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福岡県庁の神室に揺神の怒声が響き、その声量にガラスがビリッと震えた。
「味噌カツ100人前だと…!?」
組んだ足を勢いよく地に着け、隣に立つ細身の隣県をサングラス越しにギロリと睨む。細い煙が立ち上る灰皿の隣に味噌カツの入ったダンボールを置く。佐賀に差し出された請求書をひったくるように受け取り、値段を見てはワナワナと手を震わせるとぐしゃりと紙にシワがよった。
「…あんのダサケバ女ァ!」
請求書をテーブルに拳と共に叩きつけると煙草の煙が揺らめいた。ポケットからスマホを取り出すが、怒りの度合いが強いのか画面をタップする音が大きい。
佐賀はチョコとクランチの付いたアイスを1口齧り、福岡のスマホの画面をじっと見つめる。その画面には大粒のイチゴが写っている。甘い、丸い、大きい、美味いの頭文字を取った博多あまおう。最近は値段が高騰しており、場所によっては1000円を超えるブランドのものだが、そのイチゴを100パック注文しようとしていた。
「…愛知に送るのか」
「おう、やられっぱでたまるかよ!」
「食べきれなかったら、イチゴがもったいないんじゃないか?」
1粒1粒が大きく、1パックでも十分だが、それを100パック。毎食1パック食べても1ヶ月以上かかり、傷んでしまう。ジャムなどにする手もあるが、あまおうをジャムにするのは少し気が引ける気がする。また、約1000円×100で10万円を超えるため、愛知の財布がとても寒くなる。
「…それもそうだな……」
渋々頷くと福岡は今度は明太子のサイトを開いた。何がなんでも味噌カツの分は返したいようである。佐賀は福岡を止めることを諦め、スマホを開く。
「少し電話してくる」
佐賀の呟きに福岡は反応せず、そのまま神室を出て通話ボタンをタップする。数回呼出音が鳴った後に控えめな声で通話の相手が出た。
「…もしもし、どうしました?」
「申し訳ないが、愛知に謝っておいてほしい」
「へっ?な、なにかしたんですか…?」
「そろそろわかると思う」
すると通話から小さく愛知の声が聞こえた。福岡が明太子を送った通知が愛知の元に届いたのだろう。数秒間の間があって岐阜が話を再開した。
「…そういうことなんですね……」
愛知の怒声がこちらにも聞こえたところで岐阜の方から「失礼します」と通話が終わった。神室に戻ろうとしたところで福岡は妙にすっきりとした顔で扉を開けた。
「ちょうど終わったみてぇだな」
「ああ、終わった」
「今頃あの味噌カツ女は高ぇ声でキレてんだろうな」
花形の小豆の入ったアイスを1口齧るとギザ歯を福岡は見せつけるように笑い、味噌カツを嫌々言いながらも結局支払った。これからしばらく食事は味噌カツだと思うと福岡は肩を小さく落とした。
それは愛知も同じであった。
通知通りに明太子100箱と請求書が届いた。扇で口元を隠すが、眉間にシワが寄っている。茶碗一杯に対して2、3切ほどで食べ進める明太子は中々減らない。これでも岐阜などの隣県には分けた方だ。だが、味噌カツと違い、明太子はアレンジのしやすいのが救いだったかもしれない。