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John Doe Lore
「一部の職員の行方が分からない」
そんな報告を受けたのは3月18日の午後、Roblox社から退勤しようと荷物をまとめていた時の事。
異変があると報告のあった街の調査及び解体。過去に作業に当たった従業員数名が行方不明になっている為、新たなチームが派遣された。
最初に派遣された従業員はTaph。Buildermanの指示によく従う忠実な彼の部下だ。そんなTaphが、Buildermanの連絡を取らず帰ってこない。異常事態だと見なしBuilderman、Dusekkar、JaneDoeの3人率いるチームが結成、派遣された。
そのチームとは現在連絡がつかないそうだ。
「……DusekkarもBuildermanも、Janeも居るのに?」
彼らのチームワークは完璧だ。Janeは日頃から鍛えており、斧といった近接武器の扱いに長ける。Dusekkarは魔法で大抵の攻撃を防げ、ビームで焼き殺す事も出来る。Buildermanは適切な指示、そして適切な武器を作り出せる。
そんな彼らが、行方不明?
「機械の故障では?」
「違う。故障だったらBuildermanが気付かない筈が無い、それに予備の通信機も壊れている」
報告者__Doombringerは淡々とそう言った。
「場所は」
「ああ?」
「その建物の場所は」
Doombringerはじっとこちらを見つめた後、息をついて告げる
「行くな」
「妻が居るんですよ。父さんも、Dusekkarさんも、家族のある従業員も」
「知ってる」
声を荒らげて、掴みかかる勢いで
「じゃあ何で__」
「死ぬからだ」
Doombringerは続ける。
「よく考えろ、John。あの3人が居て、報告が無いんだぞ」
「……」
「Shed……TelamonもBrighteyesも数ヶ月前から連絡が取れない。Crockworkは今別件で遠く離れている。今、我々に残されているのは?」
彼が僕の胸を指先で叩く。
「俺とお前。有用な戦力は俺とお前だけだ。お前が死んだら俺1人でRoblox社を回すのか?」
そんな、僕が死ぬ前提で。
「自分が死ぬ前提で話すのが気に食わないか?」
口を紡ぐ。図星。
昔っからこの人は鋭い。鋭いし、賢い。
「行くな。これは上官命令だ、Crockworkが帰ってくるまで待て」
「……ですが」
「返事は」
「……分かり、ました」
「良いだろう。帰れ」
手で払われ、やっとオフィスを出た。
「Jane」
夜。いつもよりずっと広いベッドで婚約指輪を撫でる
「何があったんですか」
そう聞いても誰も聞いちゃいない、答えてはくれない。
彼女は生きている。父さんも、皆も。
そう信じて、無理やり意識を落とした。
Crockworkが帰ってこない。
その知らせは絶望的だった。数少ない戦力、我々の光。それさえも不在。
「どうするんですか」
「………………諦めろ」
「はあ!?」
「俺たちでここを回すんだ」
諦める?トップが軒並み居ないここを、我々二人で守れと?
「馬鹿言わないで下さいよ、そもそも何で彼も……!!」
「おかしいんだ、ずっと前から。奇妙な噂がこの世界に広がってる」
「……噂?」
「知らないか?ネクロブロキシコン」
ネクロブロキシコン。風の噂程度で聞いた事がある。
呪われた書。読むと精神を侵される。
「都市伝説だ」
「火のない所に煙は立たない」
とにかく、とDoombringerは続ける。
「気を付けろ。何か見つけたら即時報告、独断は絶対に避けるんだ。返事」
「……はい」
納得出来る訳が無い。
自宅の物置、猟銃と銃弾。昔父さんの趣味で集めていたのを譲ってもらった。
弾は充分、動作も良好。
短剣も携帯する。近接はこれで防ぐ。
心許ない。だが、だからといってここで止まれる訳が無い。バイクをガレージから出してエンジンをかける。
「どうかご無事で」
祈るように指輪に唇を落とした。
たどり着いたのは薄暗く寂れた街。
懐中電灯で辺りを照らしながら歩いていると、ふとある事に気が付く。
結婚はあるのに死体は無い。
致死量を明らかに越しているし、それがあちらこちらに散らばっている。だが死体だけが綺麗さっぱり無くなっている。一つも無いのだ
「……生きているか、それともナニカが居るのか」
前者である事を願いつつ歩を進める。
1時間ほど探索し、そしてやっと見つけた。
ピンクの髪。昔からずっと大好きな色。
「Jane!」
見つけた。ほら、言った通りだ!彼女は生きていた。無事だ、きっと皆も……
カチリ
「……しまッ、」
目の前が毒々しい蛍光ピンクに覆われる。
サブスペーストリップマイン。Taphの所持品であり武器。彼も生きていた、それは良い。だが……
これは明らかに罠だ。
「何処だ……!?」
視界が潰された、きっと追撃が来る。何処だ、何処から……
「Dusekkar」
冷静な声。聞きなれた敬愛する父の声。
刹那、右目を熱い光線が襲った。
「あ゛ぁ゛ッ!?!?」
熱い、熱い、痛い。
BuildermanもDusekkarも取り込まれている。
まずい。Doombringerの言った通りだ。
一人で来るんじゃ無かった。
「Jane」
手を伸ばす。それに暖かい物が触れ……
右腕を引きちぎられた。
痛みで声が出ない。
「……John」
聞き慣れた美しい声。こんな時でも好きな女性の声というものはハッキリと届くのだな、と漠然と思った。
「お願い、逃げて」
ハッキリ届いたからこそ、彼女の苦しげな声がよく聞こえた。
顔を上げる。彼女の左目からドス黒い触手が生え、根を張っている。右腕は触手に覆われ、左手も硬い触手が這う。そして彼女は、泣いていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
そう言いながらも彼女の足は動く。
「違うの、傷付けたく無いのよ。言う事を聞かないのよ。お願い、お願いだから止まって!!」
最後の言葉は自信に向けられた言葉だろうか。
意識が朦朧とする。
「Jane……」
ああ、また従業員が減ってしまうな。
そう思い自嘲する。可動域を超えて振り上げられる彼女の腕を見上げた。
そして、その腕はバンハンマーで止められている。
「しっかりしろ大馬鹿者!!!!」
低い声。珍しく荒い。
Doombringer。
「正気を保てJohn Doe!お前は生きねばならん!そして私もだ、とっとと立て!!!俺を殺す気か!?!?」
その声でやっと意識がハッキリしだす。
残った左腕で体を起こすと後ろのトラックに気が付いた。
「荷台に乗れ、飛ばす!!」
Janeをバンハンマーで弾き飛ばし、トラックに乗り込む。そのままエンジンをかけて、トラックは急発進した。
背後からセントリーの音、Dusekkarの舌打ち……そして、Janeの安堵したような息が聞こえた。
「応急処置は……自分でしてるな」
移動中、ちぎれた右腕を布で縛っていた。
「良いだろう。まずは病院だな……寝るなよ、死ぬぞ。全く手が焼ける……」
その声は酷く焦っていて、でも何処か安堵していて。まだ安心するには早いとDusekkarなら叱責していただろう。彼ももう、取り込まれた
「確信しました。ネクロブロキシコンは存在する」
「……ああ。俺もそう思う」
「Roblox社は大丈夫なんですか」
Doombringerの顔が曇った。それで全て察した。
もう何も残されて居ない。居るのは生身の男二人。相手は、何人もの理性を失った怪物。
「John、しっかりしろ 決して希望を失うな」
「……」
「お前なら伝説になれる。俺も伝説になる。伝説は死なない。俺達は、死なない」
何時もと違い酷く優しい声。病院の光が見えてきて、安心して……意識が急激に落ちていった。
目覚めてから数ヶ月。我々は準備していた。
ちぎれた右腕は義手に。義手は大砲の役割を持つ。遠距離からの重い一撃は有効打になりうる。
そしてDoombringerはバンハンマーを改造し、グローブを付けていた。
再びあの街に向かおうとした時、突然空が赤く染まり、深い赤黒い霧で満ちる。
「誰だ!?」
「落ち着け小僧、下手に動くと……」
「ご機嫌よう、諸君」
赤黒い霧が形を成した。人のような姿。シルクハットを被っている
「残念ながら諸君の探し人はもうこの世界には
居ない」
「どういう……」
「私の支配下にある」
その霧は自らをSpectreと名乗った。
「君達はとても強かだ。何も与えないのは可哀想だろう?」
「何が言いたい」
「私の領域へ招待しよう」
二人で息を飲む。
罠だ。罠に決まってる、だが。だが……
「伝説になりたくはないか?」
Spectreは手を差し出した。悩み、そして_
手を取った。
「契約成立」
Spectreが笑みを深めた気がした。
浮遊感と共に意識は落ちて行く。
最後にこの世界で見たのは、脳裏に残る妻の涙だった。
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ダイレクトに伝わり段階を踏んで増す緊張感。キャラの行動、言動に違和感がなく素直に読ませる文章。 何が言いたいかというと最高ですありがとうございます