テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
侍女がレリアの寝室のドアをノックする。
「姫様、お召し替えの時間でございます」
ノックに返事がない。
「姫様?」
ドアを開けると、レリア・エーデルシュタインは姿を消していた。
その時、レリアは薬で眠らされ、馬車でマルスに攫われていた。
マルスは気味悪い笑みで、レリアを抱き寄せ、高揚感に浸っていた。
* *
エーデルシュタイン王国宰相マーゲル侯爵は、早朝の起床をよぎなくされた。
王女誘拐、その報告が入ったからである。
マーゲルは受話器を置くと、ほくそ笑んだ。
「オルフェウスめ、やりおるわ」
* *
「エーデルシュタインの都で昨夜、ささやかな事件があった。レリア王女殿下が囚われの姫君となったのだ」
一同がどよめく。
「君たちの意見を聞いて、今後の事態の発展に努めたい。遠慮なく発言したまえ」
誰もが口籠る。
マルス男爵! 花嫁と逃避行!
とはエーデルシュタインの廷臣は口が裂けても言えない。
だが空気を読まずに桜祐警視が挙手する。
「犯人はレリア王女との婚姻を急ぐマルス男爵。これは明らかでしょう」
「ふむ、そうだろうな」
意外にもマーゲルは否定しなかった。
「侯爵閣下」
秘書官がマーゲルに耳打ちする。
「マルスが放送を行うと!?」
マルス男爵の放送が始まる。
国際放送だ。
『私が婚約者レリア王女殿下を連れたことを公式に認める。日本政府はオルフェウスなる陰謀論をエーデルシュタインに着せた。また、王女殿下の御心をまるで一介の騎士にあるかのように、エーデルシュタイン王家を断絶させる目論見もある。そのような内外の危機から王女殿下からお守りするためにこそ、今回、このような策に打って出たのだ』
キーボードが叩かれる。
「(放送コードに特殊な暗号がある!?)」
これを日本から見ていた桜春警部は、すかさずテレビ局にハッキングし、マルスの発した放送と、パラノイアオルフェウス端末の同一性を見抜いた。
放送は続く……
『すでに殿下は私を受け入れてくださりつつある。蒙昧にして臆病なる反王室勢力よ、私と堂々と決戦せよ』
放送が終わると、マーゲルは桜警視を一瞥した。
「どうする? 原因は君たちがオルフェウスの語を出しマルスを不安にさせたのもあると思うが?」
桜警視は押し黙った。
* *
レリアは椅子に座らされ、マルスからの尋問に耐えていた。
「殿下、私との結婚をお認めいただきたい」
「答えは同じです」
「ちいっ!」
マルスがレリアのブラウスに手を掛け、破れ、ボタンが甲高い音を立てて弾ける。
「きゃっ!」
胸の下着が見える。
レリアは気丈にもマルスを睨みつける。
「私には心に決めた殿方がいます! 絶対に、譲りません!」
「(クラウス……お願い、助けて……!)」
* *
闘技場でクラウスが殺気を漲らせながら剣を研いでいると、桜警視たちがいつのまにか後ろに立っていた。
「何用だ」
「殿下をお助けしなくてよろしいのですか、騎士殿」
桜警視は一呼吸置いて、
「実はサイバー捜査員をしている妻から報告がありまして、今回の王女誘拐、黒幕にオルフェウスがいると」
クラウスは音を立てて用具を置いた。
「そんなことはわかっている!」
「だったら!」
「殿下がマルス男爵と結ばれる以上、行く理由が……これでは私は逆賊だ。騎士として、殿下の御心に反することは」
「そんなの確かめなきゃわかんないすよ」
「お前は確か日向とか言ったな」
「おい日向! ああ、後輩が失礼を」
「構わない。今のは俺の本心だ」
クラウスの一人称が俺となった。
「御客人、クラウスや、ここにおったか」
「へ、陛下!?」
エーデルシュタイン国王、ファイエル・エーデルシュタインであった。
クラウスが跪き、桜警視らがお辞儀敬礼。
国王はクラウスの手をぐいと取り、力強く握った。
「クラウスや、クラウスや、わしはマーゲル・マルス親子を信じておらぬ。お前のレリアを想う真心のみを信じておるぞ」
「は、はい! はい陛下、畏れ多き限りでございます」
「娘のことを頼む。想いはお前の口から直接聞くのだぞ」
「かしこまりました!」
国王が一歩下がると、クラウスは剣を携えた。
「勅命である! レリア王女殿下を逆臣の手から救出するぞ!」
桜警視、日向警部補、大河内二佐は姿勢を正す。
「救出作戦後、御前会議を開けるよう手配する」
国王の勅令は下された。クラウスは官軍となった。
コメント
1件
第8話、一気に緊張感が走る展開でしたね!レリアが攫われてしまう早朝のシーンから、マーゲル宰相のほくそ笑み…さっそく裏がありそうな空気がゾクゾクしました。マルスの国際放送の場面は不気味で、桜春警部のハッキングで暗号を見抜く手際がかっこよかったです。そして何より、クラウスが国王直々に「娘を頼む」と言われて「俺」になる瞬間、胸が熱くなりました!救出作戦、どう動くのか続きがすごく気になります!