テラーノベル
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この数日、なんだか教室の空気がおかしい。
廊下で『元貴~!』と呼ぶ声がして、
顔を上げると――
そこには、涼ちゃんと若井が
肩を並べて立っていた。
涼架『若井、先に帰ろっか!』
滉斗『え、あ、元貴も…』
若井がこちらを見て声をかけようとするが、
涼ちゃんが間髪入れずに腕を掴む。
最近話していなかった涼ちゃん。
“だったら俺も、絶対負けない”
涼ちゃんの言った言葉が蘇る。
頭が痛い、耳鳴りがする。
ずっと前は、こういう時、
若井と二人で帰っていた。
でも今は、涼ちゃんがいる。
若井は何気なく僕も誘いたい素振りを
見せるけど、涼ちゃんが、
『今日は二人で遊び場寄ろうぜー!』と
有無を言わせず連れていく。
僕は小さく手を振って
『また、明日ね』と作り笑い。
『じゃ、またね』と若井。
一瞬、こっちを振り返ったけど、
涼ちゃんが冗談を言いながら
どんどん校門へ歩かせてしまう。
ふたりの背中がだんだん小さくなっていく
のが、どうしようもなく、寂しかった。
次の日の数学の時間。
教室移動のチャイムが鳴る。
涼架『若井、一緒に行こう!』
涼ちゃんの明るい声に、
若井が『あ、うん』と立ち上がる。
滉斗『元貴もさ、……』
若井が声をかけかけるその横から、
すぐに涼ちゃんが若井の腕をとる。
涼架『席もう後ろの方取っといたから、
早く行こう!』
『元貴、また後で、』と、
もう連れていかれてしまう若井。
僕も立ち上がるけど、人の波に埋もれて、
一緒には歩けなかった。
――つい最近まで、移動教室なんかも、
いつも横に若井がいたはずなのに。
僕は教室のすみの空席で1人、
ノートを抱きしめて座る。
視線の先には、窓際の席で楽しそうに
話す若井と涼ちゃんが。
なんだか、心の奥がきゅうっと縮こまる。
昼休みもそうだった。
涼架『んね、サンドイッチの話したっけ?』
涼ちゃんが若井に話し出すと、
あっという間にその輪に入れなくなる。
若井は僕にも話題を振ろうとするのに、
涼ちゃんが『こっちこっち、若井!
お前あの新メニュー食ったことないよな!』
と話を引き戻す。
僕のトレイに手を伸ばしかけた若井が、
申し訳なさそうな顔でちらりとこっちを見た。
『また後で話そう』と口パクしている。
分かってる。
分かってるつもりだった――
でも、涼ちゃんみたいにはうまく輪の中に
入れない自分が、もどかしくて堪らなかった。
会話に混ざれないまま、手が震える。
胸の奥が湿った石みたいに重くなる。
気づいたら、ご飯を少しだけ残して、
俯いてしまった。
放課後も同じだった。
涼架『若井!今日も一緒に帰ろう!』
すぐそばで呼びかける涼ちゃん。
若井は教科書をまとめる途中で
『元貴、今日は一緒に……』と言いかけ、
でも涼ちゃんが、
『おい、先にカラオケ寄るって約束!ほら!』
とぐいぐい袖を引っ張る。
滉斗『ごめん、元貴、また明日な』
若井の声が、
なんだか申し訳なさそうに沈んでいる。
元貴『うん、また明日』
そう返す声は、
自分でも驚くほど小さくて弱かった。
気づけば、机に突っ伏す寸前の僕の目には、
悔しさと悲しさでにじむ涙が溜まっていた。
教室にはだんだん人がいなくなり、
かすれていく足音とともに、
ぽつりと独りぼっちの静けさが残った。
僕は窓を見上げた。
遠くの夕焼けが滲んで、世界がぼやけて見えた。
若井と笑い合っていた時間――
その全部が遠ざかっていく気がして、
もう二度と届かない場所に、
行ってしまう気がして――
涙が一粒、ノートの表紙に落ちた。
気づかれたくないのに、どうしてだろう。
涙を拭く袖が震えて、何も言えないまま、
ただ静かに俯いていた。
どうして、僕だけ置いていかれるんだろう、
教室の奥、空席を見つめながら、
この途方もない孤独がやがて
僕を飲み込んでしまいそうで――
小さな声で、『若井…』と名前を呼ぶしか、
僕にできることはなかった。
コメント
3件
やばい切ない!!でも、もっくん傷付いてるのすごい可愛い!!
切ない(´;ω;`)涼ちゃんも若井に少しでも好きになって欲しくて諦めないとことか可愛いけど、大森くん寂しそう(╥﹏╥)次の話気になりすぎる! 次回も楽しみに待ってます(*^^*)