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……無理だろ、これ
朝の教室。
騒がしい空気の中で、湊は一人考えていた。
瀬名、神代、白瀬、橘。
なんで全員なんだよ……
昨日のことを思い出す。
距離の近さ。視線。言葉。
どれも、ただの“気のせい”で片付けるには重すぎる。
いや、違う
わかってる。
これ、完全に好意向けられてるやつだろ……
頭を抱えたくなる。
でもそれっておかしいだろ
本来なら、
それぞれ別の相手がいるはずだった。
自分が描いた物語では。
『俺のせいで、全部ズレてる』
その考えに行き着く。
だったらーー
決める。
『関わらない』
それが一番いい。
元に戻るかもしれないし、
少なくともこれ以上崩れるのは防げる。
「……よし」
小さく呟く。
「なにがよしなの?」
「うわっ!?」
突然後ろから声がして、飛び上がる。
振り返ると、瀬名。
「びっくりしすぎじゃね?」
笑ってる。
タイミング悪すぎるだろ……
「いや、なんでもない」
「ふーん?」
いつも通り、隣に座ろうとする。
その瞬間ーー
「……あ、ごめん」
自分でも驚くくらい自然に、口が動いた。
「ちょっと用事思い出した」
立ち上がる。
「は?」
瀬名の声が低くなる。
「今?」
「うん」
目を合わせないまま、教室を出る。
……ごめん
心の中でだけ謝る。
廊下を早足で歩く。
これでいい
距離取るだけだ
それだけ。
簡単なはずなのに。
「朝霧」
足が止まる。
マジかよ……
振り返る。
神代。
「……どこ行く」
短い言葉。
でも逃げ場がない。
「ちょっと、用事」
「さっきも言ってたな」
見てたのかよ……
視線が鋭い。
「避けてんのか?」
直球。
「いや、別に」
「嘘」
即答。
一歩、近づかれる。
「なんでだ」
やめろって、その距離……
心臓がうるさい。
「なんでもねえって」
少し強めに言う。
神代が黙る。
数秒の沈黙。
「……そうかよ」
それだけ言って、離れる。
背を向ける。
……え
あっさり……?
拍子抜けする。
でも同時にーー
胸が、少しだけ痛む。
なんだよ、これ……
わからないまま、その場を離れる。
昼休み。
屋上。
誰もいない場所を選んだはずなのに。
「来ると思った」
もうやだこの世界
白瀬がいた。
フェンスにもたれて、こっちを見る。
「なんでいるんだよ」
「なんとなく」
なんとなくで来んなよ……
近づかず、距離を保つ。
「逃げてるね」
図星。
「逃げてない」
「逃げてるよ」
即否定される。
「だって、関わらないようにしてるでしょ」
言葉が詰まる。
なんでそんなことまで……
「理由は?」
静かな声。
でも逃げられない。
「……関係ないだろ」
「関係あるよ」
同じ言葉。
でも橘とは違う重さ。
「この世界、君中心にズレてるから」
息が止まる。
やっぱりこいつ……
「……知ってんのか」
小さく聞く。
白瀬は少し考えて、
「全部じゃないけど」
と答えた。
「でも、原因は君っぽいね」
はっきり言われる。
視線を逸らす。
「……だったら余計だろ」
「え?」
「俺が関わらなきゃ、戻るかもしれない」
それが本音。
白瀬は少しだけ目を細める。
「戻したいんだ」
「当たり前だろ」
「なんで?」
その一言に詰まる。
なんで……?
「だってこれ、俺の描いた話だし」
「だから?」
追い詰められる。
「……本来の形があるんだよ」
絞り出す。
「みんな、それぞれ幸せになるはずだった」
少しの沈黙。
白瀬がゆっくり口を開く。
「じゃあさ」
「君は?」
心臓が跳ねる。
「君の幸せは、どこにあるの」
言葉が出ない。
考えたこともなかった。
俺の……?
「……そんなの、関係ないだろ」
目を逸らす。
「関係あるよ」
静かに、でもはっきりと。
「君がここにいる時点で」
その言葉が、妙に重く残る。
何も言い返せない。
沈黙。
風が吹く。
「……まあいいや」
白瀬が先に視線を外す。
「逃げるのも選択だから」
「……」
「でも」
もう一度、目が合う。
「そのうち無理になるよ」
「……は?」
「だってーー」
少しだけ笑う。
「向こうは逃がす気ないから」
意味深な言葉。
向こう……?
その意味を考える前に、
チャイムが鳴る。
現実に引き戻される。
白瀬はもう何も言わない。
……逃げる
改めて思う。
これ以上、関わらない
それが一番いい。
そう、決めたはずなのに。
胸の奥が、ざわついたままだった。