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夏の匂いになってきたね。 そう彼氏に告げた。
彼氏からはこう返ってきた。
「え? 夏の匂いってなに?」
少し驚きながらも困惑しているのが伝わってくる。
私は理解できなかった。夏の匂いが分からない? 彼にとっての夏はなんなのだろうか。
ただの暑い季節なのだろう か。
あの、緑に生い茂った葉っぱの匂い、
カラッとした空気の匂いに、たまに吹く
生暖かい風、蝉の鳴く声、青と白が入り交じる空
全部揃ってこそ夏になったんじゃないの?
私は田舎で育ったものだから生い茂った若葉の香りにはたくさんの思い出がある。
そんな小さなことを共有できないことを知った。
どんな環境で生まれ育ったか、何に目を向け見聞きしてきたのか。
そんな些細な違いで私たちはすれ違っていくのだろう。
なんだか寂しくなり私は口を喋んだ。
夏の匂いがそっと私の鼻をくすぐった。