「それに、挙式の予行演習にもなるだろう?」
「……挙式の予行演習だなんて」
いずれは彼と式を挙げることもあるのだろうけれど、そんなこと考えただけでものぼせてきちゃいそうで……。
「楽しみにしているよ」
彼の手で前髪が掻き上げられ、おでこにチュッと口づけられる。
「ああ、それと私たちはクライマックスの登場だからね」
席を立つ際に、事もなげに言われて、
「クライマックスですって!?」
思わず語尾が跳ね上がったが、そこにはもう彼の姿はなかった……。
デモンストレーション当日──
バックステージでメイクをしてもらいながら、私の緊張はピークに達していた。
どうしよう……すごくドキドキしてきた……。
男性と女性のフィッティングルームは別々になっていて、頼みの綱でもあるはずの蓮水さんの姿もそばにはなかった。
鏡の中の表情が固く強張っているようにも見えて、ますます不安に駆られる私に、
「そんなに緊張されないでくださいね」
と、ヘアメイクをしてくれている女性スタッフさんが声をかけてくれた。
「蓮水CEOのパートナーだなんて、うらやましいなって思っちゃいます。たまに女性を伴うシーンに見合うスーツをセールスする際には、男女のペアになることもあって、みんないつかはCEOとあのステージで腕を組めたらなんて、憧れを抱いていたのですが、CEOだけは『本当に愛せる人ができるまでは、誰ともパートナーは組まないよ』と、いつも笑っていらして。だから、あなたがパートナーになることを知らされて、ああ本当に愛される方ができたんだなと……」
鏡に映ったスタッフさんへ、
「あの、えっと、私などがお相手になってしまい、申し訳なくて……」
恐縮しきりの思いで口にすると、「違うんです」と、首が横に振られた。
「……お幸せそうでよかったと思っていて。CEOには、お幸せになってほしいって、みんなが思っていたものですから。けれどステージでパートナーを組まれるようなことは、一度もないままで……。奥様を亡くされた分まで、お幸せであってほしいというのが、私たちみんなの願いだったんです」
「……ありがとうございます」
自然とお礼の言葉が口をついた。そんなにも彼が周囲の方たちから愛されていたことを知らされて、そうして私がその彼のパートナーになれることが、心から晴れがましく感じられた。
「だからどうか緊張などされないで、CEOのパートナーを胸を張って務められてくださいね」
スタッフさんの笑顔に、「はい」と返すと、いつかホテルの廊下を二人で歩いた時のように、彼の隣で誇らしくいられたらと思えた……。
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