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そして僕らは逃げ出した。この狭い狭いこの世界から。 家族もクラスの奴らも何もかも全部捨てて君と二人で。もう全てがどうでもよかった。人殺しがそこら中に湧いてるこの世界に意味を見いだせなくなった。


遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ


もうこんな汚れた世界に用などは無いから


─価値などないから─


気づけば僕はこの旅に心が躍ってしまっていた。

深夜の三時の出来事だった。


外は未だに豪雨だった。傘も持たずに家を出た僕らはびしょ濡れになりながら歩いた。

果たしてどのくらい歩いただろうか。何もかもを犠牲にして逃げてきた僕らはあてもなく歩き続けた結果、自分たちのいる場所がどこなのか分からないくらい遠くまできた。近くにトンネルを見つけたので僕達はそこでしばらく休憩を取る事にした。

「結構歩いたかも。服も濡れたし私は疲れました笑」

相当歩いて吹っ切れたからなのか、はたまた現実逃避のためにわざとそういう言動をしているのか、どっちにしろ流花は思いのほか明るかった。まるで人殺しをした後とは思えない口ぶりだった。

「なんでそんな楽しそうなの」

「んー?わかんなーい!」

それから流花は少し間を空けて口を開いた。

「なんか全部吹っ切れて気分が高揚してんのかもね!」

「やっぱり。そうだと思った」

僕の勘はやはり的を得ていた。幼い頃から幼馴染をやっていると、相手が何を考えてるか何もせずともわかるようになる。流花は僕に微笑んでからその後何も言わなかった。

歩き疲れたので近くのトンネルに休むことにした。しばらくして雨は止んだ。数十分が経った頃、充分に休憩が取れた僕らは再びあてもなく歩き始めた。濡れた服は生乾きを始めた頃だった。

季節は六月だというのに暑い。先程まで続いていた豪雨がまるで嘘のようだ。僕らがトンネルを出る頃には太陽が出ていたので数分の間に止んだのだろう。雨が降った痕跡はあるので、なんだか空気が青臭い。伝う汗が僕らの体力を静かに蝕んでいく。

何も言葉を交わさないまま歩いていると突然流花が口を開いた。

「千尋さ、ほんとに一緒に来てよかったの?」

「え?なんで?」

「千尋優しいからさ、私のために嘘ついてないかなって不安になって」

「気にしなくていいよ。さっき言ったことは本当のことだから。」

「本当?」

「うん、本当」

「お父さんは大丈夫?」

「まあ、きっと大丈夫だよ」

「そっか・・・。なんかほんとごめんね。ありがとね」

「うん、いいよ」

そんな会話をして、また僕らの間に沈黙が流れた。普段なら気にならないこの沈黙がなんだか今は気まずく感じる。幼馴染に対してこんな感情を抱くのは初めてだ。

道中にふとコンビニを見つけたので、僕らはそこに立寄ることにした。とりあえず飲み物とアイスを買うことにした。僕らは未成年で仕事もしていないので収入源のない僕らはお金をやりくりしていかなければならない。節約のために二つ折りして楽に分けることが出来るアイスを選んだ。

コンビニを出てすぐ近くに休憩所があるので僕らはそこに腰かけてアイスを食べることにした。田舎の平日の昼間なので人は少なかった。

「暑っつーい!ほんと暑い!さっきまで雨だったのにさあ!服装間違えたかなぁ」

流花は夜に寒くならないように長袖を着ていた。まだ梅雨の時期なので、夜は肌寒いことが多い。そのせいで余計に暑そうである。一方僕は着替えを何着か持っているので便利である。なので流花よりは服装で困ることはあまりない、とは言ってもあまり荷物は持てないのでそんなに持ち合わせていない。僕は持っている半袖を貸した。

「僕半袖持ってるし貸すよ」

「え!いいのー?ありがと!着替えてくるわ!アイス持ってて!」

「あ、うん分かった」

流花は僕にアイスを押し付け、物陰に隠れて着替えた。そして脱いだ長袖を自分のリュックに入れ、再びアイスを頬張り始めた。

流花は僕に一方的に話し続けた。そういえば、こんなに喋る流花をどれくらいぶりに見ただろう。以前の流花の片鱗を見れた気がして少し嬉しくもある。最近気候の変化が激しくて疲れる話や、男女の友情は成立する話や、最近観たアニメの話、問題行動を起こして活動休止中の配信者の悪口。まさか再逮捕されるとは思わなかった。再逮捕のことでもう活動復帰は厳しいだろうな。色々なトピックを僕はただひたすら聞いていた。それにしてもどこでトピックを補充しているのだろうか。流花の頭の中を覗いてみたい気分になった。

「ねえ千尋!聞いてる?」

「え?あー聞いてるよ」

「聞いてないじゃん!目がどっかいってたよ」

「あほんと?気づかなかった」

「ちゃんと聞いて!それでね、」

配信者の再逮捕の話が頭から離れなくてずっとその事ばかり考えていたから、流花からすれば目がぼーっとしてたように見えたのかもしれない。しかし、流花はそんな僕の佇まいに特に気にする様子も無さそうだ。勝手に聞いているかを確認してきては、彼女が納得する僕の返答も待たずまたすぐ話し出す次第だ。今は、現在のマスコミはモラルが無いとかなんとかの話をしている。真剣に聞くのも体力を使うのでそのまま僕は聞いているフリを貫いた。

僕らはまた歩き出すことにした。あれから流花はずっと話していたので、僕は適当に相槌を打って場をやり過ごしていた。自分で言うのもあれだが、多分僕は相槌の打ち方が上手い。話なんて半分も聞いてないのに、毎回聞き上手と褒められる。これも流花のおかげなのだと思う。ずっと喋る幼馴染を持つと意図せずとも聞き上手になっていくものなのだろうと実感した。暫くしてから、 流花はそろそろ歩こうと提案してきた。恐らく話疲れたのだろう。街の時計を見てみると、休憩所で休憩を取ってから2時間が過ぎていた。

行く宛ての無い道をひたすら歩いていた。時折流花と世間話をしながらただひたすら歩いた。暑さと汗のせいで体力と気力なんてほぼ奪われていたが、ドーパミンが放出されているせいか無限に歩けそうな気がした。気づけば空は夕日も落ちかけて夜になりかけていた。それに伴い、肌寒くなってきた。僕らは長袖に着替えてまた足を進める。夕食を調達することになったので、とりあえずコンビニが見えるまで歩くことにした。

「マジでどこまで歩かないといけないのー?」

「とりあえずコンビニが見えるまでかな」

「全然ないじゃん!」

「確かに」

「マジでこんな田舎に生まれたのが悔しい!!」

「そんなん今更言ったところでしょうがないでしょ」

「千尋ってなんでも真に受けるよね笑」

「どうゆうことかなそれは」

「なんか小さい頃から変わってないなーと思って笑笑」

「そうかい」

「うん笑」


コンビニが見つかったので、そこに立ち寄って夕食を調達した。正直なところ、長い距離を歩いたものだからかなりお腹が空いた。僕は予算を気にすることもせず衝動に任せてたくさん買ってしまった。

「ねえ千尋買いすぎじゃない?」

「そう?」

「おにぎり三つにパン三つは多いよ笑」

「え?」

「私そんなに要らないもん笑お金大丈夫なの?笑」

「いやもうぺこぺこだから」

「全部食べてよね笑笑笑」

流花が購入したのはフライドチキンのみだった。人並みに食べる流花がフライドチキンのみだという事に内心驚いて、振る舞いは明るくしてるが本心は不安でいっぱいなのだろうかと無駄に考えすぎてしまった。

ところで話を戻すと、結果的にすべて食べれたのかというとそうではなく余ってしまった。完全に間違えた。購入した当初は全て平らげられると思っていた。あまりにも空腹だと逆に食事が全然喉を通らなくなる現象の名前が知りたい。余ったおにぎりとパンは翌日に回すことにした。昼は暑くなるので朝のうちに食べてしまおう。



時刻は夜の十一時を回っていた。

僕達は屋根付きのベンチのある公園で睡眠を取る事にした。

「ねえ、千尋。」

二人でベンチに横たわっているとふと瑠花が口を開いた。

「なに?」

「私怖い」

「え?」

「怖い。未来になんの確証も持てないのが怖い」

旅を始めてまだ一日目だというのに流花は情緒不安定である。昼間はあんなにお喋りだったのに。流花も覚悟を決めてここにいるはずなのだが、やはり夜になって怖気付いてしまったのだろうか。正直言うと、僕も少し怖い。そりゃそうだよな。大人でもこの状況に対して覚悟を決めるのは難しいだろうに、まだ十七の僕らに覚悟なんて決めきれるはずもなかった。

「確証?」

僕はそう呟いた。

「さっきまではもうどうにでもなれって思ってずっと逃げてきた。千尋と一緒なら心強いって思って逃げてきた。むしろ意外と楽しいななんて思えたりしたよ。けど今こうやって寝そべってるとなんか俯瞰して見てる自分も出てきちゃって。今更になって罪悪感も出てきた。お父さんもお母さんも今頃すごい心配してるだろうな。探してるだろうな。自分の子供が人殺しだなんて信じたくないだろうな。もし知ったらどんな反応するかな。由奈ちゃんの親御さんにも合わせる顔ないよ。ねえどうしよう私。色んな人巻き込んで。最低だよ。」

「大丈夫だよ流花」

「大丈夫なわけないよ。千尋も私と来たせいで共犯になっちゃったんだよ。やっぱ一緒に来るべきじゃなかったんだよ。これから先の人生やりたいこともあったはずなのに私が千尋の人生潰しちゃった。ごめんね千尋。」

別に僕は将来やりたいことなどない。

「大丈夫だってば流花。逃げる前流花に言ったじゃん。僕は、自分のために流花と一緒に来たんだよ。独りにしないって決めたのは僕だよ。だから自分のせいとかそんなこと思わないでいいんだよ。それにもう逃げてきちゃったんだから後ろは見ないでいよう。」

「分かってる。分かってるから余計辛いんだよ。」

流花は静かに嗚咽した。僕はそれを黙ってみることしか出来なかった。流花は僕に何をしてほしいのか理解できなかった。なんて声をかけたらいいのか分からなかった。味方でありたいのに何も出来ない。何も出来ないことが苦しかった。

「ごめん私もう寝るね。おやすみ」

僕らの逃避行の旅の初日は流花の涙で幕を閉じた。


流花にかけたい言葉を探っているせいで中々眠れなかった。

流花は人殺しなんかじゃない。あれは事故だ。そもそも流花はいじめられていたんだ。流花は正当防衛をしただけなんだ。でも流花は自分を殺人犯としている。けど大丈夫。君は何も悪くないよ。君は何も悪いことなんてしてないんだよ。

そう考えることで自分の中で合点がいった。あんなに取り乱しながら人殺しを告白した彼女を見ていてとても意図的とは思えなかったのだ。流花がまたどうしようもなく自分を責めてしまった時にこの言葉を伝えてあげようと思った。


気づけば僕は眠りに落ちていた。

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