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#キャラ崩壊注意
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それから、さらに十数年の歳月が流れた。
かつて小さな子供だった恵は、皮肉にも五条悟の手によって育てられ、立派な呪術師として成長していた。直哉はといえば、禪院家の次期当主としての地位を固め、誰よりも傲慢に、誰よりも冷酷に振る舞う日々を送っていた。けれど、あの日アパートのクローゼットで見つけた一通の手紙だけは、今も直哉の懐に深く仕舞われたままだった。もう文字のインクは擦れ、紙の端はボロボロになっている。それでも直哉は、孤独に押し潰されそうになる夜、決まってその手紙を開いては、甚爾の筆跡をなぞっていた。自分宛てではない、別の誰かへの愛が綴られた手紙。それを読むたびに胸が引き裂かれるような痛みに襲われる。それでも、直哉にとってはこれが、甚爾という男がこの世界に確かに存在し、自分がその生きた証に触れているという唯一の証明だったのだ。そして、運命の日は唐突に訪れた。渋谷での大規模な抗争、それに続く禪院家の滅亡。かつて自分が君臨するはずだった屋敷は血の海と化し、直哉自身もまた、呪力を持たない実の母親の手によって背中を刺され、冷たい床に転がっていた。
「なんで……俺が、こんなところで……っ」口から溢れる血が、視界を赤く染めていく。エリートとして生きてきた男の最期としては、あまりにも無様で、惨めな結末だった。体温が急速に奪われ、身体の感覚が遠のいていく。その死の淵で、直哉は血に濡れた手を必死に動かし、懐のポケットへと手を伸ばした。指先が、ボロボロになったあの白い封筒に触れる。
(ああ、結局……最期まで、俺だけのものは一つも手に入らんかったな……)
甚爾の圧倒的な強さ。その隣に立つ資格。そして、あの男の心の最深部にあった、誰かへの深い愛情。どれだけ手を伸ばしても、直哉の小さな手は何も掴むことができなかった。自分はあの人にとって、通り過ぎていった無数の有象無象の一つに過ぎなかったのだ。けれど、意識が完全に途絶えるその一瞬前、直哉の胸には不思議な静けさが訪れていた。(それでもええわ……。あんたが誰かを愛して、誰かのために残したこの手紙を、最期まで持ってたのは……俺や)
他の誰も知らない、甚爾の最後の心。それを十数年もの間、世界で一番大切に抱きしめていたのは、彼女でも恵でもなく、自分だった。その歪んだ事実だけが、直哉の最期の救いだった。
「……甚爾、くん…」
直哉は掠れた声で小さくその名前を呼び、ゆっくりと瞳を閉じた。直哉の手から力が抜け、血に染まった床に、ぐしゃぐしゃになった一通の手紙が静かに落ちる。宛名のない手紙は、最期まで本来の持ち主に届くことはなかった。けれど、一人の男の歪んだ執着と愛を乗せて、それは禪院直哉という呪術師の命と共に、静かにその役割を終えたのだった。
コメント
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第3話、読み終えました……。直哉の最期、胸が締め付けられました。自分宛てじゃないと分かっている手紙を、十数年も肌身離さず持っていたこと。その執着の裏にある、たった一人の人間に愛されたかった孤独が痛いほど伝わってきました。彼にとってあの手紙は「甚爾が確かに生きた証」だったんですね。最期に「それでもええわ」と思えたのは、歪だけど一つの救いだったのかな……。引き裂かれるような読後感です。