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睡蓮
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#異能力バトル
名無の男2
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水瀬葵
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「顕現。 『少数派』の構成員である私すら知らない、謎の力。 私の情報網には引っかからず、どうやら上層部にしかその詳細は知られていないようだが……。 図書委員、お前が私たちに見せたあれは何だ? 権能か? それとも別の何かなのか?」
顕現。
カフカが図書室で見せたあれは、野崎達が権能と呼んでいたそれとは一線を画すほどの特急の異常だった。
あれについてオレと野崎が知っていることはほとんどない。
だが、以前に『廃棄物』のジョン・ドゥからラヴェンダーについて情報を聞き出した時、あいつはラヴェンダーの持つというふたつめの権能について触れていた。
もし、それがアナザーを示す発言だったとしたら。同じ『分派』に所属するキャンディとメレンゲも何か知っていたっておかしくなさそうだ。
「……私も、ほとんど分かりません。 あれが、何の力なのか……。 権能と同じ、ファンタジー小説やライトノベルに登場する異能力、超能力の類い……、であることは分かります、でも、明らかに権能とは違う、別種の存在、です……。 私の場合、顕現を使うと人格が強制で交代してしまうので、感覚的な意見が参考になるかどうか、分かりませんが……、権能と顕現は、仮面の表と裏のような関係に感じ、ます……。 似ているようで、近いようで、真反対みたいな異能……」
「感覚論を聞きたいんじゃあない。 何か確かな情報はないのかよ?」
「……私が、『少数派』から追放されているのはご存知ですよね……? その理由もご存知ですか……?」
「いいや」
「……私はあの黒い仮面の方から、権能を貰って……、他の方々と同様に簡単な訓練を受けて作戦に投入されるはず、でした。 ですが私は……、身体が弱くて。 実戦投入は難しいと判断されてしまって……。 しかも、幹部の方によるとこの仮面の能力は危険で……、いつ暴走するか分からない力だと警戒されたんです。 皆さんと図書室で争いになった時のように、いつ第二人格に切り替わって暴れるか分からないから……。 でも、排除するには惜しい稀有な力を持っていると。 その時に初めて『顕現』という存在を聞かされました」
「……『少数派』の人事関連はラヴェンダーが中心になって取り回しをしていた。 危険存在を組織内部に置いておく危険は取りたくはないが、処分するには有用な能力を持っている。 故に、常に監視のできる位置で飼い殺す……。 あの男のやりそうな事だよ」
「追放を言い渡された時、その追放理由を仰られる中でラヴェンダーさんは顕現について、こう言及されていました……。 顕現とは、仮面の本質、その真髄の実体化だと。 私たちは、自身が抱えている負の念や欲求を糧にして仮面から能力を引き出しています。 それが、権能……。 それに対して顕現は、仮面から力を引き出すのではなくて仮面に己を喰わせる行為に近い、と……」
……カフカの話は、あまりに抽象的でよく理解できない。
恐らく本人もしっかりと裏取った情報を持っていないから自信を持って話に出せないのだろう。
「……権能とは仮面から能力を借りて執行するもの。 対して顕現は仮面に自身を喰わせる……? 今まで自在に扱ってきた道具に、逆に乗っ取られるとでも言いたいのかよ?」
「えっと……、乗っ取られると言いますか……、心も身体も仮面と同化する、と言う方がずっと近い表現かもしれません」
……図書室で第二人格に飲み込まれかけていたカフカの姿は、乗っ取られていたって言い切っていいくらいのもんだった。
あれが同化だっていうなら……、そいつはかなり歪な視点だとしか思えない。
あれは、明らかに仮面に被らされていた。
「図書委員の話……、理屈は分かる。 私たちが仮面から力を引き出して利用しているという前提が真実なら、同化なんてことが出来れば仮面の持つ本来の力を100パーセントで執行できる訳だからね。 でも図書室で見たあの姿は同化なんて生易しいものじゃあなかった。 あれは、宿主を操作する寄生虫みたいな様子だった」
「自我はあるんです、でも、思考と行動までのプロセスに、知らない誰かの検閲が入ってる、みたいな……。 すごく不気味なんですけど、仮面が、明らかに私の思考に介入してきてるって、分かるんです。 感情が、口をつく言葉が……、心の決定権を半分近く奪われてるみたいな感じがするんです……」
「……顕現。 恐ろしく厄介で、扱いの難しい代物だね……。 使用すれば強力だが、我を失いかける危険性を孕むなんて」
「じゃー、権能が必殺技で、顕現は超必殺技みたいな感じかな? 強い技使ったら、消費MPとか大っきいもんねー」
「ならよ、もし顕現を使える仮面持ちとぶつかることになって、そいつが我を失わず顕現を扱えるようなら、そいつは力に慣れてるってことだよな? お前の組織の幹部以上のクラスにあたる、強い仮面持ちってことか」
「ああ。 それか、元から我を失う余地がないほどに正気を失っている、イカれた奴だね」
それからもこの中で唯一、顕現を使用できるカフカに質問が集中したが……、ほとんど明確な答えは得られなかった。
顕現を使えるようになったのは突然のことで、ある日に図書準備室で隠れて泣いていた時に発現したものだと言う。
彼女の権能の代償は視力の低下で、顕現を使うと権能を使った時よりずっと目の負担が大きいこと。しばらくは視界がぼやける程の視力低下、つまり、権能より顕現の方が代償は大きいこと。
そのあたりで、情報は打ち止めになった。
元より権能という異能自体、謎の深い異常物だ。科学的に解明されたワケでもなく、理解し難い存在……。それなのに、その派生を把握しようなんて無理な話だった。
「今はこんなところか? まだ情報が少ないね、これでは顕現を知ったとは言えない段階だ。 各人、これから顕現について新しい情報を拾ったらすぐに共有するように。 出し惜しみは無しで、不確定な情報でも構わない。 今は眉唾でも収集したい」
権能と顕現。
どちらも、存在すること自体が未だに信じられないようなファンタジーの世界の産物だ。
情報を集めようにも、逆にぶつからないよう警戒しようにも……、どうすりゃあいいか分からねえよ。
「まるで投げやりに感じるだろうけど、現状、顕現に有効な対策はない。 死なないように逃げろ、としか私からは言いようがないね。 ……では最後に、組織について話そう」
野崎の手で、机の上に文房具が並べられる。
消しゴムと、紙綴器の針箱。そして箱から取り出された五、六針の塊。
これら三つを繋ぐように鉛筆が置かれて、三角形になっている。
「今、仮面の界隈に存在する組織は三つ。 この針箱は『少数派』だ。 最大規模の仮面集団。 指導者EXEの持つ何らかの狙いを達成するために活動している。 『少数派』に参加した者は仮面を与えられ、願いをひとつ叶えてもらえる。 テロは構成員の願いを叶えるために行われており、金持ちになりたい者のために現金輸送車を襲撃したり、昔の恋人に復讐したいという者のために一般人の拉致監禁にだって手を染めている。 本来は許されざる悪の集団だが、私の様に未来もなく、生きること気力を失った力なき者達、限界の者らにとっては最後の希望とも言える居場所さ」
「ってことは、その箱から取り出されたこの針の塊が『分派』か?」
「そう、『分派』。 『廃棄物』。 指導者ジョン・ドゥも元は『少数派』に属していたものの、組織のやり方に反旗を翻し、仲間を連れて独立した組織だ。 君たちが、そうだろう?」
「うんー、仮面を貰ったのはEXEからだけど、なんか毎週毎週仕事しなくちゃでダルかったんだよねー」
「……『少数派』とは言えど、結局は社会的弱者の集まりだ。 君みたいに、利己的な理由で組織に顔を出さなくなる者もいる。 でもね、そういう奴は必ず処分される。 ラヴェンダーはそれを許さない。 警告もなく、情報漏洩防止のためだけに仲間を消す。 でも君たちはまだ殺されていない。 きっとそれには理由がある。 ジョン・ドゥの隠し持つ、ラヴェンダーを威圧するに足りうる何かが」
「ジョンジョンがどーかしたのデスカ?」
「恐らくあの男には、『少数派』が手を出せないほどの何かがある。 恐ろしい権能か、それとも他にコネでもあるのか……。 そうでもなければ、あのラヴェンダーが内情を知る裏切り者を生きて残しておくとは思えないからね」
廃墟ビルであいつと会った時……、底知れない不気味さを感じた。
適当にブラブラと生きてきました、みたいな格好してフランクに話してくるが、その実、どこまでが本性で建前か……、全く分からない。本当に掴めない男だった。
あの不気味さの正体が、野崎の言うラヴェンダーを威圧するに足りうる何かだとしたら。
……あいつの目的は何なんだ?
そんな力を持って、『廃棄物』を作って……、きっとただの仲良しグループがやりてえってワケじゃねえはずだ。
別組織の野崎のいる前でそれを御山たちに聞いても、答えてくれないことくらい目に見えてるから聞きはしないが……。
「こうして、『少数派』から『廃棄物』に向かって伸びる鉛筆の通り、私たちと君たちは半敵対関係。 ただし、『少数派』はジョン・ドゥの持つ何かを恐れて手が出せず、『廃棄物』は闘争の意思がなく、戦おうにも数的不利でパワー不足と言える。 つまりは、停戦状態だね」
「……じゃあもしジョン・ドゥが急に交戦意思を持っちまったら、お前らは戦争になっちまうんしまゃねか?」
「あぁ、そうさ。 もう分かっていると思うけど、だからこそ、ここでこうして部活動をしていること自体、本来はおかしなことなんだ」
「そりゃあ言われる前から分かってるよ、この状況がどんだけクレイジーなことかってことくらいはさ」
でも、だからこそ集まる知恵もあるだろうという狙いだから仕方がない。
それに、このメンバーが仲間になっていることは、学内に敵がいないことを意味している。それだけで安心感は半端ない。ここまで何とか生き延びれているだけで、これから先もこいつらが敵だったら……、きっとオレの命はない。
このクレイジーな状況が、オレを救っている。
「ここまでの二組織はさほど問題ではない。 今、仮面の界隈で持ち切りの話題は……、こいつらだ」
『少数派』と『廃棄物』、両方に向かって鉛筆を伸ばす消しゴム。
「……『特務課』。 仮面を追う国家権力組織。 これが厄介だ。 私たちの諜報班の情報によると、奴らが抱き込んでいる仮面持ちは七人。 出処不明の『鍵』を使用した武装集団で――――、」
「ちょ待て待て! 警察なのに仮面持ってんのかよ!?」
「そうか、そこからか……。 ああ、奴らは私たちと同じように、異能の仮面を持っている。 EXE以外の者が持つ『鍵』――――、つまり、権能を発現させる権能を持つ者が身内に居るのだろう。 その者の『鍵』を利用して仮面持ちを増やしている」
「……仮面ってのは、テロリストの証だとばかり思ってた。 警察は少ない情報からお前らを追っているだけで、仮面についてはまだほとんど情報を掴んでないんだって……、そう思っていた」
「事実はそうじゃあない。 奴らは権能を操り、権能犯罪を防止しようと最先端技術を応用した対テロリスト兵器の開発を進めている。 その象徴が、現在国内の自衛隊基地に試験設置されていると囁かれる権能観測装置だ。 どこかで権能が使われた時、そこから放たれた『引力』を検知し、その発生位置を特定する厄介なシステムを搭載しているようだよ」
権能の発生位置を特定する……!?
そんな代物があるなら……、図書館の一件なんかは全部『特務課』にバレバレだったってことかよ!?
「煌、君の考えていることは分かる。 だけど一旦は安心していいみたいだよ、先日の件はまだあちらに気づかれていないようだからね。 装置の破壊工作に向かった組織員からの報告によると、装置の完成度はまだまだ低いらしい。 あくまで試験設置で、センサーは鈍感。 誤作動も頻発する失敗作。 きっと私たちの放った『引力』も監視網からすり抜けて助かったのだろうよ。 そうでもなければ、すぐに校内に全身武装の特殊部隊が突入してきていたに違いないからね」
「失敗作っつったって、権能を使ったら見つかっちまう可能性がねえワケじゃねえんだろ?」
「そうさ。 恐らく、携帯の無線電波のように検知しやすい環境、しづらい環境があるのだろうよ。 だから先程の様に、気軽に権能を使ってはいけない。 一瞬の微弱な『引力』とはいえ危険なんだよ」
「めちゃソーリーですヨー!」
「メ、メレンゲさん……。 本当に、ご理解されているのでしょうか……」
……これまで権能が検知されてなかったのは、あっちの未完成が幸いした結果。ただ運が良かっただけ。警察が目を光らせてるってんなら、これからは権能を使うのは控えなきゃなんねえ。
てか、そうなると怖えのは……
「……この中で一番不安なのは煌、君だ。 君は先の戦いで権能を暴走させている。 図書委員の様に第二人格でも芽生えたか、発狂したかと思ったがあれは……、暴走という表現が最も適していた。 それほど、君は荒れていた」
「その話は昨日、お前からこっ酷く聞かされたよ。 皆、本当に悪かった。 マジですまねえって思ってる。 ……でもさ、正直、オレがやらかしちまったって実感は、あんまりねえんだ。 暴れてたって記憶はほんのりあるんだけどさ、なんか……、自分だけど自分じゃない……、まるでモニター越しにゲームのキャラクターを操作して滅茶苦茶してた、みたいな……」
「その話だって何度も聞いたさ。 私が言いたいのは、もしもまた暴走するようなことがあったら、今度こそ『特務課』に検知されてしまうぞ、ということだよ。 先日の様に私たちが総力で君を止めようものなら、私たちも捕まってしまう。 勘弁してくれよ、って意味さ」
「ンなこと言ったって、なんでああなっちまったのかはオレにも……」
暴走していた時の記憶は朦朧としている。が、あの時に感じていた快感は、今でも身体の底に残っている。蝋燭の小さな火が、オレの奥で揺らめいている。
何もかもを壊してやりたいって、そんなヒリつきを思う存分に叶えた瞬間……、快楽の壺の中で身を捩らせ、その興奮を種に燃え盛った猛火の残り火。
あんなことにはもう、なりたくはない。今度は仲間を傷つけるどころじゃあ済まない事態になる。
だがその反面……、またあの快楽を味わいたいと、潜在的に唾液を垂らす自分がいる。今や今やと闇の中で機会を待っている、欲求の塊みてえなドス黒い影が――――、
「これで基本は頭に叩き込んだな? 明日からの活動は――――、」
「修学旅行! デスネ!?」
「……それは明明後日からだ」
「修学旅行! 楽しみすぎデスガ!?」
「はァ……、まあ、学校行事への参加は学生という隠れ蓑の補強になる。 仮面の界隈でこれから活動していくためにも、一般人らしい側面を用意しておくことはアリバイに――――、」
「オキナワ! シーサー! チラウミ・アクアリウム! ジエータイキチ! ホンドケッセン! あと、あとー!」
「……まあ、いい。 好きにしろ! では次の部活動は来週の頭にする。 放課後にここで集合だ。 今日話したことを忘れるなよ、解散」
修学旅行、か……。
準備はしてるけど。転入とかでずっとドタバタしてたから、時間感覚的にはまだまだ先の行事だと思ってたな。
行先は沖縄。正直なところ、そこまで思い入れはない。海の綺麗な場所、程度の知識量だ。
だけど……、楽しみだ。
権能から離れて普通の学生らしい生活が確定している期間があることが、なんだか嬉しいから。
「……ヒーロー、なんかニヤついててキモいよ」
「酷え言われようだな……」
コメント
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「アナザーと権能の関係、めっちゃ深い話だった…!仮面に喰わせる感覚って、カフカの苦しそうな様子考えると冗談じゃ済まないな。でも設定の重厚さが刺さるわ。特務課の存在も含めて、世界観が一気に広がった感覚。修学旅行前の静けさが逆に不気味で、今後の展開が楽しみすぎる🔥」