東京に着くとスマホのナビを頼りに神社を目指した。やはり東京(ここ)は人が多い。
シンは、ぶつかりそうになりながらなんとか人を避けて歩いて行く。
湊はシンの前方を人混みを避け慣れた足取りで歩いていた。
ついていくのが精一杯なシンを見かねて、
「ほらっ……」
手を差し出した。
「いえ…こんな人混みの中じゃ…」
さすがに手を繋ぐ事は出来ない。と、シンが断ると
「誰も他人の事なんか気にして見ちゃいねぇよ」
周りを見渡すと行き交う人達は皆、忙しなく歩いている。
確かに……。
湊の優しさに甘える事にした。
本当は東京に来たくは無かった…。
湊は最後まで悩んだ。
ツラい思い出が蘇るから…。
1人で来ていたらきっと逃げ出していただろうが、今は隣にシンがいる。
どうしても神社に行きたいと言うシンの願いを叶えてあげたいと覚悟を決めてやってきた。
途中、シンが湊を見かけたあの交差点の信号が赤になり立ち止まる。
「懐かしいな……」
ボソッと呟くシンの言葉を湊は聞き逃さなかった。
(懐かしい……?)
信号が青に変わり一斉に歩道を人々が行き交う。
「その先を右です。湊さん」
ナビを見ているシンが湊に指示を出す。
「お…おう……」
しばらく見ない間にずいぶんとこの街は様変わりをしてしまっている。
当時歩いたはずの道が無くなって建物が建っていたり、通っていたお店も違うお店に変わってしまっていた。
ナビが無ければまともに歩く事すらままならない。
そもそも、当時は酔っていて神社の場所さえ覚えていないが…。
しばらくシンの指示通りに歩くと目的の神社にたどり着いた。
「ここだ…」
何気なく歩いていれば見落としてしまう位に小さな神社。
そこに祀られている猫に見覚えがあった。
境内を見渡すと御参りをした。
横を見るとシンが手を合わせている。社をじっと見つめる瞳が少しだけ涙ぐんでいる様に見えた。
「シン…?」
湊が声をかける。
「湊さん…サンタの帽子良く似合っていましたね…」
遠い目をしてシンが言った。
「サンタの帽子?なんの事だ?」
シンの言葉の意味がわからない…。
「ホワイトクリスマス…でしたよね…」
「……?」
シンが投げかける言葉がヒントになりあの日の記憶の糸が解れていく。
そう言えば…確かに次の日、枕元に赤い帽子が置いてあった。昨夜は、こんな帽子を被って街中を歩いていたのかと思ったら恥ずかしくなった記憶がある。そして、窓の外を見ると薄っすらと雪が残っていたような……。
どうしてそれをシンは知っているんだ…?
湊は何か言いた気にシンを見つめた。
「あの日…俺、東京に来てたんです…」
初めて聞くシンの告白に湊は驚く。
「はっ……?」
「お小遣い貯めて冬休みに来たんです…東京…」
「そんな事今初めて聞いたぞっ!!」
「今、初めて言いました」
「何やってんだよ………」
呆れる湊に
「どうしても湊さんに会いたくて…」
そう言ってシンは湊を見つめる。
「お前はっ………」
続く言葉を飲み込んだ。
所在のわからない自分を探す為にきっとシンは必死になってお小遣いを貯めたのだろう。
見つけられる確証なんてないのに…。
それは博打に近い賭けだ。
なんて、バカな事をしたんだ…。とは言えなかった。
それ程までに自分を想い行動したシンを愛おしく思ってしまった。
『懐かしい…』
湊はシンのさっきの言葉を思い出した。
あの言葉はそういう事だったのか…と、納得した。だが、帽子の事は今の今まで忘れていた。だから、シンが知るはずがない。
「それで…?俺を見つけたのか…?」
そんな問いを投げかける。
「いえ…見つかりませんでした…。いや、正確にはさっき立ち止まった交差点で湊さんを見掛けました…でも見失いました」
「だろうな……」
もし湊を見つけていたのなら、シンなら強引にでも湊の家まで付いて来て押しかけていただろう……。
ただまだ、わからない事がある。
シンが神社(ここ)に来たいと言った理由がわからない。
報告とは…なんの事なのか…。
「なぁ…お前はなんでここにこだわるんだ?わざわざ東京に来てまで御参りしたいだなんて…」
「湊さん。ここでキーホルダー見つけたんですよね?」
「あぁ…」
「これと同じ…ですよね…」
そう言ってシンはポケットから真新しいキーホルダーを取り出した。
胸にはМの刺繍が入っている。
「お前…それをどこでっ……」
あんなに探したのに見つけられなかった。どこを探してもМの刺繍の入ったキーホルダーなんてなかったのに…
「湊さんがここで見つけたキーホルダー。あの日俺がここに置いて行った物です…」
「まさか………」
そんな偶然があるはずない…。
あの日、シンが俺を見かけた交差点からこの神社まではかなりの距離がある。
しかも、入り組んだ場所にある神社(ここ)にたどり着くのは地元以外の人間には難しいだろう。存在を知らなければ通り過ぎてしまう位の小さな神社だ。
同じ日に、俺とシンがこの場所に来る確率はほとんど…いや、確実にゼロに近い。
なのに…
「この刺繍は、俺が湊さんの為に縫いました。だから湊さんがどんなに探しても同じ物は見つけられない。見つかるわけがないんです…」
もし…もし、それが本当ならそれは偶然なんかじゃない…
直接ではなかったとは言え、俺はシンからの贈り物を受け取っていたことになる…。
これは…偶然と言うひと言では片付けられない…
「…湊さん……?」
湊はシンを抱きしめていた。
頭で考えるより先に身体が動いていた。
なるべくしてなった…。
出会うべきして出会った…。
俺とシンは……。
あの日幼いシンをプールで助けたのも…隣に住む事になったのも…互いを好きになったのも…全てが偶然ではなく必然だった…。
「あの日、俺はこの場所でお願いしたんです……湊晃を俺にください…って……」
湊の瞳が潤んでいく。
ようやく全てを理解した。
あぁ……だから御参りではなく報告だったのか……と……。
湊はシンの顔を見つめそのまま口づけた…。
シンは少し驚いた顔た後、湊を抱き返し深く口づけた。
周りなど気にする事なく。
この必然を運命だと感じて………。
その日泊まるホテルに着くと湊はシンに質問した。
「俺を探しに東京まで来たのに見つけられなかったあの日、お前はどんな気持ちで地元に帰った?」
「自分の愚かさを思い知りました…」
「泣いたのか…?」
「悔し泣きです」
「ばかだな……」
「俺が地元に戻った時はどんな気持ちだった?」
「2度と離さないと誓いました…」
「ふっ…誰にだよ……」
「絶対に俺のものにすると…自分に…」
「ばーか……」
「……」
「じゃあ…………今」
「はい……」
「……」
「……」
「お前はどんな気持ちで俺を抱いている…………?」
【あとがき】
犬派と猫派どっちと聞かれたら即答で猫派と答えます。
なんの話?笑
簡単にですが、書き上がりました♪
いかがでしたか?
わからない方の為に…こちらの作品は、ずっと隣で…の番外編になります。原作とは内容が異なりますので、わからない方は本編をお読み下さいね。
それでは、また次回作でお会いできますように…
月乃水萌
コメント
7件
本当に最高です✨ しんみなのストーリー大好きです♡♡ 湊さんもキーホルダーがしんの手作りって分かってよかった(*^_^*)
ちょっと遅れちゃいました🙏🏻 毎回自分からのプレゼントはいいね100です‼️次のお話も楽しみに待ってます♪
やばい…ほんとに天才ですか!!!🥹 最高すぎました♪ 次のお話も楽しみにしてます!!😊