「……ずるいよ」
掠れた声。
佐「そんなこと言われたらさ」
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、笑う
佐「また、やりたくなるじゃん」
その言葉に、胸が少しだけ軽くなる。
深「やれよ」
短く返す
佐「…うん」
小さく、でも確かに頷いた。
—
風が吹く。
さっきまでの重さが、少しだけほどけていく。
佐「……ねえ、ふっか」
深「ん?」
佐「もしさ」
少しだけ照れたように笑う。
佐「またダメだったら、慰めてくれる?」
深「当たり前だろ」
即答する。
深「何回でも付き合ってやるよ」
その言葉に、佐久間はくしゃっと笑った。
今度は——
ちゃんと、笑っていた。