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「ごっ‥ごめん」
「大丈夫だよ」
「お腹に赤ちゃんいるんだもんね。ゴメンなちゃいねぇ。痛かったでちゅか?」
僕は葵のお腹に耳をあてて、そう言った。
「もぉ~そんな事言ったってわかる訳ないでしょ。妊娠4週目だから1.5~10ミリくらいしかないんだよ。まだ人間の形すらしてないんだからね」
「聞こえなくたって、思いは通じるって」
「そう言われちゃうと何も言い返せないけど…」
「ところで予定日はいつなの?」
「来年の10月が予定日よ」
「10月って…僕と同じ誕生日になる可能性も?」
「充分あるよ」
「そっかぁ、楽しみだな」
葵が妊娠してるとわかってからは、仕事にも気合いが入ったし、父親としての自覚も次第についてきた。
それに上司や先輩方が気を遣ってくれて、飲みに誘われる事は少なくなった。
また、休日は葵の定期検診に産婦人科まで一緒について行き、先生の話を聞くようにしていた。
僕の楽しみは子宮の中を写しだす、超音波検査だった。
最初見た時は豆粒のような形をしていた物が、病院に訪れる度にどんどん大きくなり、人間の形に近づいて行く姿は感動ものだった。
だから、検診の度にもらっていた超音波検査の写真をアルバムの中に収めるのが楽しみで仕方なかった。
そして妊娠3ヶ月に入ってくると、葵はつわりがひどくなり、食欲もなくなり、食べる量も減っていった。
だから仕事の帰りにスーパーに寄って、ゼリーやヨーグルトなどサッパリした食べ物を買って帰るようになっていた。
でも、妊娠5、6ヶ月に入ると、つわりは徐々におさまり、食欲は戻っていった。
というより、妊娠前より食欲旺盛で、しょっちゅう何かを食べていた。
“赤ちゃんの分まで栄養を摂らなきゃ”なんて言っていたが、本屋で買った妊婦の本を見てみると、そんな必要はないと書かれていた。
それよりも食べすぎて体重が増える事により、妊娠中毒症や妊娠糖尿病になる可能性が高くなると書かれていた。
もちろん定期検診で病院に行けば、先生に怒られるのは当然の結果だった。
だからこの頃から、葵はカロリーの摂り過ぎに注意しつつ、妊婦に必要な栄養の摂取を考慮して食事を作っていた。
更に数週間が経つと、葵のお腹は徐々に大きくなり目立ち始めてきた。
この頃になると葵は胎動を感じるようになり“赤ちゃんがお腹を蹴った蹴った”と嬉しそうに叫んでいた。
もちろん僕も、葵のお腹に手をあてたり、顔をくっつけたりして赤ちゃんが動いているのを1日に何度も何度も確認しては喜んでいた。
また、お腹の赤ちゃんに話しかけたり、お腹をさすってあげながら子守唄を歌ってあげたり、胎教に良いという音楽を聞かせたりした。