テラーノベル
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今日って本当にクリスマスなんだろうか。
全く実感が湧かないのはこんな夜更けに仕事に駆り出されたせいだろう。
寒い、とにかく寒い。
かと言って厚着し過ぎると討伐の邪魔になる。
防寒具にも限界があるし、 寒がりの僕からしたらただの拷問でしかない。
聖なる夜に祈りを、とか言うけど今はそんなの全く信仰できそうにない。
祈りが届くのなら今すぐ家のベッドで寝させてくれ。
疲労が溜まって今にも崩れ落ちそうな体でなんとか必死に歩いていると眩しい程の光が目に飛び込んできた。
そこまで大きくはないけれど、待ち合わせ場所としては有名な駅前の広場。
その中央あたりに立てられた、キラキラと輝くクリスマスツリー。
周りの枝だけになった落葉樹にもイルミネーションが施されており、その広場だけが暗闇から切り離されたようだった。
あと1時間もしないうちに日付は変わり、クリスマスも終わるというのにそれすらも全く感じさせない煌びやかさ。
暗所からいきなり光を浴びたせいで目にしみたのか、単に疲れていただけなのか、なぜか急に泣きそうになってきた。
光と姫はもう寝たかな。
2人にも見せたかったなぁ。
蒼井は赤根さんとイルミネーション見に行ったりしたのかな。
あぁでもどうせ振られてるし行ってないか。
このイルミネーションも綺麗だけど、1人じゃいくらなんでもちょっと寂しい。
せっかくなら蒼井と見たかったなぁ。
できればこんな夜中じゃなくてもっとマシな時間に。
キラキラと輝くツリーに思わず見惚れていると、数人が駅の改札から出てきた。
サラリーマンがほとんどで、みんなやつれた顔をしている。
クリスマスなのに大変そうだな〜、と他人事のようにその光景を眺めていた。
見慣れた景色なのか、誰もツリーには見向きもせず、そそくさと散っていく。
その中で1人だけ学生がいた。
手元がかじかんでいるのか、ICカードを落としかけながら改札を通っていた。
なんだか蒼井を見ているみたいでちょっと面白い。
あれ、でもあの制服ってもしかして…
「…..蒼井?」
「ぅわっ びっくりした! 」
スマホを見ながら歩いていたせいで前から来た僕に気がつかなかったらしい。
コートとマフラーで身を包んだ蒼井は、いつもよりもこもこしていて少し幼く見える。
「なんでこんな時間にこんなとこいるの?補導されるよ?」
「あんただって人の事言えないでしょ」
「僕は塾行ってたんです。電車遅延してめちゃくちゃ遅くなりましたけど」
「へぇ〜クリスマスに?残念だね、可哀想」
「お互い様でしょ、あんたも大概可哀想ですけどね」
補導されるからと帰りたがる蒼井を引き止めて無理やりイルミネーションに注目させる。
相変わらず微妙な反応しか返ってこなかったけど僕は楽しくて仕方がなかった。
蒼井は僕のことを特別だとは思ってない。
敬意も好意もたぶんそんなにない。
それをわかっててこんなに蒼井が好きなんだからこれはただの自己満だ。
なのに僕には諦める気も誰かに譲る気もないらしい。
自分でも本当に面倒くさいと思う。
でも好きになっちゃったんだから仕方がない。
というか、蒼井とイルミネーションが見たかったという願いは叶ったんじゃないだろうか。
もっとマシな時間に、の部分は考慮されていないが。
やっぱり祈りって届くものなんだ。
クリスマスってすごいな。
「蒼井は赤根さんデートに誘ったりしたの?」
「当たり前じゃないですか、1ヶ月前から誘いましたよ 」
「断られましたけど」
想像してた通りで思わず笑ってしまった。
その熱意が僕に向けられることはこの先一生無いんだろうけど、もういっそそれでもいい。
この恋はただの自己満だから。
「うわ、もう時間やばい。僕帰りますね」
スマホを取り出し時間を見る。
もうそんな時間か。
「え〜もう帰っちゃうの?いいじゃん冬休みなんだから」
「生徒会長が言うセリフじゃないですよ」
仕方ない、僕もそろそろ帰ろう。
蒼井と喋ってたから気が紛れてたけど今日は本当に疲れた。
今すぐ寝たい。
あ、そうだ。まだ蒼井に言ってなかった。
「蒼井、メリークリスマス」
「……You too」
思わず吹き出した。
英語って……
ちょっと顔を赤くしながら言うもんだから笑っちゃう。
普通にメリークリスマスって言えばいいのに。
そういうところも好きだけど。
「…やっぱり蒼井だね笑」
「…は?」
コメント
2件
源輝の心の声が原作と変わっていなさそうで滅茶苦茶蒼井茜の事を好きになってるの最高に好きです🫶 イルミネーションを見ている少し幼く見える蒼井茜と疲れに疲れきって足が震えそうな源輝を想像しただけで倒れそうです 可愛すぎんだヨっっっっ今回も滅茶苦茶に素晴らしい作品でございましたありがとうございましたンゴ