彼女が◯◯に夢中で嫉妬しちゃう五条悟
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いつからだっただろう。
大切な彼女が『アイツ』を特別な目線で見つめるようになったのは。僕の小さな疑念が、確信に変わったのはーー。
「ナマエ、アイス食べない?」
「うん、食べるー」そう言う彼女の目は、一切僕を見ない。今日は金曜日。こうなるだろうなって、ちょっと想定はしてた。でもお互い出張でなかなか会えず、やっと会えたのが今日なのだ。なんで。なんだよ。ちょっとくらいこっち見たっていいじゃん。
そう思いナマエの背後から必死に視線で訴えかけてみたけれど、『アイツ』に夢中な彼女はもちろんそんなこと気付くはずもなく。…でも、僕だって作戦がない訳じゃない。
今日は1週間の内で最も忌々しい曜日だと分かってたから、スーパーでナマエの大好きなハーゲン○ッツを買い込んだ。なんならナマエの全意識を『アイツ』から僕に向けてやろうと意気込んで、スーパーにあったやつ全種類買ったし。
そう、準備は万端なのだ。あとはナマエの意識を『アイツ』から奪うことができたら僕の勝ち。
実を言うと彼女はアイスに目がない。だからきっとこの勝負、僕の勝ちだもんね。
勝ちの確信を得ている僕は、意気揚々と勝負に出た。「ねーえ、どれ食べる?冷凍庫にたくさんあるからこっち来て選んでよ。しかもナマエの好きなハーゲン○ッツ、なんと全種類あるよ!」
「そうなの?!」
バッと、彼女がこちらに振り向いた。まるで宝物を見つけた子供みたいな、キラキラした目で僕のことを見つめてくる。
そうそう、それだよそれ。ナマエは『アイツ』なんて見ずにそうやって僕の事見てればいいの。…勝った。そう思うと自然と口角が上がってくるもので。しかもキラキラした顔のナマエが可愛すぎる。こんなにも可愛い彼女を『アイツ』から奪えた喜びと、ナマエ自身の可愛さにやられて、僕の心は満たされていた。それで、だ。この後どうしよう。
まずはアイス食べて、その後は久しぶりに2人でお風呂入るでしょ。そしたらそこでいちゃいちゃしてー、お風呂上がったら髪を乾かし合いっこでもしようかな。んで、落ち着いたら彼女をベッドルームに連れて行って思う存分抱く。久しぶりだから1回戦目から色々我慢出来ないかも。…で、それをナマエに怒られつつも何やかんやしながら2回戦目に誘導して。そしたらピーーするでしょ。3回戦目はピーーしてピーーってなって、これでもかっていうくらいナマエのことたくさん可愛がって、それから、それから…。久しぶりに可愛い彼女に会えたこと、『アイツ』に勝ったことなどなど、嬉しくて上機嫌になった僕は頭の中でこの後のいろんな計画を立てていた。…はずだったのに。「んー、嬉しいんだけどやっぱ次のCMまで待って!」
「は!?!?」次のCM!?さっきCM終わったばっかりだから次のCMまでそこそこあるじゃん!?てか今日『アイツ』の時間、2時間程あるって言ってなかったっけ!?そんなの、それが終わった頃には寝ちゃうんじゃん!?(僕は大丈夫だけどナマエは絶対寝る)そう、そうなのだ。最強である僕にとっての最大の敵は画面の中にいる。『アイツ』の正体。それは…。「はぁ〜、ほんっと演技上手いなぁ、太郎くんッ!」そう、『太郎くん』
コイツは今クールのドラマの主人公。人懐っこい感じが魅力で、世間で言うところの正統派イケメン。…まぁ僕の方が何倍もイケメンだと思うけど。まぁそんなこんなで、ナマエは今、この太郎くんに首ったけらしい。この連ドラが始まってから、ドラマの時間はそれに集中してしまって全然僕に構ってくれない。録画してるからそれを観ればいいのに、って言ったこともあるけど、ナマエが言うにはリアタイもしなきゃ落ち着かないんだって。そうして太郎くんに敗北した僕は、しょんぼりとして冷蔵庫の前から彼女の隣に移動した。TVの前まで来ると自然とTVに映る太郎くんも鮮明に見えてくるもので。イラッとした僕はつい太郎くん批判をしてしまった。「そんな言うほど演技上手いかねぇ…」
「え!?この繊細な場面を表情とか声でよく再現してると思わない!?」
「………そう?」
「そう!例えばこの目!めちゃくちゃ訴えかけてくるじゃん。相手の女の子のことを好きな気持ちが全て伝わってくると言うか…‼︎」そう熱弁する彼女に対して反応をしないでいると、「悟くん、全然分かってなーい」なんて言って再び画面に意識を向けてしまった。でも僕がイラッとする原因はなにもナマエが太郎くんを褒めるからだけではない。
ナマエは僕の前では言わないけれど、多分、きっと、太郎くんの顔が割と好きなんだと思う。結構熱っぽい視線で太郎くんのこと見てるし。
まぁでも僕の予想では元々好みの顔というよりは、ドラマを見ていくうちに段々とハマっていった感じ…だと思う(てゆうかそうであってほしい。だって僕と正反対のタイプの顔立ちだから…)。それにしても太郎くん、僕とナマエの時間を邪魔するなよ。僕、今日は久しぶりにナマエといちゃいちゃする予定だったんだけど。
今までは所詮TVの中の人だと思って大目に見てきてたけど、ここまで邪魔されるようなら黙っていられない。
これからナマエといちゃいちゃしたり抱くつもりでいたのに、それを邪魔されたのもあってか本当〜に我慢の限界だった。太郎くんへのイライラが止まらない。それに、ナマエもナマエだ。
お前は誰の彼女で誰のことをよく見るべきなのか、しっかり解らせないと、…ね?となるとまずは、彼女をソノ気にさせるためにどうしようか。
……そうだ。良いこと思いついちゃった。「ナマエ」
「もー、何?今ドラマに集中して…」「好きだよナマエ。愛してる」僕はドラマの主人公、太郎くんがヒロインに向けて言った言葉を再現した。もちろんこれは僕の本心でもあるし、たっぷりの気持ちも込めて。
すると、ナマエの顔はみるみる赤くなっていった。
TVの中のヒロインは台詞に則って「私も太郎くんが好き…!」なんて言っているけれど、僕の目の前にいる愛しい彼女は顔を真っ赤にして「な、な、な…!きゅ、に」なんてよく分かんない言葉を言っている。ウケる。可愛いけど。そして想いが通じ合った太郎くんとヒロインの熱いキス。
同じように、僕もそのタイミングでナマエにキスをした。ちゅっ、と唇が触れただけなのに気持ち良すぎてつい舌も入れちゃったから、ドラマよりはちょっと熱が入っちゃってたけど。
夢中でキスをしていたけれど、ナマエの呼吸が苦しそうになっていたのに気付きキスを止めた。そうするとナマエはトロンとした目で僕を見つめつつも「いきなり何するの」と言った非難めいた視線を投げかけてきた。「…いーじゃん。ドラマ観るだけよりも、体験した方が面白さも増すでしょ」
「そ、れは、そうかもだけど、さっ」
「もしかして、僕じゃ役不足?」
「ちが、そうじゃないけど、そこじゃなくて…!」
「あ、ねぇ、ドラマの中の2人この後絶対えっちする流れだよ。まぁドラマの中では流れないだろうけど」
「ちょっと、人の話聞いてる…!?」
「聞いてる聞いてる。でさ、ドラマを体験するなら、僕達もえっちしなきゃじゃない?」
「え…?、ん?ちょ…ッ」なんやかんやで無事ナマエをソノ気にさせることができた(?)僕は、彼女をベッドルームに連れて行き、たっぷり思う存分彼女を抱いた。
僕のことそっちのけで太郎くんに夢中になったことへのお仕置きもちょーっとだけしたけど、その後はちゃんと可愛い可愛いナマエを愛でるために優しく抱いたよ?
何よりもナマエが可愛いかったし、ベッドの中でたくさん「悟くんが好き」って言ってくれたから、まぁ彼女は許すとしよう。でも太郎くんは許さないから、しばらくナマエの前に現れないでね?
………なんて、子供染みたこと思っちゃったりして。
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