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――……五年後。
国境がある湖の周辺に新しい国ができて、この世界のすべての国は和平を結んだ。
新しく創った国の名前は“スペースルクス”。
私と四人の王子たちの希望によって、この世界に光が差し込んだからという理由で名前が決まった。
戦争がなくなり、この世界は大きく変わった。
今まで争ってきた国の人と協力し合うことを受け入れられない人たちもいて、問題が起きた時もあった。
でも、信頼できる仲間たちのおかげで平和に向かって進むことができている。
お腹いっぱい食べることができるほど食料に余裕があり、素敵な服を着れて、安心できる家に住める。
今は、どの国も豊かになってきて、それが当たり前になっていた。
「スペースルクスの美術館も最高ですね。
景色だけではなく、人や物の絵も増えてきていますし。
他の人の絵を見てると、ボクももっと上手くなりたいって思います」
今日は美術館の完成を祝うためにトオルがスノーアッシュから来てくれた。
レトとふたりで温かく迎えて街を一緒に歩く。
「僕はトオルの絵も素晴らしいと思ってるよ。
城に飾ってある絵を見ていく人が多くてさ。
スノーアッシュ王がかけらを描いたんだと教えるとびっくりしていたよ」
「それは、ボクの画力が素晴らしいわけではなく、かけらさんが美人だからです」
「妻のことを褒めてもらえて嬉しいな」
「懐かしくなりますね。
五年前にかけらさんが元気になるまで四人の王子で話し合いをしたことが。
みんな、かけらさんのことが好きで、恋のライバルだと知って……。
気まずい雰囲気になりつつも和平の話をしていましたね」
「確かに。平和の話をしているのに、心の中は穏やかではなかった。
四人の王子で静かに恋の戦いをしていたね」
ルーンデゼルトで休んでいた時、そんなことがあったとは知らなかった。
今だから話せるんだろうけど、聞いていてこっちのほうが恥ずかしくなる。
「その王子たちがみんな国王になり、友好的な関係を続けている。
これはかけらさんのおかげだと思います」
「私にとってみんな大切な仲間だから。
今日はセツナとコウヤさんも来ているんだよ」
「祭壇の近くのベンチにいると言っていたけど見当たらないね」
湖の中心には祭壇があり、スペースダイヤを祀っている。
その場所を工事していた時、大昔に建てられたと思われる祭壇が見つかった。
スペースダイヤがぴたりと嵌まる台座もあったから、元々この場所にあったんだろう。
初代の最花の姫は、ここからスペースダイヤを持っていったのかもしれない。
遥か遠い昔の話だから、真実は分からないけど……。
祭壇に祀ったスペースダイヤは輝き続けていて、世界の繁栄を守ってくれている。
それだけでなく、この街も変えてくれた。
一年中春のように温かくて、穏やかな風が吹き、色とりどりの花びらが舞い続けている。
たくさんの花に囲まれた美しい街と言われるようになった。
「レト、かけら! おっ、トオルも一緒なのか」
羽織袴を着たセツナが走ってやってくる。
「セツナくん、タッチ!」
「今度はオレが鬼か。足が速いな 」
そのあとに来たのはスペースルクスの第一王女。……私とレトの娘だ。
髪は黒色で、瞳の色はレトと同じグリーンをしている。
四歳で花と走ることが好きだ。
「ママから教えてもらった鬼ごっこをしたいって言われてな。走ってきたんだ」
「僕たちの娘といつも遊んでくれてありがとう。
コウヤさんは?」
「はぁ……。みなさん……、お揃いで……」
息切れしているコウヤさんがゆっくりと歩いてきた。
「ママ、パパ。あたしね、コウヤくんより足がはやいの」
「すごいね。……コウヤさん、すみません。うちの娘が振り回しちゃって」
「いえいえ。遊びに来た時に王女の面倒を見るのが、わたしの生き甲斐になってますから。
かけらさんの娘は孫のような存在ですからね」
仲間たちが娘を大切に想ってくれていて幸せだ。
「みんな揃ったね。今晩、食事をしないかい?
王ではなく、仲間としてさ」
「いいですね。でも、レトさんのジャガ煮は遠慮しておきます。
この世のものとは言えないほど不味いとセツナさんから聞いたので」
「オレが代わりに肉を焼いてやるよ」
「わたしは、みなさんの健康のために野菜を準備しますね」
四人の王を見ていると長年争っていたことが嘘のように思える。
この世界に来て、四つの国を旅をして本当によかった。
「ねぇ、ママ。これみて!」
娘が背負っていたリュックから絵本を取り出して渡してくる。
「この絵本、持ってきたの?」
「いつももってるの。
パパがかいたから。あと、トオルくんの絵もすき!」
他の世界からやってきたお姫様と四つの国の王子様の話。
この絵本は、私が五年前にした旅を簡単に綴っている。
レトが文章を考えて、トオルが絵を描いた。
子供にも楽しんでもらえるように、分かりやすく書いてある。
「夜まで自由行動ですか。
王女、次はボクとお絵描きをします?」
「うん! お花をかきたい!
絵ができるまでママとパパにはひみつね」
「わたしたちも王女のことを見ていますから。
おふたりの時間を楽しんできてください」
「みんな、ありがとう。かけら、行こう」
レトとふたりきりになってから散歩をする。
旅をしていた時に建ててもらった小さな家の庭に向かった。
庭にもたくさんの花が咲き誇っている。
美しい湖を眺めていると、レトがマントを外して私の肩に掛けてくれた。
「二人目の子のためにも体を冷やしてはいけないよ」
「そうだね。みんなにまだ言ってないけど」
「きっと、受け入れてもらえるさ。
仲間たちがいてくれるから、こうやって幸せな世界に向かって進むことができているんだよね」
セツナ、トオル、コウヤさん。
シエルさんは旅に出ているけど、この国に家があるからたまに帰ってくる。
誰も欠けることなく、私たちの傍にいてくれる。
「あの時から、僕は何も変わっていないんだよ」
「ううん、変わったよ。
王様になって、四つの国をまとめているんだから」
「そこは変わったけどね。かけらも王妃になったし……。
でも変わっていないのは、気持ちのことだよ」
「えっ……」
色とりどりの花びらが舞う中、レトは私を抱き寄せて優しい眼差しで見つめてくる。
そして、とびきり甘いキスをくれた。
「僕にとって、かけらはいつまでも最も愛しいお姫様だよ」
――おわり――
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