ガキーーーン!!!!
グラウンドを飛び越え、校舎中に響き渡る金属音。
まだ休み時間ということもあり、校舎から覗く人も加えて見学する人数が徐々に増えていく。
「う、そだろ…」
生贄となった友人が震える声で呟いたのが聞こえた。
一撃目の衝撃で剣を手放さなかったのは褒めていいと思う。
ただ、もう手に力が入らないだろうけど。
周りの同級生と比べても小さな身体で、モトキが 跳ねるように飛び、走り抜ける。
手には重たい大きな剣を持ちながら。
ブゥン!と唸るような音を立てて振られる、緋色の魔法石のはめられた剣が太陽の光を反射して光る。
剣使いも魔法やヒーラーの基本だけは身につけないといけない。
通常なら持ち上げることすら出来ない剣を使いこなすための身体の強化、いざという時に命だけは失わないためのヒール、魔法剣の炎を扱うためでもある。
それらを軽々と使いこなし…
「はっ、とぉ!」
「うわー!!あっつつ!」
剣から竜のような形をした炎が飛び出して、友人へ向かっていく。
これも後から知ったんだけど、剣使いでありながら詠唱無しで炎の魔法使うんだよなコイツ。
チートすぎないか?
剣振ってんのにいちいち詠唱とか面倒くさいじゃんと言われた。
天才って意味分からない。
にしても。
本気を出すと一瞬で死なせてしまうので怖がらせて遊んでるらしい…
「まいった!参ったから、やめてくれ!」
友人が泣きそうになりながら、とうとう座り込んでしまった。
多少火傷はしたかもしれないが基本のヒールで簡単に治せるだろう。
「もう終わりかぁ」
煽りではなく、もっと遊びたかったのにと言いたそうな口調で止まるモトキ。
「また遊んでね」
「…っ」
ふわりと前髪が風になびいて漆黒の瞳が見えた。
無邪気な笑顔ではなく、目を細めた薄笑いで首を傾げながら囁く。
ビクリと震えた後、何も言えないままダッシュで校舎へ走り去る友人。
これは俺もやられたら泣いちゃうよ。
「お疲れ。1分半」
「そんなに相手してた?1分で良かったな」
手合わせにもならない相手をしてしまったと言わんばかりに剣を振ると、首元に下げたネックレスへ瞬時に吸い込まれて消える。
剣と同じく緋色の魔法石がはめられたネックレス。
剣を持ち歩くのは邪魔であり危ないため、 刀の鞘のような、大きな剣でも収納可能な特殊能力を持つネックレスへ戻すのだ。
「本当はわかいと手合わせしたかったのに。お前となら5分続けられる」
あいつが絡んでこなければ!と唇をムッとさせて怒っている。
そうだな。
俺も久しぶりに思いきり手合わせをお願いしたかった。
もちろん剣で勝てるわけは無いのだけど。
それでもコツコツと剣技も鍛えているから、さっきの友人よりは多少腕に自信がある。
「休み時間だと集中出来ないから、放課後にでもやるか」
「いいねー」
上の学年も遠巻きに俺らを見ていた。
その中から、リョウちゃんがニコニコしながら大きく手を振ってくれていた。
良いこと思いついたという悪戯顔のモトキが、俺の顔をニヤリと見た後にリョウちゃんへ手を振る。
「りょーちゃーん!僕、リョウちゃんには勝てないけど、手合わせ勝てたよおおぉ!」
は?!え???
振っていた手を止めて固まるリョウちゃん。
周囲の大量なギャラリーも、リョウちゃんと、目の前で暴れていたモトキを交互に見ては、ええ!?という顔をしている。
いやいや。
加護があるとはいえ。
ヒーラーリョウちゃんと、剣使いモトキで、どうしてそうなる…
無理があるだろと思ったら、何故か信じた周囲。
お前本当はすげえんだな!とリョウちゃんに声をかけている。
え、なんで。 意味わからないんですけど。
リョウちゃんも可哀想に、ちがっ違うよっと慌ててオロオロしている。
「馬鹿だなぁ皆」
まぁリョウちゃんを苛めないなら何でもいいかと呟くモトキ。
自分から仕向けておいて冷めた顔で眺めている。
こわい。
魔王だよもう、この人。
コメント
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最高すぎる…………………………どうなってるんですか………………………え、どうなってるんですか…………