黒い百合を白く染めて きり丸ルート
深い山道を歩く。
その足音は自分のものしか聞こえない。
小鳥が鳴き、風の音が聞こえる。
そんなここは街へ続く山道だ。
忍術学園の裏山から行けば、今日のアルバイト先には十分足らずで着く。
「ふぅ、今日もアルバイトかぁ」
俺、摂津のきり丸は一息ついた。
現在、俺のところには何件も仕事が入ってきており、連日忙しい日々が続いているのだ。
乱太郎やしんベヱに手伝ってもらったりしたが、二人も委員会が忙しく、今日は足早に教室を出ていってしまった。
そんな日は六年生の先輩方が手伝ってくれたりしたが、それももうない。
二か月前、天女と名乗る女が現れた。
その女は上級生や先生方を誘惑し、俺たちに暴力を振るった。
利吉さんが天に返したが、俺たち下級生と上級生の仲は元に戻らなかった。
「早く、元の生活に戻りたいな。」
そんなことを願いながらアルバイト先への道を歩き続けた。
そんな時、足元が眩しく光った。
それは模様を作り出しており、なんだか神々しく見えた。
「なんだ…これ?」
模様の前に立つと頭の中に何かが浮かんでくる。
「…素に銀と鉄。
礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠よりいで、王国に至る三叉路は循環せよ
みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返す都度に五度。
ただ、満たされる時を破却する。
告げる。
汝の身は我が元に。我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いをここに。
我は常世総ての善となるもの
我は常世総ての悪を敷くもの。
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーー!」
頭の中に現れた文章を読み上げると魔法陣が赤く光る。
俺はその光景に目を奪われた。
すると魔法陣の上に一人の女性が現れた。
「サーヴァント、セイバー。真名を冬月
召喚に応じ、参上しました、ご命令を、マスター。」
「天女…様?」
俺はその人の美しさに目を奪われた。
とっさに天女かと思ったがあいつらよりももっと美しい人だった。
「いいえ、私はサーヴァントです。」
「サーヴァント?」
「まぁ、使い魔のようなものですね」
そういうと彼女は俺に跪き、
「あなたを守護する者、あなたの剣となる者、それがサーヴァントです。」
「俺の剣?」
彼女は頭を上げ俺の手を取った。
「なんと小さき体…この体に大変な苦労を重ねてきたのですね。なんでもご命令ください、マスター」
本当になんでもしてくれるのか?
この人も天女たちのように俺たちに危害を加える存在ではないか?
そう思いつつ恐る恐る問いかける。
「…本当になんでもしてくれる?」
「はい。」
まさかの即答だ。
「じゃあ、俺のバイト手伝ってくれますか?」
「もちろんです。」
彼女はなごやかにそう言った。
嬉しかったが問題がある。彼女の服装だ。
大袖をつけて剣を腰につけている状態では変に思われる。
「マスター、動きやすい服装に着替えますね。」
「え?」
彼女は一瞬で薄桃色の着物に着替えた。
「これならいかがでしょう」
「は、はい、大丈夫です、行きましょう!」
驚いた、彼女は俺の心がわかるのか
その日のバイトはとても順調で、店員さんも倍のバイト代を渡してくれた。
夕方、学園までルンルンで帰っていた。
冬月さんもその姿を見て微笑んでいる。
「いやー、本当に助かりました、ありがとうございます!」
「いいのですよ。」
彼女は「サーヴァントだからお金も要らない」
と言って、バイト代も全部くれた、
「冬月さんはこれからどうするんですか?」
「私はマスターを守らねばなりませんので、貴方のおそばに。」
ということは学園にいることになるのか。
サーヴァントの事も学園長先生なら知っているかもしれないし、ちょうどいいかもしれない。
学園の門を叩き中に入る。
ちょうど門の当たりで小松田さんが待っていた。
「おかえりなさい!あれ、そちらの人は?」
「冬月さんです!アルバイトを手伝ってくれたんすよ!」
「こんばんは。」
冬月さんは小松田さんに頭を下げて挨拶した。
天女はこんな事はしないし、本当に天女じゃないのか。
「そうだったの!冬月さん、入門表にサインください!」
「わかりました。」
サインを書き、中に入る。
俺たちは急いで学園長室に向かった。
「失礼しまーす!」
襖を開けると学園長先生が本を読んでいた。
隣にはヘムヘムもいる。
「えーと、裏々山でサーヴァントを召喚したんですけど…」
「なんじゃと!!?」
学園長先生はたいそう驚いていた。俺の後ろにいた冬月さんが手を床に着け深々とおじぎをする。
「サーヴァント、セイバー。真名を冬月。胃がお見知り置きを。」
「セイバー、剣士のサーヴァントじゃな?」
「いかにも。この身、我が主を守護するため現界致しました。」
サーヴァントは皆そうなのだろうか。少し照れくさい。
「うむ、しかし、なぜサーヴァントが…」
「さぁ?」
裏々山にあれがなんであったのかもわからない。
「マスター、少し下がっていただけますか?学園長先生とお話がございますので。」
「あ、はい!失礼します!」
そう言って部屋を出た。
冬月side
「それと、床下と天井裏にもいますね?」
そう言うとそこから数人が顔を出した。
中に入った時から殺気を感じていたがここまで多いとはな
「気づいておったか。」
「私はサーヴァントです。これくらい気づいて当然ですよ
部屋から出ていただけますか?」
「…しかし」
「どうか、お願いします。」
頭を下げ、頼み込んでみる。
「うむ、一人くらいならいいかのう?」
やはり、警戒が強くて二人きりは無理か。
「一人でしたら」
「山本先生!」
学園長先生が名を呼ぶと若くて綺麗な女性が降りてきた。
他の人が部屋から出ていったのを確認し、防音の結界を貼る。
「では本題に入ります。私が召喚された理由は二つ。
まずひとつは抑止力として召喚されたということ。」
抑止力というのは人類達の星の最大の味方であり、敵になるかもしれない存在。
大抵は滅亡の要因となるものが現れた時にしか働かない。
今回私は人類、つまりアラヤ側として現界した。
ガイアの抑止力が働くことはそうそうない。
「して、二つ目は?」
「二つ目はこの世界…いえ、この学園と言った方がよろしいでしょうか。復讐の念に引っ張られたのです。
我が主はこの学園の中でも特に復讐の念が強かったのです」
「どういうことでしょうか?」
私はセイバーで現界しているが同時に復讐者の素質もある。
サーヴァントを現界させるために魔術師は大体触媒を使うのだが、それなしで召喚すると自分に最も近いサーヴァントが召喚されるという仕組みなのだ。
「つまり、きり丸の復讐の念にひっぱられたということじゃな?」
「そうです。」
ここまで話終えると防音の結界を解いた。
そして跪き直し、
「ここに誓いを。我は我が主の剣となり、盾となり、この第二の生を過ごすことを約束します。」
「うむ、よろしく頼む!!」
きり丸side
学園長先生との話が終わって出てきた冬月さんを俺は一年は組の教室へと連れていった。
教室ではみんなが談笑しており、楽しそうな声が聞こえてくる。
「お待たせー!ささ、こっちっす!」
「失礼します。」
みんなはなんだなんだと冬月さんの方を見た。
「サーヴァント、セイバー、冬月です。よろしくお願いします。」
冬月さんはみんなの前に正座をすると学園長先生の時と同じように深々とお辞儀をした。
みんなはすごく驚いていたが無理もない。
「なぁ、冬月さん。頼みがあるんだけど…」
「はい、なんでしょう。」
「俺だけじゃなくて、この学園を守って欲しいんだ。」
「はい、マスターの望みとあらば。」
本当に何でもしてくれるんだな。
「あの、本当に天女様じゃないんですか?」
庄左ヱ門が冷静に質問をする。
「はい、そうですが…天女とはなんでしょう?」
冬月さんは天女のことを知らないのか。
まぁ、それもそうか。さっき来たばかりなのだし。
「天女は令和の時代からやってきた女性たちなんです。」
「令和?」
どういうことだ、令和という時代も知らないなんて。
「冬月さんは令和から来たんじゃないんですか?」
「私が生きていた時代は平安時代です。」
「平安時代!?」
すごい昔に生きていた人だった。
冬月さんはサーヴァントの事についていろいろ話してくれた。
まず、サーヴァントというのは英雄が死後、人々に祀あげられ英霊化したものを、魔術師が魔力によって使い魔として現世に召喚したものだということ。
そして、英霊にもいくつかの種類があること。
冬月さんは本人の意思とは裏腹に周囲が救い手として祀りあげた「反英雄」というものだそうだ。
ここまで説明されると庄左ヱ門以外はみんな酷い顔をしていた。もちろん俺も。
「ふふ、でも知っておいて損はありませんから。」
「勉強になります!」
「それからマスター、令呪の確認をさせてください。」
「令呪?」
令呪とはマスターが所有するもの。この令呪でサーヴァントに絶対的な命令を下すことができる。
しかし、それは3回までで使い切ってしまってはいけない。
俺の令呪は薔薇の形をしていて手の甲にあった。
「ありがとうございます。どうか大切にとっておいてくださいね。」
「わかりました!」
その後、しばらく話をした後それぞれ部屋に戻っていった。
冬月さんは俺の護衛のためと言って長屋の屋根の上で刀の手入れをはじめた。
「ねぇ、きりちゃん。冬月さんは休まなくてもいいのかな?」
「守ってくれるとはいえ、冬月さんの体が心配だね。」
「でも、サーヴァントに休みは必要ないって言ってたぜ?」
冬月さんが言うにはサーヴァントには食事も睡眠も必要ないのだという。ただ、主から供給される魔力は必要のため、しっかり休んでおくようにと言われていた。
「サーヴァントってそんなもんなのかなぁ。」
俺は仰向けになり天井を見つめてそんなことを考えていた。
次の日、今日の実技は裏々山までランニングだ。
山田先生と土井先生は用事があってついてこれないとのことなので代わりに冬月さんが付いてきてくれることになった。
「それじゃあ行くよ。しっかりついてきてね」
「「「「はーい!!!」」」」
俺が言うのもなんだがみんな気を許すの早すぎないか?
俺たちは冬月さんを先頭に裏々山まで向かうこととなった。
後ろはいつものごとくしんべヱだ。
裏々山まで向かう最中、冬月さんは周りを見ながら走っていた。
俺も見渡しながら走っていたが怪しい気配は感じられない
しかし、彼女は険しい顔をしていたのが気になった。
裏々山の頂上に向かうと少しの休憩をとるよう言われた。
彼女は先生たちと同じ格好をしながらも少しだけ武装し、戦闘態勢にいつでも入れるようにしていた。
さすがに気になるので勇気を出して聞いてみる。
「先ほどからどうかしたんですか?」
「マスターは気づきませんか、この殺気。」
そういわれて周りを見てみるも何も感じない。
もう一度彼女に視線を戻すと、ただ一点を見つめていた。
「マスターはここにいてくださいね」
そういうと森の奥を見つめながら剣に手をかけた。
「くる。」
「え」
彼女のその一言の瞬間、大きな何かがこちらに突進してきた。
あまりの勢いに吹き飛ばされそうになる。
「な、なんだ!?」
恐る恐る前を見ると、大きな怪物が冬月さんと打ち合っていた。
身長は一間(約一、八m)以上はあるだろうか
黒い肌にいかつい顔、上半身は裸で、下半身に腰巻のようなものをつけている。
上は無造作に伸ばされていて、まさに野蛮人といった風体だ。
持っている武器はその巨体に合わせて作られた斧剣だが、いまにも折れそうだった。
やつは一度後ろに飛びのき、俺たちをじっと見つめた。
「皆はすぐに学園へ!三治郎と兵太夫を先頭に二列!
乱太郎は一番後ろでしんべヱを支えてあげて!
学園に到着次第、先生方に報告、援護はいらないとだけしっかり伝えなさい!マスターはそこから離れてはいけませんよ」
「で、でも、冬月さんときり丸は!?」
「しんべヱ、二人なら大丈夫。ここは冬月さんの言う通り学園に避難しよう!」
庄左エ門の一声で冬月さんの言うとおりに避難した。
俺がここに残るように言われたのはきっと、俺がマスターだから何だと思う。
庄左エ門たちが見えなくなったのを冬月さんが確認すると、周りに氷の壁を張った。
もちろん、俺の周りにもだ。
怪物もその時を待っていたかのように雄たけびを上げこちらに突進してくる。
そしてまた打ち合いが再開された。
怪物はその巨体に似合わず素早く、そして太刀筋が良い。
そのおかげで冬月さんは防衛にまわるしかないようだ
かなりつらい顔をしているのがよくわかる
しかし、冬月さんは打ち合いをしながらも、足元に百合の花を咲かせていた。
そしてその範囲はどんどん広がり、やがて百合は彼女の剣にも咲始める。
その百合はやがて空に飛んだかと思うと花弁となって散り始めた。
ガァンと大きな音が鳴り響いたかと思うと、怪物は膝から崩れ落ちた。
その体に巻き付くように百合の花が咲き誇る。
「■■■■■■ーーー!!!」
声はするが、言葉になっていない叫び声。
怪物は自分の体に巻き付いた花を引きちぎった。
「まぁ、この程度じゃやられないか。」
冬月さんは一度致命傷を与えたはずだった。
でも、この怪物は止まらない。
今度こそ、彼女を殺そうといわんばかりの目線がこちらに向く。
「そこまでだ、バーサーカー!」
いつの間にか氷の壁の上に一人の男が立っていた。
服装からして忍者だ。
「フム、お前がセイバー、そしてセイバーのマスターか。
今日は偵察に来ただけだったが面白いものを見せてもらったよ。」
そういうと忍者はバーサーカーとともに消えていった。
とりあえず、冬月さんが無事で安心した。
ほっと息をつくと、冬月さんは俺を抱え学園に向かって走った。
「マスター、大丈夫ですか?」
「へ、平気です!だからおろしてぇぇえ!!」
in学園
学園につくと、乱太郎たちは校門で待っていた。
冬月さんはみんなと一緒に学園長室へ向かっていった。
「ただいま戻りました、学園長殿。」
「うむ、よく戻ってきてくれたな。」
冬月さんは先生たちの前にひざまずく。
その光景が見慣れないといわんばかりに俺たちは組以外の人たちは驚いた顔をした。
「お疲れのところすまんが、事情を聞かせてはもらえんか。」
「もちろんでございます。実は裏々山にて、サーヴァントに襲われました。
クラスはおそらくバーサーカーと思われます。
真名はわかりませんが、さぞ高名な英雄かと思われます」
「そんなことわかるんすか。」
学園長先生はフム…とうなずくと深く考え込み始めた。
「マスターはあの忍者がどこの忍者かわかりますか?」
「えっと、あの服装からするとたぶんトフンタケ城じゃないかと。」
「しかし、なぜ彼女のほかにサーヴァントがいるのです。」
「…」
冬月さんは深く考えると、こう話した。
「これは、聖杯戦争です。」
その場にいる誰もが驚きと疑問の声を上げた。
「聖杯とはあらゆる願いをかなえる願望器です。過去の英雄をサーヴァントとして召喚し、最後の一騎になるまで争う。そしてその勝者にはあらゆる願いを叶える権利が与えられるのです」
場の空気が一気に張り付いた。
無理もない、これは簡単に言えば殺し合いなのだから。
でも俺はそんなことより
「願いが叶うってことは大儲けできるってことですか!!?」
「だぁーーーーーっ!!!!!」
冬月さん以外ずっこけた。
「それで、その聖杯戦争には南紀のサーヴァントがいるのじゃ?」
「通常七騎です。今回も恐らくそうだと思います。」
そのうち二騎が冬月さんとバーサーカーなのか。
でもあのバーサーカーがすべて倒してしまいそうな気がするが。
「よし、冬月よ。相手がサーヴァントだろうと子供たちは守らねばならん。襲撃に来ることもあるじゃろう。その時は頼んだぞ。」
「はっ。仰せのままに。」
in食堂
報告が終わった後、は組のみんなで夕食をとることになった。
冬月さんも半ば強制だ。
食堂に入るとおばちゃんの温かい笑顔が見える、
「おかえり!夕飯できているよ!」
皆が次々と入る中、俺と冬月さんも後に続いた。
「あの、手伝いましょうか?」
「大丈夫よ!あなたが冬月さんね。みんなを守ってくれてありがとう!」
「いえ、当然のことですから。」
冬月さんはいつもこうだ。何かと理由をつけて感謝されること、人らしい行動をとろうとしない。
サーヴァントには不要だと考えているからなのだろうか。
「冬月さんここにどうぞ!」
「ありがとう」
乱太郎に促され彼女は俺たちの向かいに座った。
「お残しは許しまへんで!!」
「いただきまーす!!!」
おばちゃんのいつもの声が響く。
ようやく日常に帰ってきたと感じる瞬間だった。
「いつもこうしてみんなで食べるのですか?」
「はい!こうしてみんな揃うことはあんまりないんですけど…」
「ぼくたちはずうっと一緒だよね!」
「いいものですね。」
彼女は微笑みそういった。
その時だった。
「…お前が天女様か。」
伊助「三郎治先輩、冬月さんは違います!」
池田三郎治先輩、川西左近先輩、能勢久作先輩が冬月さんの周りを取り囲んだ。
「乱太郎たちは気を許したかもしれないが、俺たちは騙されない。」
「必ず本性を暴いてやるからな!」
そう言う三人をあわあわしながら、羽丹羽石人先輩と時友四郎兵衛先輩が見守っていた。
「冬月さん…!」
「大丈夫ですよ、しんべヱ。きっと彼らに何かあったのでしょう。」
彼女はそういうと席を立ち、二年生の前に跪いた。
「この身は主と主が学ぶこの学び舎を守護するために存在します。
この学び舎が完全に安心できる場所となるよう、私は剣をふるい続けましょう。」
そう力強い言葉を言ったのだ。
二年生たちは「何かしたらただじゃおかないからな。」と捨てセリフを吐き食堂を後にした。
俺たちも足早に食堂を後にすると冬月さんは行くところがあるといい、姿を消した。
冬月side
in裏山の滝
マスターと別れた私は裏山の滝を訪れた。
さすがにマスターたちが使うお風呂は使えない。
礼装を解き長襦袢に着替え、池に入って身を清めることにした。
まぁ、かなり無防備だが池の周りに結界を張っているので問題ない。
「…ふぅ。」
生前はちゃんとお風呂があってみんなで入ったっけ。
あの頃が懐かしい気もするがそんな記憶は今の私には必要ない。
「マスターは不在かい?ずいぶんと隙の多いサーヴァントなのだな。」
「そんなわけないでしょう。マスターは就寝の時間だから安全な場所にいるし、魔力だって届く。マスターがいる場所には結界もはってありますしね。」
声は男だった。この暗さなので姿は見えにくいが忍びであることは想像できた。
「そのマスターは忍術学園の生徒だね?」
「だとしたらどうするのです?」
そう聞き返す彼は姿を見せた。
「私は忍術学園の教師の息子でね。君が学園の味方なら協力したいと思っているんだ。」
「…なるほど?」
「自己紹介が遅れたね。俺は山田利吉。」
「セイバーよ」
互いに握手を交わす。この人に敵意はないようだ。
「じゃあ、明日学園長先生を交えて話し合いましょう。」
「いいよ。じゃあ、明日の昼、学園で。」
きり丸side
次の日、昼食を取り終わった後学園にお客さんがやってきた。
山田先生の息子、利吉さんだ。
「やぁ、きり丸。」
「利吉さん!!」
利吉さんはフリーの忍者でかなりの凄腕だ。
天女を天に返し、僕たちを助けてくれたのも利吉さんだった。
「今日はどうしてここに?」
利「君と君のサーヴァントに用事があってね。」
「あぁ、いらっしゃっていたのですね。」
冬月さんが姿を見せる。冬月さんのことをどうして利吉さんが知っているのだろう。
「マスター、詳しい話は後で。それともう一人いますよね?いいえ、一人と一騎というべきかしら。」
そういうと姿を見せたのは
「ちょっとこなもんさん!!」
「雑渡昆奈門だ。それによく存在に気づいたね?」
「まぁ…かなり薄かったですけどね。」
彼女がそう言うと雑渡昆奈門さんの隣に姿を見せたのは黒マントにドクロの仮面をつけた人だった。
「お初にお目にかかります、セイバーのマスター殿、セイバー殿」
「はじめまして!」
「マスター、そんなに気を許しては…」
「大丈夫だよ。僕は忍術学園の味方だし、聖杯戦争に関わる気もない。」
まだ疑いの目を向けていたが、そういうのなら大丈夫だろう。
この前の天女の一件でも力を貸してくれた人だし。
in学園長室
ということで僕たちと学園長先生、利吉さん、雑渡昆奈門さん達と話し合いを行うことになった。
もちろん先生方も一緒だ。
「して、タソガレドキ城城主様は貴方がサーヴァントを召喚したことをご存知で?」
「いや、このことはタソガレドキ忍軍にも知らせていない。アサシンには学園の調査と学園の味方をするように令呪を使っている。」
そういうと昆奈門さんは手の甲を見せた。
令呪は1画消えており、アサシンも肯定の意を示した。
「私もその現場を見ております。どうかご安心を。」
「それなら良いが…」
その話をしているとアサシンさんが自分の目の前にやってくる。
「…なぜ、このような幼き子が聖杯戦争などに…」
「アハハ、それは成り行きと言いますか…」
アサシンは首をかしげた。
「そうだ、信用出来ないのならこの場で真名を明かすといい。真名は弱点。明かすことは弱点をばらすことに繋がる」
「それは良き考えですな。私はハサン。呪腕のハサンにございます。この場を持ち、セイバー殿とは同盟を結びたく。」
「同盟ですか」
「うん、僕は今回学園側の人間だし、今後僕らで争わないという約束をするための同盟だよ」
「ということですがいかがでしょう」
「俺は構いませんが…信用していいんすか、利吉さん?」
「あぁ、実際に二人目の天女を天に返したのも彼だしね。」
ということで同盟は成立された。今後はアサシン陣営と協力していくことになったのだ。
「じゃあ、僕らから情報だ。今回の聖杯戦争でどこの城が何のクラスを召喚したかを共有させてもらうよ。」
昆奈門さんはそういうと一枚の紙を取り出し、冬月さんに渡した。
その紙には彼の言う通り、どこの城が何のクラスを召喚したかについて書かれていた。
俺、忍術学園は、セイバー
ウスタケ城は、アーチャー
ドクタケ城は、ランサー
兵庫水軍は、ライダー
タソガレドキ城は、アサシン
スッポンタケ城は、キャスター
トフンタケ城は、バーサーカー
ほとんどが忍術学園と敵対関係にある城だった。
しかし兵庫水軍がライダーを召喚していたことには驚いた
「ライダーはセイバーと戦うつもりはないと言っていた。知り合いかもしれないぞ」
「…私の知り合いにライダー適正もつ人なんていたかしら」
兵庫水軍は俺たちと仲がいい。
もしかするとそれで敵対するつもりはないと言っているのかもしれない。
そんな話をしていると近くで轟音が響いた。
「なんじゃ!?」
「学園の外のようです、行きましょう。」
冬月さんは部屋を飛び出て行った。
ハサンさんもそれに続く。
「生徒たちに学園から出ないように伝えて。学園を囲うように結界が貼ってあるようだから。」
「わかりました!」
「私も手伝おう。」
俺と利吉さんで学園長室を出ると全生徒に学園から出ないように伝えに向かった。
冬月side
学園の裏に向かうとバーサーカーが暴れていた。
結界が破れなくて行き止まりにあっている。
「アサシン、あなたは生徒たちをお願いします。」
ここで決着をつけねばならない。私は剣を手に取りバーサーカーの元に向かう。
やつの後ろに回りこみ急所を狙った。
「███!!!」
しかし直ぐにバレ、攻撃を弾かれてしまった。そう簡単には行かないということか。
攻撃と同時に奴に百合の茎を巻き付けておいたため、あまり吹き飛ばずに済む。
「っと。」
狂化したことでいろいろと能力が上がっているのかもしれない。こんなの生身の人間が相手したらすぐに殺されてしまうだろうな。
「さぁ、勝負といきましょう!」
「██████ー!!!」
ガァン!と大きな音が森に響く。
やつの一撃は重いがギリギリ耐える。
「はっ!」
互いの攻防が続き、一旦距離をとる。
「強い…」
あの日も、一度致命傷を与えたはずが耐え抜いた。
どんな英雄なのか全くもって検討がつかない。
バーサーカーが足に力を込め一気にこちらへ飛んでくる。
その瞬間に氷の縦を作り防いだが、ピシッとヒビが入った。
「…感服するよ。私の盾にヒビを入れるなんて。」
狂化で、伝わっているかはわからんが。
「█████████!!!」
さぁ、次はどう来るか。
今はこの戦いを楽しむとしよう。
きり丸side
冬月さんは真名こそ弱点になりうると教えてくれた。
それなら奴の真名を暴けば彼女の役に立てるかもしれない。
そう思い立った俺は図書室で色んな本を漁った。
「何してるんだよきり丸!早く逃げないと!」
「冬月さんがバーサーカーと戦ってるんです!俺も何かしないと!」
「僕もやるよ!!」
怪士丸とともに色んな本を必死で漁った。
あの体格、あの戦い方、本になってないとは考え辛い。
どこかにあるはずだと俺は探しまくった。
「…きり丸、君のサーヴァントは僕たちを守るために戦ってくれているんだね?」
後ろを振り返るとそこには不破雷蔵先輩と中在家長次先輩が立っていた。
上級生は天女の一件でずっと俺たちを避けていた。
しかし、冬月さんが戦ってくれていることで動いてくれたようだった。
「今まで本当にごめん!どうか、僕達も協力させて欲しい!」
「…手伝う、外見の特徴を全て教えてくれないか?」
二人は俺たちに頭を下げそういったのだ。
「もちろんです!!」
二人がいれば百人力だ。俺は全ての特徴を彼らに教えた。
冬月side
あれからどのくらいの時が経っただろう。
もう何分も打ち合っている。
奴の体力は無限に感じ取れるほどだった。
何度も致命傷を与えようと立ち上がる。
それだけの魔力を投じられているのかと考えながらまた距離を取り呼吸を整える。
なにか弱点があるはずだ。それを見つけねば。
そう思った時だった。
「冬月さん!!」
塀の上にマスターが立っていた。
「奴の真名はヘラクレスです!ギリシャ神話の大英雄!生前十二の試練を踏破し名を挙げています!!」
なるほど十二の試練か。
何回か致命傷を負っても立ち上がったのはそのせいか。
それならばと私は呼吸をしっかり整えバーサーカーに向かっていった。
何度も、何度も打ち合い、やつが倒れればすぐに立ち上がり、その度に距離をとって…地道ではあるがこれが奴には効いた。
それが十二回。
剣に一気に魔力を込め、冷気でその場を包み込む。
「やっちまえー!セイバー!!」
「はあああああっ!!」
氷の剣をやつに目掛けて一気に振り下ろした。
その傷が致命傷になったのか、やっと奴は剣を手放し、その場に力なく倒れた。
「██████████████████…」
言葉のような言葉じゃないような、優しい声。
「言われなくとも」
私はそう言いその場を後にした。
バーサーカーは微笑んで消えていった…
「よかったあああーーー!」
しんべヱがさっきっから冬月さんに抱き着いて泣いていた。
「こらしんべヱやめなさい!!」
土井先生が引っぺがすと鼻水が出ろーっとついていた。
「すみません…」
「大丈夫ですよ、霊体化すれば元通りなので。」
そういうとさっと霊体化してしまった。
便利だなぁと感心していると中在家先輩と不破先輩がやってくる。
「冬月さん、この度はありがとうございました。」
「いいえ、主の命令を全うするのもサーヴァントの務めですから。」
なんか、まいどこの発言をされるとこっちが恥ずかしくなってくるな。
そう思っていると、学園長先生もやってきた。
「冬月よ、今回はよくぞバーサーカーを撃破してくれた。
今回の功績をたたえ、お主を忍術学園の教師にしたいと考えているのじゃが、どうかな?」
「私を…でございますか?」
冬月さんは困惑しているが俺たちは「賛成ーーーーっ!」と声を上げた。
冬月さんが教師になってくれるなら大歓迎だった。
学「皆もこう言っておることじゃし…」
「わかりました、この任務、まっとういたします。」
こうして冬月さんは忍術学園の教師になったのだった。
冬月side
ということで先生として過ごすことになったのだが、私は実技担当ということらい。
忍びとしての心得は無いが、戦闘であればある程度は教えられるだろうということだった。
適当だなと思いつつ、昼後の授業のため校庭で生徒を待つ。
「はじめまして、冬月先生。六年い組、立花仙蔵と申します。」
「同じく潮江文次郎です。」
「六年ろ組、七松小平太です!」
「中在家長次です。」
「六年は組、食満留三郎です。」
「善法寺伊作です。」
みんな元気だ。六年生というは最高学年か。
「よろしく。」
明るさの裏に三名ほど殺気が見える。隠しきれていないのは子供ゆえか。もう三人は信用しきっているのか殺気は見えなかった。
「ではまず、あなた方の実力を測らせてください。模擬戦を行います。」
模擬戦と言ったが彼らはこちらを仕留める気で来るだろう。
そうでなければこちらも面白みがない。
「制限時間は四半時。場所は裏山で行います。四半時の間に私を退去寸前まで追い込むことが出来ればそちらの勝ち。出来なければ負けです。」
空気がざわついた。まぁそうだろう。ここで仕留めるチャンスができたのだから。
「必ず殺す気で来るように。いいですね?」
「はいっ!!」
気合いも十分なようだ。さて、少し楽しむことにしよう。
彼らには先に裏山に向かってもらった。
そこに私が向かい四半時の試合をする。その四半時は何をしても良い。彼らは全力で向かってくるはずだし、この場ならなかなか楽しめそうだ。
裏山の入口に立ち叫ぶ。
「試合初め!!」
ホイッスルを鳴らし、裏山に入る。
すぐにピリッとした殺意が山の中に漂ってきた。
この状況はなかなか…
背中がざわつく感覚につい口元が緩む。
一歩一歩、頂上まで歩を進める
この時点ではまだ襲ってくる気は無さそうだ。
そうして歩いていたその時。
ガサッと茂みが揺れたかと思うとそこから善法寺伊作と中在家長次が飛び出してきた。
しかも嫌な香り付き。毒の香りだ。
「ここは離れるべきか。」
口元を塞ぎなるべく急いで風上に向かう。
数メートルも離れれば匂いはしなくなっていた。
ほっとした瞬間、強い一撃が飛んでくる。
七松小平太だった。
力任せかと思いきや、彼の体は素早く体制を整えられ次の攻撃の体制に移る。
(楽しい)
彼はきっと理性のあるヘラクレスのようになるだろう。
こちらも負けじと攻撃する。
彼も楽しいのか笑っていた。
その時だった。
ボン!
どこかで爆発音がした。
なにかの合図だろうか、しかし彼は一向に戻る気配がない。
この戦いを楽しみすぎたか。理性が飛んでいる。
そう思った瞬間、後ろから大きな岩がころがってきた。
なるほど、このためにあの合図を出したか、あるいはなにかの仕掛けの作動音だったか。
私は七松小平太の襟をつかみそのまま飛び退いた。
(あーっぶなぁ…)
まさに危機一髪といったところか
七「いやー!夢中になりすぎて気づかなかった!」
彼はナハハハと笑っていた。能天気すぎだろう。
「さて、続きを始めるか!」
「望むところ!」
「待て小平太!俺もやる!」
「留三郎!」
食満留三郎、彼は鉄双節棍を持っていた。
なるほど、彼の得意武器か。
「二対一でも構いませんよ、二人とも全力で来なさい。」
「行くぞ小平太!」
「おう!!」
あとからやってきたメンバーも私の周りを取り囲み、逃がさんとしていた。
この周辺の殺気が全て自分に向けられる。
しかし、我が主のためにも弱いところは見せられない。
「はっ!」
全力の剣技を見せてやるとしよう。
しかしその時だった。
カーン!!!
終わりの合図がなり響いた。
「とりあえず、お疲れ。まずはいい戦いぶりでした、特に七松小平太君」
「はい!」
彼はとても満足そうだった。
後ろで俺も戦いたかったみたいな顔をしている子とは後で相手をしてやるとしよう。
「あと、あの作戦ね。悪くはなかったわ。生身の人間ならプチっていきそうね。」
そういうと中在家君が頭を下げる。
「小平太と留三郎を助けてくれてありがとうございました。」
「気にしないで、マスターの命令だから。とりあえず、殺気はこれで消えたかな?」
殺気を持っていた三人は気づいていたかと言わんばかりの顔をした。
「そりゃー気づくよ。ということでこれからよろしくね?」
まだ敵意はむかれているが、これで大丈夫だろう。
その後戦いたそうにしていた子たちと手合わせをしてその日の授業は終わった。
きり丸side
その夜のことだった。
どこからか危険なものを感じるといわれ学園内を見回っていた。
「危険なものって何ですか?」
「それを確かめに行くんですよ。」
しばらく学園内を歩いているとグラウンドに人影を見つけた。
「六年い組の立花仙蔵先輩!」
「きり丸と…冬月先生か」
「この場で先生はよしてください。」
そういうと冬月さんは剣を立花先輩に向けた。
「え、な、なんで!?」
「そろそろ出てきたらどうです。近くにいるんでしょう?」
そう冬月さんが言うと立花先輩の隣で黒い渦が巻いた。
そしてその渦はだんだん人の形になっていった。
「くくく…さすが私。よく存在に気付いたな。」
その人は冬月さんにそっくりだった。
「冬月さんが…二人…!?」
剣を握る力が増しているのを感じる。
やはり相当危険なものなのか。
「そう怖がるな私よ。この霊基は私のもう一つの姿なんだ。そうだな、聖杯の知識で言うところの「オルタ」だな」
「私のもう一つの側面ってことね」
「そういうことだ。にしてもこっち側にいたとは驚いたよ。しかもバーサーカーを倒すとはやるじゃないか。」
冬月さんは「それはどうも」とそっけなく返し剣をしまった。
戦う必要はなくなったということか。
「ところでなぜ彼と一緒にいるの」
「決まっているだろ、召喚されたんだ。彼の願いを叶えるためにね。」
「立花先輩の願い…!?」
それは正直気になる。立花先輩がどんな願いを叶えたいのか。
「…天女に復讐することだ。神の使いなどと言ったあいつらを許すわけにはいかない。」
「…え。」
復讐。それは天女に向けられたものだった。
「私は復讐と恨みに引っ張られて召喚された。それはお前も同じだろう、私よ。」
「私はお前じゃない。私はマスターの日常を取り戻すために召喚されたんだ。」
そうだ。俺の願いは俺の日常を返してほしいこと。
だから俺はみんなを守ってくれとそう願った。
「さすが私だな。だが、こちらもわが主の願いを叶えるためだ。聖杯は私が戴く。」
「…そうね。これは聖杯戦争だもの。たとえ、力の落ちた私が相手だとしても勝って見せる。」
そういうと二人はまた険悪なムードになってしまった。
「しかしだ。我々は今同じ陣営だ。どうだ?ほかのサーヴァントを倒すまで共闘というのは。」
「…いいでしょう。ではそれまで一時休戦ってことで。」
そういうと冬月さんは俺を抱えて部屋へ戻った。
次の日、俺たち一年は組は兵庫水軍の海へ行くことになった。
目的はもちろん、授業のため…というのもあるが本命は兵庫水軍が召喚したというライダーに会いに行くためだ。
そして今回は立花先輩も一緒だ。
「いやなぜだ。」
「仕方ないでしょう。学園長先生にアヴェンジャーを召喚されたことバレたんですから」
そう、昨夜話した内容は学園長先生も聞かれていたのだ。
そのせいで立花先輩はここにいるのだ。
立花先輩が委員長を務める作法委員会に所属している兵太夫は大喜び。
「立花先輩ー!」
「どうした、兵太夫」
二人が笑いあっているところを見る限り心配する必要はなさそうだ。
目線を前に移すと一面に青い海が見えてきた。
「おー!お前たちよく来たなー!」
「兵庫第三協栄丸さん!」
俺たちは彼にかけより一緒に海岸へ向かっていった。
そしてその海岸には見慣れない服を着た男女がいた。…しかも一人は浮いていた。
「やぁ。君たちが忍術学園の一年生だね。」
「はじめまして…」
「はじめまして。僕は坂本龍馬。ライダーのサーヴァントだよ。」
いやちょっと待て。なんでこの人真名明かしてんの?!
警戒モードへ移る。冬月さんはもっと警戒していたが。
でもそれは真名を明かされることじゃなくてもっと別のことのようだ。
「あぁ、こいつは俺たちのサーヴァントでな。一緒にこの海を守ってもらっているんだ。」
「え、ってことは聖杯戦争に参加していないんですか?」
「うん。僕にマスターはいないからね。」
マスターがいないなんてどういうことだろう。
「そろそろ答え合わせをしましょうか。抑止の守護者さん?」
俺はもう何が何だかわからなかった。
その後冬月さんは抑止の守護者について教えてくれた。自分が抑止の守護者であるということも。
龍馬さんがマスターなしでいられるのも抑止力から全面的にバックアップを受けているためだという。
「僕は君と同時期に召喚されたんだと思う。君が完全に召喚できていないからね。」
「それは彼女のオルタと何か関係が?」
「うん、きっと彼女とそのオルタは同一存在で召喚されるはずだったんだ。
でも何らかの原因で別れてしまったんだろう。」
なんだかよくわからないけれど、とりあえずこの人は信用していいのかもしれない。
ということは…
「あとはアーチャー、ランサー、キャスターを倒せばいいってことですか?」
「あれ、アサシンとバーサーカーは?」
「バーサーカーは倒したし、アサシンはわけあって協力関係。」
「わぁ、あのバーサーカーを倒すなんてやるじゃないか。」
龍馬さんは素直に感心しているようだ。確かにあのバーサーカーは冬月さん一人でなんて倒せないよなぁと思いながら苦笑いを浮かべる。
龍馬さんの周りをふよふよ浮いている女性は俺や立花先輩の周りもうろうろし始めた。
「しかしまぁ、こんな幼子がマスターとは。セイバー、よく召喚に応じたな?」
「事情があるのです。」
冬月さんはそう簡単に答えた。どうやら冬月さんは龍馬さんたちのことをあまりよく思っていないらしい。
「それでアーチャー、ランサー、キャスターなんだけどこのまま放っておくわけにはいかなくてね。」
「というと?」
「アーチャートランサーは先日、ドクタケ城で交戦。勝負はつかないまま休戦中。だけど、ウスタケ城もドクタケ城もあちこちに戦争を吹っかけている。スッポンタケは…」
「スッポンタケは?」
「まったくもって動きがない。」
「だーっ!!!」
じゃあなんで放っておくわけにはいかないなんて言ったんだこの人は!?
「あぁ、ちゃんと理由はあるよ。」
「へ?」
話によると、どうやら危険なのは召喚したサーヴァントの方らしい。
「スッポンタケ領地で多くの子供や女の亡骸が見つかってね。放っとけないだろう?」
「それは確かに…」
「それがキャスターの仕業だというのですか。」
「あくまで可能性…だけどね」
可能性だとしてもサーヴァントが人に危害を加えている状況は見逃せない。俺と冬月さんは同じ考えだということは冬月さんの顔を見れば一目でわかった。
「俺、そんな状況なら放っておけません!」
「しかし相手はサーヴァント…いくらマスターとはいえきり丸が行くには危険すぎる。」
「そこは大丈夫だろう、ね、セイバー」
まだ警戒心が強い冬月さんはため息をつくと「当たり前」とそっけなく返した。そんなこんなで俺たちは夜のスッポンタケ城下街へ向かった。
スッポンタケ城下街に着くと、かなり静かだった、人も忍者でさえも出歩いていない。城を守る兵士たちが多く出ているくらいだ。
「いいかきり丸。この先は敵の陣地だ。危ない行動はしないように。」
「わかりました、立花先輩」
アヴェンジャーも今回は立花先輩の後ろについている。
「そういえばどうしてサーヴァントが人間を襲うんですか?」
ずっと疑問だったことを口にしてみる。
「サーヴァントが人間を襲う理由としてあげられるのは魔力供給です。特にキャスターは魔力を多く必要とするのでそれで人間を襲っていると考えられます。」
「それで龍馬さんが危険視していたんですね。」
「そういうこと。」
そうして俺たちは二手に別れてマスターとサーヴァントを捜索することになった。アサシンと雑渡昆奈門さんにも来てもらい、アサシンたちと立花先輩たちは東側、俺たちは西側を捜索することになった。
捜索を開始して半刻。ようやくキャスターの姿をとらえた。近くにマスターの姿はない。やはりキャスターの独断で動いているようだ。キャスターは何枚にも重ねたローブと貴金属に身を包んでいて、目は広く剥く蛙顔をした不気味な人だった。まるで今日の獲物を探すように街を歩いている。冬月さんはキャスターの周りに氷を張り巡らせた。
「ほう、これはこれは…お初にお目にかかります…」
そう言うとキャスターは目玉をぐりんと動かしてこちらを見た。
「おい!お前がここの住人を殺したんだろ!目的はなんだ!?」
冬月さんに隠れながらキャスターに問う。
「目的…目的ですか…簡単な事です。生前共に戦い、そして非業の死を遂げた聖女の復活を!」
何を言っているのだ、この人は。死んだ人がよみがえるわけがないのに。
「セイバーのマスターよ、あなたもいるのではないですかな?復活させたい御仁が…」
いないとは言い切れなかった。俺だって父ちゃんと母ちゃんを返してほしいと何度願ったことか。しかし言う事はやめた。言ったら悪魔に寝返ったことになる気がして。
ゆっくり近づいてくる彼を冬月さんが剣を突きつけ制止させる。
「マスターに近づくな。」
「おぉ、怖い怖い…さて…サーヴァント同士の戦いを楽しみましょうや!」
そう言うとキャスターは多数のうねうねした奴らを召喚してきた。
「な、なんすかこいつら!」
「マスターは下がって!」
冬月さんと龍馬さんは俺を壁際まで下がらせると召喚された奴らを斬り始めた。
「こいつら海魔だ!気を付けて!」
「わかっている!」
海魔と呼ばれた奴らを斬っているがそれでもどんどん出てくる。二人も海魔ばかり斬ることを強制されなかなかキャスターに攻撃できない。
「一体どれだけの人間を喰ったのかしら!?」
今回もキャスターの真名がわかればきっと奴を倒せるはずだ。でも今回は状況が違う。図書室もないし中在家先輩もいない。何もできない自分に心底腹が立ってくる。
「セイバーさん、ライダーさん…」
今は立花先輩たちがキャスターを倒してくれるのを待つしかない。
斬り続けて数分、キャスターがようやく海魔をだす手を止めた。
「このままではらちがあきませんね…宝具を解放することにいたしましょう!」
その言葉に二人が身構える。その時だった。
「そこまでだ、キャスター、ジル・ド・レェ」
「立花先輩!アヴェンジャー!」
立花先輩たちが塀の上に立っている。
「お前のマスターを城の中で見つけたのだ。」
「え、マスターいたんすか!?」
「見るも無残な姿になっていたがな…」
一体どんな姿になっていたのだろうか…
「さて私よ、一時共闘と行こうか」
「…わかった」
そう言うと二人は剣を構えキャスターに突撃する
「剣舞雪月花!!」
白い剣と黒い剣の光が交差する。二人の合体技でキャスターは倒れた。
「す、すげぇ!キャスターを倒した!」
二人はキャスターの消滅を確認すると剣を収めた。
「マスター、お怪我は?」
「だ、大丈夫です!」
そして冬月さんは俺を抱えオルタの方を向く。
「まったく、私はこんなにも過保護だったか?」
冬月さんは答えることはなかった。
「これであとはランサーとアーチャーか。」
「だな。戻るぞ、わがマスターよ。」
オルタはさっさと歩いて行ってしまった。
「僕らも戻ろうか、セイバー、お龍さん」
「あぁ。」
龍馬さんもオルタ達に続く。
「マスター、夜も遅いですからこのまま眠ってください。」
「あ…でも…」
「…どうしました?」
「俺、この状態で寝られるかな…」
正直誰かの腕の中で眠ることがあまりなかったから慣れていない。そんなことを考えていると冬月さんは俺を抱えなおし背中を優しくたたき始めた。
「♪降り積もる雪 白く光る百合
貴方を包む 白銀の世界
貴方のそばに ずっといるよ
この氷が解けるまで
黒色 咲き誇る
復讐の 黒い百合
「白い騎士」が 守るから
静かに 眠りなさい
誓いましょう
いつの日か
この百合が
かれはてて
しまっても
「きみ」のため
すぐそばに
いつまでも
解けない氷 壊れない盾
あなたが生きる世界を守ると
永遠に続く夢 凍てついた願い
復讐を忘れ 眠りなさい
神様なんて いないけれど
貴方が生きる輝く世界を
黒く輝く あの光から
「白い騎士」が守っている」
冬月さんの子守歌を聞きながら俺は眠りに落ちていった。
俺の「白い騎士」が冬月さんなら
冬月さんの「白い騎士」は誰なのだろう。
薄れゆく意識の中、その考えだけがはっきりしていた。
夢の中で誰かが叫んでいた。
その声はずっと冬月さんを呼んでいる。
男の声だった。霧の向こうで誰かが手を振っている。
「そこにいるのは誰?」
俺は霧の中を走りその誰かのもとへ向かおうとした。
その横を女の子が通り過ぎる。
「冬華お兄ちゃん!」
その女の子は冬華と呼んだその人に抱き着いた。
まるで家族のように二人が笑いあっているのが霧の中でもはっきりと見えた…
次の日、俺たちは兵庫水軍を後にしようと荷物を整えていた。
今日はお昼まで水練の授業、その後学園に帰る流れになっている。
俺は水練用の服に着替えながら昨日冬月さんが歌ってくれた子守歌を思い出していた。
あれはきっと冬月さんが俺を守るという歌なのだろう。でも冬月さんがこの歌を考えたのではなく誰かから歌ってもらっていたとしたら?
その場合の「白い騎士」は誰になるのだろうか?
候補として挙がるのは夢の中で女の子と笑いあっていた冬華という男の人。
立花先輩に似た黒く長い髪の男の人だった。
「マスター、授業に遅れますよ。」
そう言って布団を運びながら話しかけてくる冬月さん。
俺は冬月さんに今一番の疑問をぶつけてみた。
「冬月さん、冬華さんって覚えていますか。」
冬月さんはぴたりと止まってそのまま黙ってしまった。
してはいけない質問だっただろうか。サーヴァントにだって隠し事くらいあるしなと考えていると冬月さんが懐かしそうに窓の外を眺めて
「えぇ、忘れるわけがありません。あの人はたった一人の私の兄だったのですから。」
言われてみればあの顔、冬月さんにとてもそっくりだった。兄弟と言われれば信じてしまうくらいに。
「どうして、マスターが冬華兄さんのことを?」
「あ、いや、別に…!」
夢で見たなんて話せるわけがない。俺はすぐ支度を整えみんなで寝ていた建物を飛び出した。その時だった。
ばしゃーんと大きな水しぶきがたった。
崖から人でも飛び降りたのだろうか、いや、水しぶきが経った場所は崖から数十メートル離れている。まるで宙からたたきつけられたようだ。
「おい!落ちてきたのはアサシンのようだぞ!?」
お龍さんが冬月さんのところへ向かってきた。
「アサシンが?アサシンのマスターはどうしたの?」
「私が探してくる。オルタ、行くぞ」
「あぁ。」
そう言って立花先輩とオルタさんは山の方向へ走っていった。
「アサシン!返事をしてアサシン!」
水しぶきが上がった方向に向かうと、そこには仮面が一つ浮かんでいるだけでアサシンの姿はどこにもなかった。
「…アサシンは脱落ですね。」
よく見ると血も海に溶け込みかかっている。誰かにやられたのだろう。
上空を見ると赤褐色の肌に赤髪の青年が浮かんでいた。巨大な戦輪を担いでいる。
「弱ぇ…弱ぇなぁ…どいつもこいつも!やっぱりまともに死合えるのはカルナしかいねぇな!!」
そう言って奴は笑っている。彼にはどす黒いオーラが身にまとっていた。
「みんな!山奥へ走って!急いで!」
冬月さんがそう叫ぶと鬼蜘蛛丸さんを先頭に山奥へ走っていった。
「そう逃げ惑うなよ…俺が狙うはサーヴァントだけだからよぉ…!」
そう言って彼は地に降り立った。
「きり丸も下がって!」
「は、はい!」
敵の威圧感に圧倒される。しかし冬月さんはそれをものともしていなかった。
「止まりなさい。」
剣を敵に突きつけ制止させる。
「てめぇ…セイバーのサーヴァントか。」
「…いかにも。」
「いい…いいな…!お前の心に沸いている怒り!さぁ…全力で死合おうぜ!なぁ!!」
その大声で空気がびりびりと震える。間違いない、こいつは強い。
敵は戦輪をつかむと炎を纏わせ冬月さんに振り下ろしてくる。
咄嗟の氷の盾で防ぐが、炎と氷じゃ相性が悪い。長い時間受け止め続けるのは冬月さんにとって最も辛いことだった。
「―――っ!!」
冬月さんは大きな戦輪を避け続ける。しかし、戦輪が大きすぎてかわす動きも大きくなってしまうためなかなか攻撃が入れられない。
「セイバーさん…!」
「僕も加勢しないと…!」
「だめよ来ないで!」
龍馬さんが参戦しようとするが冬月さんに止められる。
冬月さんはいったん飛びのいて全身に力を籠め始める。
「あなたは強い…間違いなく。でも、絶対に負けられない!」
鎧と剣に百合の花が咲く。その花は輝きを放ちはじめる。
「はっ!」
冬月さんが宙に舞い上がり斬撃を飛ばしての攻撃を始めた。そして着地地点で敵の後ろに回り攻撃を仕掛ける。
「おらおらおらぁっ!」
が、着地のタイミングと同時に相手は戦輪を振り回し始めた。斬撃も数発はその戦輪にはじかれる。
「すごいな…氷と炎じゃ相性最悪なのに…」
氷だけじゃない、百合の花が咲いた瞬間、力が持っていかれるのを感じた。この感じはバーサーカー戦の時以来だ。きっと冬月さんの力はキャスターと戦った時より数倍になっているであろう。
なにをそうさせているのかがさっぱりわからないが今は冬月さんに頼るほかない。
「がんばれ…っ!」
「がんばれーーーーっ!!」
崖から一年は組の全員の声が聞こえる。なんであんなところにいるかは後で聞こう。
敵が舞い上がらせる炎がだんだん強くなってくる。そう思っていると戦輪は炎を纏わせながら回転をはじめた。
「さぁ!これは受け止めきれるか!?我は死をもたらす戦士なれば…不滅の刃を持って汝を引き裂こう!!転輪よ、憤炎を巻き起こせっ!!」
「まずい、宝具だ!セイバー!!」
龍馬さんがそう叫ぶと同時に敵は戦輪を蹴り上げた。しかし冬月さんは避けることはなかった。
「大丈夫、絶対守るから。」
そう冬月さんの声が頭の中で聞こえてくる。
「わが村のそびえたつ氷よ、我を守り給え。我は村を守りし白き騎士なり!!」
冬月さんがそう叫ぶと冬月さんの前に大きな氷がそびえたった。その氷は炎を纏った戦輪をいとも簡単に受け止める。
戦輪はしばらく回転をつづけた後、氷が壊れないと悟ったのか主のもとへ戻っていった。
「強えぇ…強えぇなぁ…!だが負けらんねぇなぁ…!!光赫よ…!」
「セイバーさん!!」
俺でもわかる。この氷でも防げない一撃が来る。今度こそ逃げなければ。そう思い俺はセイバーさんのもとへ走り出す。しかし、上空から光線が飛んできた。
そしてその光線は敵を貫いていた。
「…!」
「それはダメだ。アシュヴァッターマン。その宝具はこの戦いでは使わぬとそう誓ったはずだろう。」
「ランサーのサーヴァントか…!」
龍馬さんが剣を構える。アシュヴァッターマンと呼ばれた彼よりも重い威圧感を感じる。
「カルナぁ…ありがとよ…ちと前が見えてなかったわ…」
「いったい何がお前をそうさせた。」
「わかんねぇ…でも…とんでもないのが…マスターを…襲って…」
冬月さんはその言葉に反応した。
「教えて!とんでもないものっていったいなに!?」
「…それを探るのは…てめぇの仕事だ…セイバー…」
そう言うとアシュヴァッターマンは消えていった。
「…さて。あとはお前たちと俺だけか。」
「…っ」
カルナという男は槍の先をこちらへ向ける。冬月さんも剣を構え俺に近づけさせんとしている。
「明日、また会おう。そこで決着といこうではないか。」
そう言うとカルナは飛び立っていった。
「はぁ…っ」
飛び立つのを確認すると冬月さんはその場に座りこんでしまった。
「冬月さん!」
「すみませんマスター…。」
「謝ることないです!早く休みましょう!」
その日の授業は中断し、一年は組は先に学園に返させて俺たちは作戦会議を始めることになった。そこには中在家先輩もいた。
「アシュヴァッターマンにカルナ…どちらもインドの叙事詩「マハーバーラタ」の英雄だ。」
「叙事詩ですか?」
「叙事詩というのは物事や出来事を記述する形の韻文のことだ。一般的には民族の英雄や神話、民族の歴史として語り伝える価値のある事件を出来事の物語として伝える物を指している。」
なんだか難しそうな話だ。
「奴は強い。冬月先生、あなたでは勝つことは…」
「…」
冬月さんはずっと黙って剣を磨いていた。まるで戦の支度をするかのように。
「勝ちます。絶対に。相手が神であるのなら。」
冬月さんはそう言って剣を鞘に収めた。
「いや、話を聞いていたか?あれほど力を持った神霊だぞ?お前に勝てるわけが…」
お龍さんも勝てないと首を横に振る。
「いや、勝てる。相手が神霊とくればなおさらだ。」
オルタさんは妙に自信満々だ。なにが彼女たちをそうさせているのか。そもそも「神霊なら勝てる」ってどういうことなのだろうか。
「そのためにもまずは今日失った魔力と明日必要な魔力を今のうちにチャージしておけ。明日来るんだろ?」
「えぇ。龍馬、みんなを学園まで避難させて。街の人たちも海岸には近づけさせないように。」
「あぁ、わかったよ。」
「マスターは一緒にいてください。」
「あ…はい…」
そうして立花先輩たちは龍馬さんに連れられ海岸を後にし、ここには俺と冬月さんだけになった。冬月さんは建物の入り口近くに座り星を見上げている。
「冬月さん…?」
「…マスター、こちらへ。」
冬月さんの近くへ行くと彼女は俺を抱き寄せ、膝の上に座らせた。
「…マスターは温かいですね。」
「や、やめろよぉ!人を湯たんぽみたいに!」
「フフ。」
この状況がすごく恥ずかしい気もするが不思議と嫌じゃなかった。
「昔はこうやって誰かを膝にのせてたんすか?」
「…いいえ、私はのせられる側でした。家族の中では長女だったのですけどね。」
「それは…冬華さんに…?」
「…えぇ。」
冬月さんは懐かしそうにうなずいた。
「マスター、眠ってください。ここは私が。」
「…はい。」
俺は冬月さんの膝の上で眠りについた。
その日も夢を見た。
村が雪に埋もれている。家があった場所には氷の柱が立っている。
花畑には真っ黒の百合が咲いている。
その中を一人の男が走っていた。
「――――!―――――!」
必死に叫んでいる。誰かを呼ぶように。
「冬月―!冬月―――っ!!」
男は大きくて枯れた木の洞の中に入っていく。
その中はもぬけの殻だった。あるのは神聖な儀式などに使う器具があるだけ。
男が見上げると何かが祭られていた祭壇に剣が刺さっている。
「冬月…お前…■■■様を…殺したのか…?」
男はそうつぶやくと発狂したように笑い始めた。
「あ…あは…アハハハハハハハハハハ!!」
その笑い声で目が覚める。もうとっくに朝になっていた。
後ろを振り返ると冬月さんが眠っていた。
サーヴァントも眠るのだな…そう思った俺は冬月さんの頬をなでた
「冬月さん…いったい何を殺したのですか…?」
数刻後、昨日アシュヴァッターマンが現れた時間と同じくらいの時間に奴は現れた。
冬月さんは安心してほしいと言っていたけれど正直昨日の話を聞くに勝てそうな相手ではない。
「さぁ、始めるとしよう。セイバー。」
「…えぇ。」
二人は互いににらみ合い、同時に一歩踏み込むと一気に相手の間合いに入る。
白い光と赤い炎の光が交差する。たがいに一歩も譲らぬ戦い。俺はそれを氷の結界の中で見ているしかなかった。
「冬月さん…っ!」
前回のアシュヴァッターマンとの戦いもそうだったがやはり炎と氷は相性が悪い。しかもそれが太陽の炎とくれば冬月さんの氷などすべて溶かしてしまうだろう。現に今も二人の戦いから離れ氷の結界のなかにいるのにすごく暑い。
カルナの攻撃で地面がえぐれる。冬月さんはそんな大技もかわしながら戦っている。カルナが大技を放つたびに爆発が起きるがこの結界は破れない。めちゃくちゃ暑いが。それはきっとその爆発を冬月さんの斬撃が切り裂いているからだろう。
「梵天よ、地を覆え!!」
そうカルナが叫ぶと、カルナの目から光線が放たれる。冬月さんはこれをぎりぎりで避けるが避けた先で地面が大きくえぐれた。
「馬鹿げている…!あんな出力の光線が目から出せるなんて…!」
その爆発の中から冬月さんがカルナめがけて突進し一気に剣を振り下ろす。が、これはかわされた。
「ち…っ!」
「炎と氷、どちらが勝つかはもう明白だ。」
「さて…それはどうかしら!!」
冬月さんは剣先を地面につけ振り上げると同時に無数の氷の棘を繰り出した。
「なるほど…己がマスターを守るため、ここまで全力を出してくるか。見事だ。」
そう言うとカルナは立ち上がり胸の宝石を赤く光らせ全身に力を籠め始めた。そして身にまとっていた鎧がすべて赤い炎へと変わる。
そして槍は黒く大きな槍へと変化した。
「さぁ、どうでる!?」
カルナはどうやら一撃必殺の技を繰り出してくるらしい。
あたり一帯が炎に包まれる。しかし、冬月さんはにこりと笑った。
「マスター、令呪を使い、私に宝具の使用を命じてください。」
令呪、三回まで使える絶対命令。冬月さんの宝具を解放すればもしかしたら…!
「令呪を持って命ずる!宝具を使え、セイバー!!」
令呪のある部分が熱くなる。その瞬間、冬月さんの剣は白く神々しい光を放ち始めた。
「神々の王の慈悲を知れ!」
「わが村に吹き荒れる吹雪、襲い来る雪崩よ…!」
「絶滅とはこれ、この一刺し!」
「我の守るべきものをその大いなる雪で包み込み給え…!」
「焼き付くせ…日輪よ、死に随え!!」
「顕現せよ、雪に埋もれしわが村よ!!」
二人の宝具が同時に放たれたその瞬間、あまりにもまぶしいその光景に思わず目をつむってしまう。そして、次に目を開けた時、そこは吹雪が吹き荒れる雪原だった。
「こ、ここは…っ!?」
炎もえぐれた大地もあれだけ近くにあった太陽もそこにはない。
「…なるほど、固有結界で俺の宝具のすべてを包み込んだか…!」
カルナめがけて雪崩が襲い掛かってくる。その中には冬月さんもいた。
「はあああああっ!!」
冬月さんは剣を振り下ろしカルナを正面から切り伏せた。
「や…やったああっ!!」
あのカルナを倒した。誰も、勝てないと思っていたのに。すごく喜ばしいことだ。
「なるほど…敵を包み込み、自分の守りたいものを守る宝具…見事だ…どちらにせよ、俺はもう負けていたのだ…。」
「どういうこと?」
徐々に景色が戻っていく。カルナは上空を見つめていた。
「マスターは殺された。昨晩のことだった。」
「え!?マスターが殺された!?」
キャスターのサーヴァントも死んでいたようだし、一体どうなっているのだ。
「俺だけじゃない。アシュヴァッターマンのマスターも、キャスターのマスターも殺された。」
「一体だれが…!?」
「昨日彼が言っていたとんでもないもの…それが各マスターを襲った…?」
いろんな疑問が浮かび上がる。俺には何が何だかさっぱりだった。
「この真相を暴け、セイバー…もうお前しかいない…」
そう言うとカルナは消滅していった。カルナを見送ると俺たちは学園に向かって歩き出した。
「ちょっと待って…雑渡昆奈門さんは!?」
雑渡昆奈門もアサシンのマスターだ。アシュヴァッターマンとカルナにてんやわんやになっていて忘れていたが彼もマスターだ。もしかしてと思った俺たちは急いで学園に走る。
それにアヴェンジャーのマスターである立花先輩も心配だ。どうか、どうか無事でいてほしい。そう願いながら学園への道を走り続けた。
学園に到着し、門を開ける。
「立花先輩!ちょっとこなもんさん!」
二人を探し、あらゆる部屋を開けていく。医務室の扉を開けると
「おかえり、二人とも。」
二人は伊作先輩とのんきにお茶を飲んでいた。あまりにものんきだったものだからずっこけてしまう。
「アサシン消えたのによくものんきにお茶飲んでいられますね!?」
「だってアサシンが消えた今聖杯戦争にかかわる義理はなくなったし。」
そう言うと彼は懐から雑炊の入った水筒を取り出し飲み始めた。
「で、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「…アーチャー、ランサー、キャスターのマスターが何者かに殺されていたことが分かったの。」
「…どういうことだい?」
俺たちはカルナから聞いた話をそのまま部屋に集まっていた龍馬さん、立花先輩たち、雑渡昆奈門さんに話をした。
「…なるほど、そんなことがあったんだね。」
「僕は先にアサシンがやられたからこうして無事でいられるけれど、きり丸君と立花君がまだ危ないね。」
「…えぇ」
俺たちはしばらく考え込む。そんな時オルタが切り出した。
「やはり、早くこの聖杯戦争を終わらせるしか方法はないだろう。」
「聖杯戦争を終わらせる…?」
「つまり、私かオルタの私、どちらかが消えなければならないということだ。」
聖杯戦争の勝者は一人。それがたとえ同一存在だとしてもどちらかが消えなければ終わることはない。
「…そうね。そうしなければこの戦争は終わらない。龍馬、聖杯のありかはわかっている?」
「…あぁ。裏山の山奥…かつて天女が空から降ってきていた場所だ。」
「…そう。」
冬月さんとオルタさんが立ち上がる。
「夜、裏山で待つわ。」
「あぁ、そこでケリをつけよう、私よ。」
そう言うとオルタさんは立花先輩と共に消えていった。
「…ふぅ。」
「大丈夫ですか…カルナ倒した後なのに。」
「…マスター、この戦争は長引かせてはならない。早く終わらせなければ。」
「…っ」
聖杯戦争が終わる。それはつまり冬月さんとお別れ。
正直不安だった。冬月さんが戦ってくれたおかげで再び絆を取り戻した俺たちだが、冬月さんがいなくなった時、どうなるのだろう。天女はもうやってこないのだろうか。
「マスター。これを。」
「これは?」
手渡されたのは氷でできた百合の花だった。しかし不思議と冷たくない。
「これを大切に持っていてください。ずっと、ですよ。この花がある限り、あなたの助けに応じることができますから。」
「聖遺物か。よかったな、小僧。」
俺は百合を受け取ると涙を流しながらうなずいた。
その夜、俺は冬月さんと共に裏山へたどり着く。そこにはすでに立花先輩とオルタさんが待っていた。
「…待たせたわね。」
「構わんさ。さぁ、始めよう。お互い全力で…な?」
「望むところ…!」
冬月さんは白い光を、オルタさんは黒い光を剣から放出する。その瞬間地面に白い百合と黒い百合が咲き誇った。
「わぁ…!」
「…!」
その時立花先輩の持っているものが見えた。立花先輩は氷でできた黒い百合を持っている。
「先輩…それ…!」
「…あぁ、オルタからもらったのだ。悪いが…この戦いに負けるわけにはいかない!令呪を持って命ずる!冬月を倒し、私の復讐を果たせ!!」
立花先輩の令呪が光る。
途端に白かったユリが黒く染まり始める。
「…!」
立花先輩はすべてを憎み、復讐するためオルタさんを召喚した。でも俺は復讐にとらわれた先輩の心を救いたい。
「令呪を持って命ずる!立花先輩を助けて!!」
「…えぇ、了解ですマスター!!」
黒く染まり始めた百合が白に染まっていく。
「きり丸…」
「目を覚ましてください先輩!俺は…先輩とまた…笑いあいたい!!」
オルタの動きが一瞬鈍る。冬月さんはこれを見逃さなかった。
「白き百合よ、心を溶かせ!!」
冬月さんはオルタに斬撃を振り下ろす。オルタはその一撃で崩れ落ちた。
「オルタ…!」
その時だった。地面が揺れ始める。奥の方で怪しい光が放たれ始めた。
「あれが…聖杯」
「いきましょう!」
俺たちは聖杯のもとへ向かった。
たどりつくとそこにはいくつもの人骨が転がっている。
「…なるほど、そういうことだったんですね。」
「え…?」
「マスターはここを離れてください。」
「でも…!」
冬月さんは剣をかかげる。
「あれを壊せばこの聖杯戦争は終わります。」
「…もう、会えないの?」
「…言ったはずですよ。あなたが助けを呼んだ時、私はまた現れると。」
「絶対…?」
「えぇ、絶対。」
俺はうなずくと学園の方向へ走った。
冬月side
「…さて、これと相対するのは何年ぶりかな。」
剣をかかげた先におぞましいものが見える。
「…また会えなくなっちゃうね、お兄ちゃん…」
私は剣を構え、おぞましいものに向かって剣を突き刺す。
「…大丈夫だよ…私が守るから」
きり丸side
冬月さんがいなくなって数日が経った。天女が現れる気配はない。
学園内も前の平和な日常を取り戻していた。明日は予算会議が通常通り開かれる予定にもなっている。
「…よし!今日も頑張りますかぁ!」
…部屋の中には氷でできた百合が俺を見守っていた。
きり丸ルートEND
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