TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「はっ!」


不意に響いた声は

皮肉めいた抑揚を帯びていた。


次の瞬間

音もなく窓が開き

ふわりと何かが飛び込んでくる。


レイチェルの目は

飛び込んできた影を捉えた。


あのウェイターだ。


ダークブラウンの癖のある髪を跳ねさせ

琥珀色の瞳を細めた

ぶっきらぼうな男。


「よく言うなぁ⋯時也?」


男は窓の縁に片足を掛け

もう片方の足は窓の外で

まるで其処に床でもあるかのように

安定した姿勢をとっていた。


風に吹かれるカーテンが

彼の後ろで揺れ

窓の外には月が鈍く光を放っていた。


レイチェルは

その窓の向こうに目をやり

思わず息を呑んだ。


(⋯⋯こんな高さ

外から窓を乗り越えて来るなんて⋯⋯)


ー有り得ないー


窓から見える景色は

割と高さがあるように見える。


見える街灯の様子から

此処が一階では無い事は

明らかだった。


(⋯この人、今⋯⋯飛んだの?)


思考が追いつかず

言葉が出ない。


「まだ嬢ちゃんが⋯⋯

記念すべき〝第1号〟だろうが?」


男は口の端を釣り上げ

皮肉めいた笑みを浮かべていた。


「貴方⋯⋯

女性の部屋に入る時は

ちゃんとノックと

お伺いをたてるものですよ?」


時也が深くため息を吐きながら

溜め息混じりに言う。


「礼儀の躾直しが⋯⋯必要ですね?」


レイチェルは

そんな二人のやり取りを

呆然と見つめた。


「はいはい」


男は面倒くさそうに

手をひらひらと振った。


「どーせ俺は

躾もなってねぇ野良犬様ですよっと」


口調は軽く

投げやりな言葉の端々に

何処か不機嫌さが滲んでいた。


「店の血溜まり

掃除終わったから

アリアと青龍を迎えに来てやったぜ」


男が投げかけた言葉に

レイチェルの呼吸が止まる。


血溜まり⋯⋯


さっきのあの惨劇を

何とも思わないかのように

男は当然のように口にした。


ー掃除終わったー


その言葉が

あの出来事が夢ではなく

紛れもない現実であった事を突きつける。


男の服の端々には

点々と赤黒い血の痕がこびり付いていた。


乾いて黒ずみ

部屋に既に

鉄臭さが漂い始めている。


(⋯⋯やっぱり、あれは⋯っ)


夢ではなかったのだ。


手の平に蘇る

ナイフを握った感触。


肉を裂く嫌な音と

指先にまで伝わる

血のぬるりとした感触。


喉の奥が苦くなり

胃が軋み出す。


(⋯⋯私⋯本当に⋯彼女を⋯⋯刺した)


レイチェルは

言葉にならない声を飲み込んだ。


自分の手で

彼女を刺したのだ。


目の前の男の服に染み込んだ血は

その事実を残酷に物語っていた。

loading

この作品はいかがでしたか?

10

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚